中世武家社会における戦時の陣営の一つ。本陣の前方に設けたことに由来し,進撃の最先端を意味した。別に先鋒(せんぽう),前備(さきそなえ)とも称した。陣とは本来,参内公卿の列座する場所を意味したが,これより転じて後世,兵士の屯営するところを陣と称した。一般に戦闘における布陣は,大将とこれを取りまく本陣と,攻撃をむねとする先陣,さらに敵の追撃を阻止する後陣よりなっていた。こうした意味での陣営の称とは別に,先陣の語は単身で敵陣に攻撃する者を指すこともある。その場合,先登(さきがけ)あるいは先懸(駆)ともいった。《平家物語》に見える佐々木高綱と梶原景季との史上名高い〈宇治川の先陣争い〉はその例である。高名が軍功に直結する中世初期の合戦では,いやがうえでも先陣争いは激烈を極めた。しかし後世,騎馬を主体とする個人戦から足軽などの登用による集団戦へと戦闘様式が変遷する中で,前代のように個人本位の先陣争いは姿を消すようになる。
執筆者:関 幸彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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