裁判所が訴訟手続で示す判断で,決定・命令と並ぶ裁判の一種である。まず決定・命令との異同を示したうえで,判決の特性を明らかにすることとしたい。
(1)裁判主体 判決と決定は,〈裁判所〉の裁判であるが,命令は,裁判長,受命裁判官,受託裁判官などの〈裁判官〉の裁判である。
(2)裁判前の審理 判決の場合は,原則として口頭弁論の方式がとられる(民事訴訟法87条1項本文,刑事訴訟法43条1項。例外として,民事訴訟法140条,319条,刑事訴訟法314条1項但書,341条等)。決定と命令では,口頭弁論の方式をとるか否かは裁判所(官)の裁量に任されているが(民事訴訟法87条1項但書,刑事訴訟法43条2項),口頭弁論の方式をとらないときも,略式の手続で訴訟関係人の意見を聴取(審尋)することが認められている(民事訴訟法87条2項,刑事訴訟規則33条1,2項)。
(3)裁判の告知 判決は,必ず公開の法廷において宣告(言渡し)されなければならない(憲法82条1項,民事訴訟法250条,刑事訴訟法342条)。民事訴訟法では,判決の言渡前に,判決書(判決原本)を作成し,これに基づいて言い渡すことが必要である(252条)。これに対して刑事訴訟法では,事前に判決書を作成しておく必要はなく,かつ当事者が上訴を提起せず,また別段の請求をしないときには,判決の宣告をした公判期日の調書に判決内容を記載させ,これをもって判決書に代えることができる(調書判決。刑事訴訟規則219条)。決定・命令では,判決と同様,公開の法廷において宣告(言渡し)をしてもよく,この方法をとらないときは,適宜の方法で訴訟関係人に連絡することが認められる(民事訴訟法119条)。ただし,刑事訴訟では,裁判書の謄本を送達するのが原則である。決定・命令では,裁判書を作成せずに,裁判内容を調書に記載させる方法が認められている(刑事訴訟規則53条但書)。
(4)裁判理由の付記 判決には,必ずその判決をするに至った理由を付記しておかなければならない(民事訴訟法253条1項3号,刑事訴訟法44条1項)。これは,判決の正当性を明らかにして,訴訟関係人を納得させ,また,不服申立てがあったとき上訴審の審査に資するためである。決定・命令でも,その裁判理由を付記することが望ましいが,不服申立てが許されない決定・命令には,裁判理由を付する必要がない(刑事訴訟法44条2項)。
(5)上訴 判決に対しては,控訴・上告が許され(民事訴訟法281条,311条,刑事訴訟法372条,405条),決定・命令に対しては,抗告(民事訴訟法328条,刑事訴訟法419条),準抗告(刑事訴訟法429条)が許される。
(6)判事補 判事補は単独で判決をすることはできないが,決定および命令ならば単独ですることができる(民事訴訟法123条,刑事訴訟法45条。ただし,〈判事補の職権の特例等に関する法律〉により,任期5年を経た判事補は,単独で判決をすることができる)。
(7)裁判事項 以上のように,判決のほうが複雑・慎重な手続をとっているので,請求の当否,有罪か無罪か,訴訟要件(訴訟条件)を具備しているかどうか,など訴訟手続上重要な事項を裁判するのに用いられ,決定・命令は,それ以外の付随的事項,訴訟指揮上の措置,執行に関する事項を裁判するのに用いられている。
(1)民事訴訟 第一審から第三審までの各裁判所が,その審級ごとに事件について最終的に言い渡す判決を,終局判決といい(民事訴訟法243条1項),その終局判決が言い渡されるまで,訴訟手続において中間的に派生した一定の争いを解決する判決を,中間判決という(245条)。終局判決は,事件の全部を解決するか一部を解決するかで,全部判決,一部判決に分かれ(243条2項,3項),また,本案判決,訴訟判決にも分かれる。本案判決とは,請求の当否について行われる判決で,請求を正当と認める判決を,請求認容判決,請求を不当として退ける判決を,請求棄却判決という。訴訟判決は,訴訟要件が欠けている場合に,原告の訴えを不適法として却下する判決である(訴え却下判決ともいう)。請求認容判決は,その認容した請求の種類によって,確認判決,給付判決,形成判決に分かれる(確認訴訟,給付訴訟,形成訴訟)。
(2)刑事訴訟 刑事訴訟においても終局判決は存在するが,訴訟手続において中間的に派生した事項を解決するための中間判決は認められておらず,すべて決定・命令によって処理されている。終局判決は,実体判決と,形式判決に分かれる。実体判決は,有罪か,無罪かを宣言する判決で,有罪の場合,刑の言渡しとともに,付随して刑の執行猶予や,未決勾留日数の刑への算入なども言い渡されることがある(刑事訴訟法333条2項,刑法21条)。形式判決は,訴訟条件が欠けているとして,公訴を無効として退ける判決で,管轄違いの判決(刑事訴訟法329条),公訴棄却の判決(338条),免訴判決(337条)の3種がある。公訴棄却は,事項によっては,判決ではなく,決定で言い渡されることもあり(339条),また,免訴判決は,実体判決,または実体関係的形式判決と解する説もある。
判決には,その宣告(言渡し)によって生じる効力と,その形式的確定をまって,はじめて生じる効力がある。
(1)自己拘束力(羈束(きそく)力ともいう) 判決はいったん宣告(言渡し)されると,もはやその判決をした裁判所によって取消し・変更されないという効力を生ずる。これは,そのような取消し・変更を認めると,そのつど当事者から上訴が提起され,いつまでたっても訴訟が終了しないからである。ただし,判決に書損じ,違算,その他これに類する明白な誤りがあるときには,決定によってこれを更正(訂正)することができる(更正決定。民事訴訟法257条)。また,民事訴訟法上,判決言渡後1週間以内に,裁判所が,法令違背の判決をしたことに気づいたときは,みずからその判決を変更する判決をすることができるし(変更判決,256条),刑事訴訟法上も,最高裁判所の判決に限るが,判決宣告後10日以内に,その判決の内容に誤りのあることを発見したときは,申立てによりこれを訂正する判決を行うことができる(415条以下)。
(2)形式的確定力 判決宣告(言渡し)後,上訴によってその判決を争いえなくなった状態を,判決が(形式的に)確定したといい,それによって生じた効力を形式的確定力という。また確定した判決を,確定判決とよぶ。形式的確定力は,最終審の判決のように,もはや上訴の許されない判決では,判決宣告(言渡し)のとき,上訴が許される判決では,上訴期間の徒過,上訴権の放棄,(上訴期間経過後の)上訴の取下げ,上訴棄却判決の確定のときに生じる。
(3)既判力,執行力,形成力 既判力は,判決の内容を訴訟手続上二度と争いえなくさせる効力であり,執行力は,判決の内容を執行によって強制的に実現する効力であり,形成力は,判決の内容どおりに法律関係を形成する効力である(〈既判力〉〈給付訴訟〉〈形成訴訟〉の各項目を参照)。いずれも判決の内容に即して生じる効力で,本来的効力ともよばれる。原則として,判決の確定をまって生じるが,ただ,執行力だけは,裁判所によって仮執行宣言が行われたとき(民事訴訟法259条以下,民事執行法22条2号),罰金,科料などの仮納付が命ぜられたとき(刑事訴訟法348条)は,判決の確定をまたずに,判決の宣告(言渡し)によってただちに生ずる。
判決の内容,手続に誤りがあると,確定前ならば上訴によって,確定後ならば再審によって,その判決の取消しを求めることができる。だが,この誤りがあまりに重大であると,上訴や再審によって判決の取消しを求めなくても,上記の既判力,執行力,形成力が生じないとされることがある。これを判決の無効という。判決が無効となるのは,日本の裁判権が及ばない者に言い渡された場合,当事者が死亡しているのに言い渡された場合,判決前に訴えの取下げ(公訴の取消し)が行われているのに,その事実を見のがして言い渡された場合,判決の内容が不明確,または前後矛盾していて意義を理解できない場合,などである。
もっぱら民事訴訟法上の問題であるが,当事者が不当な手段で自己に有利な判決を得た場合,相手方はその判決の無効を主張して,損害賠償や不当利得の返還を請求できるかという問題がある。たとえば,原告が証拠を偽造し,あるいは偽証を利用して,勝訴判決を得たり,被告の居所が判明しているのに,不明であると公示送達の申立て(110条以下)をし,被告の知らない間に勝訴判決を得た場合などである。上記の損害賠償や不当利得の返還請求を許すと,先に原告に権利ありとした勝訴判決(の既判力)を無視することになるので,まず再審の訴えを起こし,その判決の取消しを求めたうえで,損害賠償等を請求すべきであるとする見解が多数である。しかし,判例は,再審の訴えを起こさなくても,不法行為による損害賠償を請求できるという見解を示し,また原告が,この不当に取得した判決に基づいて,強制執行をしてきたときには,被告は〈請求異議の訴え〉を起こせるとしている。最近では,この判例の見解に賛成する学説も増えている。
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裁判所が裁判の結果を示す判断の一つで、決定、命令と並ぶもの。
[内田武吉・加藤哲夫]
裁判所が、原則として口頭弁論に基づいて、法定の方式に従った判決原本を作成し、公開の法廷で言い渡すという厳格な方法により当事者に告知する裁判をいう(民事訴訟法252条、253条、民事訴訟規則157条)。判決で裁判しなければならない事項は、通常の訴訟では、訴えや上訴の適法性、訴訟物である権利主張の当否、中間判決事項などである。そのほかに仮差押え、仮処分手続、公示催告手続において判決がなされることがある。判決は原則として口頭弁論に基づくことを必要とするから、判決する裁判所はその口頭弁論に関与した裁判官によって構成されなければならない(民事訴訟法249条1項)。ただし、口頭弁論を経ないで判決できる場合(同法78条、140条、290条、319条)がある。
判決の言渡し後、裁判長は判決原本を書記官に交付し(民事訴訟規則158条)、書記官はその正本を作成して2週間内に当事者に送達する(民事訴訟法255条1項、民事訴訟規則159条1項)。なお、判決が法令に違反したことを発見したときは、言渡し後1週間内に限り変更の判決をすることができるし(民事訴訟法256条)、判決に計算違い、誤記、その他これに類する明白な誤りがあるときは、いつでも判決の更正ができる(同法257条1項)。また、裁判所が請求の一部について判断を脱漏したときは、追加判決をすべきである(同法258条)。
[内田武吉・加藤哲夫]
判決は種々な見地から分類することができる。まず、事件を当該審級において完結する終局判決と、終局判決をなす準備をし、審判を整序する目的でなされる中間判決とに区別される。終局判決には、全部判決、一部判決、追加判決などがある。訴えまたは上訴に対して、その適法性と理由具備性の判断につき、それぞれ訴訟判決と本案判決とに分けられる。本案判決は原告勝訴の場合に、その内容によって給付判決、確認判決、形成判決(創設判決)に分類される。また、その手続および主体からみた形式的分類として、裁判には、判決、決定、命令がある。それらを主体の面からみると、判決・決定は裁判所のなす裁判であり、命令は裁判長・受命裁判官・受託裁判官がその資格に基づいてなす裁判である。手続の面からみると、判決が前記のように、もっともていねいであって、より簡易な手続に基づいてなされる決定・命令と区別される。決定・命令の場合は、口頭弁論を開くかどうかは任意的であり(同法87条1項但書)、相当と認める方法で告知すれば、その効力を生ずる(同法119条)。
[内田武吉・加藤哲夫]
法律の認める裁判の一種をいい、事態の重大なものは判決をもってし、これに次ぐものは決定をもってし、さらに軽微なものは、命令をもってする。判決は、特別の定めのある場合を除いては、口頭弁論に基づいてこれをしなければならない(刑事訴訟法43条1項)。また判決にはかならず理由を付さなければならない。なお、判決は判事補が1人でこれをすることはできない(同法45条)。第一審の判決に対する不服申立ての方法としては、控訴、上告がある。第一審公判の判決の種類としては、(1)管轄違いの判決、(2)公訴棄却の判決、(3)免訴の判決、(4)無罪の判決、(5)有罪の判決がある。このうち、無罪の判決は、被告事件が罪とならないとき、または被告事件について犯罪の証明がないときにこれを言い渡す(同法336条)。有罪の判決には、刑の言渡しの判決と刑の免除の判決の2種類がある。被告事件について犯罪の証明があったときは、刑を免除すべき場合を除いては、判決で刑の言渡しをしなければならない(同法333条1項)。刑の執行猶予、仮納付の裁判は、刑の言渡しと同時に、判決でこれを言い渡さなければならない。保護観察に付する場合も同様である。被告事件について犯罪の証明はあったが、刑を免除するときは、判決でその旨の言渡しをしなければならない。控訴審、上告審での原判決破棄の判決、控訴棄却の判決、上告棄却の判決、非常上告での棄却の判決、破棄の判決などもある。
[内田一郎]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
…《ある闘いの記録》《田舎の婚礼準備》などが初期の短編,断片として残されている。 12年8月フェリーツェ・バウアーFelice Bauerに出あい,老いた父親に突然溺死の刑を宣告される短編《判決》を9月の一夜に書きあげて,独自の文学世界への突破口を開いた。若い布地販売員グレゴールが巨大な虫に変身し,しだいに家族にうとまれて死ぬ著名な作品《変身》も同年末に完成,カール少年のアメリカ放浪記,長編《アメリカ》も書きすすめられたが,書くことと結婚への願望は両立し得ず,フェリーツェとは以後の5年間に2度婚約と解消をくりかえし,大部の手紙が残された。…
※「判決」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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