確定判決に重大な誤りがあった時にやり直される裁判。/(1)/確定判決の証拠に偽造が判明/(2)/無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見―などが要件。本人や遺族が有罪を言い渡した裁判所に請求し、開始決定が出ると再審公判が開かれる。日本国憲法制定に伴う現行の刑事訴訟法は、無罪とされた人を有罪にする「不利益再審」を認めず、誤って有罪とされた人の権利回復のみを目的とする。
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裁判が最終的に確定すると既判力が生じ,もはやこれを争うことはできなくなるのが一般原則であるが,万一裁判に誤りがあった場合には,それを是正して正義の回復を図る必要がある。そこで,法は法的安定性の要請と具体的な判決の適正の要請を調和させるため,裁判が終わったあとでも,例外的に特別の是正方法を用意している。これは,非常救済手続と呼ばれるが,再審はその一手段である。
(1)意義 確定した終局判決に対して,法律に定めた理由にあたる重大な欠陥があるときに申し立てられる非常救済手続。再審は上訴とは異なり,ちょうど訴えを提起するときと同様の形式で行われる。確定判決の取消しを求める点では新しい事態の形式を訴求する性質のものだが,判決の取消しにより従前の訴訟手続が再開されるという点では,従前の訴訟の続行としての性質をもつ。
(2)再審事由と再審訴訟の訴訟物 再審事由は,民事訴訟法338条1項に列挙されている。大別すると,(a)裁判所の構成の違法(1号,2号),(b)訴訟代理権の欠如(3号),(c)判決の基礎資料の重大な欠陥(4~8号),(d)重大な判断のやり残し(9号),(e)別の判決との抵触(10号),である。ただし,再審事由が存在する場合でも,当事者がそのことをすでに上訴で主張してやぶれている場合には,再審の訴えは提起できない(338条1項但書)。再審は,訴状に個々の再審事由を記載して申し立てることになっている(343条3号)ことから,判例・通説は,再審事由を訴えの請求原因とみなし,再審事由ごとに別の再審を提起できると解している。もっとも近時は,再審訴訟の訴訟物は,取消しの対象である確定判決を単位に考えるべきだとの意見も有力である。
(3)再審の手続 再審を取り扱う裁判所は,その対象となる判決を下した裁判所である(340条1項)。請求権者は,一般には原判決の敗訴者である。再審の訴えは,判決確定後再審事由の存在を知った日から30日内に提起しなければならない。しかも,判決の確定またはその後における再審事由発生時より5年以上たてば,できなくなる。ただし,代理権の欠如および別の判決との抵触を理由とするときは,事がらの重大性にかんがみて,期間の制限はない(342条)。
裁判所は,請求が不適法なときは却下の決定を,請求が理由のないときは棄却の決定をする。再審事由の存在が認められ,再審開始の決定が確定してはじめて,前訴訟が復活し本案の再審理が行われる。本案審理の結果,裁判所が原判決を不当と認めれば,これを取り消して新たな判決をする。逆に,原判決を正当と認めれば,再審請求を棄却する(345条~348条)。
(4)準再審など 民事訴訟法上,裁判が決定または命令のかたちで行われた場合は,準再審と呼ばれる手続で救済する(349条)。また,行政事件訴訟法34条は,行政事件の特殊性にかんがみ,第三者による第三者再審の制度を設けている。
(1)意義 確定した終局判決の事実誤認を理由に申し立てる非常救済手続。事実誤認を理由とする点で,法令違反を理由とする非常上告と区別される。日本の刑事訴訟法は,フランス法にならい,被告人の利益の方向でのみ誤判を是正する利益再審だけを認めている。かつて存在した不利益再審は戦後に廃止された。これは,〈二重の危険〉の禁止をうたった憲法39条に由来するとされる。なお,イギリス,アメリカでは,日本,フランス,ドイツなどにあるような厳密な意味の再審制度はなく,恩赦という,行政府による名誉回復措置を活用することによって,個別事件の正義回復を図るしくみになっている。
(2)再審事由 再審事由は,刑事訴訟法435条に列挙されているが,大別して,(a)証拠が偽りであった場合(1~5号),(b)新証拠が出た場合(6号),(c)職務犯罪の場合(7号)に分類できる。(a)と(c)の事由(これを再審理由とすることをファルサ方式という)は,別にそのことが確定判決によって確認されなければならないので,実際例は多くない。
最も問題となるのは,6号(これを再審理由とすることをノバ方式という)である。同号は,無罪,免訴または軽い犯罪を〈認めるべき明らかな証拠を新たに発見したとき〉に再審請求ができると規定する。いわゆる〈証拠の新規性〉と〈証拠の明白性〉が要件とされるわけである。証拠の新規性については,だれにとって〈新た〉でなければならないかが問題である。再審が誤判を是正する最終の手段である点にかんがみ,裁判所にとって新規といえればよく,被告人がすでに感づいていた場合には新規といえないという意見もあるが,そこまで厳格に考えるべきではあるまい。証拠の明白性については,従来の実務は,新証拠はそれだけで原判決の事実認定をくつがえすだけのものでなければならないとする傾向があった。これに対し,最高裁は,1975年の白鳥決定(白鳥事件)において,〈当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきであり,この判断に際しても,再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において,“疑わしいときは被告人の利益”という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである〉と判示した。これによって再審開始の要件がかなりゆるやかになったので,従来〈開かずの門〉といわれてきた再審の門が開かれはじめたといってよい。その結果,弘前大教授夫人殺し事件,米谷事件,財田川事件,免田事件,松山事件,徳島事件など懸案とされていた多くの事件で,再審が開始されるようになり,誤判救済としての再審が,刑事訴訟法の重要問題として,にわかに脚光を浴びるに至っている。
(3)再審の手続 再審は,もとの有罪判決をした裁判所が取り扱う(438条)。請求権者は,検察官,有罪の言渡しを受けた者など(439条),請求の時期にはとくに制限がない(441条)。請求が不適法なとき,あるいは請求の理由がないときは,決定で棄却されるが(446条,447条),理由のあるときは再審開始決定が下される(448条)。これらの決定に不服があれば,即時抗告で争うことができる(450条)。開始決定が確定すると,最初の裁判のときと同じように,もう一度審判がなされる(451条)。すなわち,再審を開始するかどうかを決める再審請求手続と,開始後の再審審判手続の2段階の構造をとるわけで,これが日本の再審の特色である。再審の判決が確定すれば,原判決は当然に失効する。新しい再審の判決が,もとの判決に取って代わるのである。また,無罪判決は,公示することが要求される(453条)。
執筆者:田宮 裕
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確定判決の法的安定性と正義との調和を図るために設けられた、確定判決に対してなす非常救済手続である。刑事訴訟法では、事実認定の不当を理由として確定判決に対して行われる救済裁判をいう。再審の請求は、同法第435条に法定されている場合に、有罪の言渡しをした確定判決に対して、その言渡しを受けた者の利益のために、これをすることができる。すでに無罪の裁判のあった行為についてはふたたび刑事上の責任を問われないとする憲法第39条の趣旨から、旧法が認めていた不利益再審の制度を現行刑事訴訟法は認めていない。再審の請求は、刑の執行が終わり、またはその執行を受けることがないようになったときでも、これをすることができる。再審の請求は、刑の執行を停止する効力をもたないが、管轄裁判所に対応する検察庁の検察官は、再審の請求についての裁判があるまで刑の執行を停止することができる。
再審の請求権者は、検察官、有罪の言渡しを受けた者、有罪の言渡しを受けた者の法定代理人および保佐人、有罪の言渡しを受けた者が死亡しまたは心神喪失の状態にある場合には、その配偶者、直系の親族および兄弟姉妹である(刑事訴訟法439条1項)。再審請求に理由のあるときは、再審開始の決定をしなければならない(同法448条1項)。再審の開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる(同法448条2項)。裁判所は、再審開始の決定が確定した事件については、原則として、その審級に従い、さらに審判をしなければならない。再審においては、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。再審において無罪の言渡しをしたときは、官報および新聞紙上に掲載して、その判決を公示しなければならない(同法451条~453条、刑事補償法、国家賠償法)。
再審理由を定めた刑事訴訟法第435条のうち、とくに重要なのは、有罪の言渡しを受けた者に無罪か免訴を言い渡すべき明らかな証拠や、刑の言渡しを受けた者に刑の免除を言い渡すべき明らかな証拠、または原判決の罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠を、それぞれ新たに発見したとき(435条6号)である。再審が開始されるかどうかは、「明らかな証拠」があるかどうかにかかっている。以前は、再審理由は無罪の高度の蓋然性(がいぜんせい)がある場合にのみ認められ、「疑わしきは被告人の利益に」ではなく「疑わしきは確定判決の利益に」と考えられてきたが、そうなると、たとえば真犯人でも発見しないかぎり再審理由は認められないことになり、再審は「開かずの門」となってしまう。そこで、判例は、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいい、その判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生じせしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用されるとした(昭和50年5月20日最高裁第一小法廷決定)。この判例(白鳥事件)により、いわゆる「再審の時代」にはずみがつき、重大事件の再審無罪判決が出されるに至った。
第二次世界大戦後、再審により無罪判決が下された著名な例としては、強盗殺人被告事件について無期懲役刑に処せられてのち約50年を経て再審判決により無罪が言い渡されたいわゆる吉田石松老事件、放火事件についてのいわゆる金森老事件、殺人罪についてのいわゆる弘前(ひろさき)大教授夫人殺し事件、強盗殺人事件についてのいわゆる加藤老事件、強姦(ごうかん)致死・殺人事件についてのいわゆる米谷(よねや)事件などがある。上記白鳥事件判例の後、死刑の確定判決に対し再審で無罪判決が下され、司法界に大きな衝撃を与えた。すなわち、強盗殺人・同未遂等再審被告事件の死刑確定者に対してアリバイの成立を認めて1983年(昭和58)7月15日に無罪を言い渡したいわゆる免田事件、強盗殺人被告再審事件の死刑確定者に対して自白の真実性に疑いがあるなどとして1984年3月12日に無罪を言い渡したいわゆる財田川(さいたがわ)事件、強盗殺人・非現住建造物放火再審被告事件の死刑確定者に対して自白には客観的裏づけが乏しく信用できないなどとして1984年7月11日に無罪を言い渡したいわゆる松山事件がこれである。さらに、その後、強姦致傷・殺人事件の死刑確定者に対して1989年(平成1)1月31日に再審無罪を言い渡した島田事件がある。また、いわゆる徳島ラジオ商殺し事件では、初の死後再審につき、1985年7月9日に無罪の判決が言い渡されている。なお、治安維持法違反事件につき、無罪の再審理由と免訴の再審理由とが競合している場合に、2008年3月14日の判例は免訴の判決を言い渡すべきであるとしている(横浜事件)。また、わいせつ誘拐・殺人および死体遺棄事件につきDNA型鑑定に基づき無期懲役とした事件につき、DNA型鑑定が被告人と一致しないことが判明したとして2010年3月26日に再審無罪の判決が言い渡された足利事件がある。
なお、民事訴訟法では、裁判の確定によって終了した事件について、同法第338条列挙の一定の重大な瑕疵(かし)がある場合に、当事者の再審の訴えをもってする不服申立てにより、その裁判をした裁判所に、さらにその裁判の当否を審判させる手続をいう(同法338条~349条、403条)。また、他の法分野での再審については、行政事件訴訟法(34条)、会社法(853条)、特許法(171条)、国際司法裁判所規定(61条)に定められている。
[内田一郎・田口守一]
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