衆議院とともに国会を構成する一院で、二院制議会における上院にあたる。上院は一般に、下院と同様に民選議員によって構成されるが、間接選挙あるいは選挙区・被選挙権などを下院と異にする選挙方法により選出される。下院の行きすぎを抑制するために設けられ、世界各国にその例は多い。
日本では、第二次世界大戦後に設けられた。明治憲法(大日本帝国憲法)では、上院として貴族院があり、皇族、華族および勅選議員により構成され、きわめて保守的、反民主主義的な役割を果たしていた。そのため戦後の憲法草案(マッカーサー草案ともよばれる)では衆議院だけの一院制をとることになっていた。これに対し日本側は、国会での審議の慎重を期するため二院制(両院制)にするよう要請し、1947年(昭和22)参議院が設けられた。その権限については衆議院より弱いもの(衆議院の優越)とされ、いわゆる跛行的両院制(はこうてきりょういんせい)がとられた。
[池田政章]
参議院は全国民を代表する公選議員によって構成され、定数248人のうち、100人を比例代表選出議員、148人を選挙区選出議員とし、任期は6年で、3年ごとに半数が改選される。比例代表選出議員については、1982年の公職選挙法改正前までは全国区選出議員といい、全国1選挙区から100人を選出したが、1983年の通常選挙から拘束名簿式比例代表制にかわり、政党に投票することになった。さらに、2001年(平成13)からは非拘束名簿式に改められた。従来の全国区制の下では、1人でも立候補することができ「少数者の城」ともいわれたが、比例代表制はあくまで政党中心の制度であるため、真の少数者の代表がたつ可能性はきわめて薄くなったといわれている。選挙区選出議員は都道府県が選挙区(鳥取・島根と徳島・高知はそれぞれ2県の区域が選挙区)で、その定数は2~12人であるが、半数改選であるから選挙での選出はその半分である。
憲法が参議院に期待するところは、衆議院の「数の政治」に対し、その軽率や行きすぎを是正し、「理の政治」を行うことにあり、国民に基礎を置きながら政党の争いの外にたち、中立公正な知識を結集することであった。当初、議員は政党に属さず、是々非々主義をとる緑風会に属する者が多数いたが、しだいに政党化の方向をたどり、1965年(昭和40)の通常選挙で緑風会は消滅した。こうして政党化された結果その代表的機能が衆議院と変わらないようになったため、その存在理由について種々議論されてきたが、さらに比例代表制の採用により、この傾向がいっそう強まったことが指摘され、批判されている。「衆議院のカーボン・コピー」という評言はその最たるものであるが、参議院もそれに抗して、これまでさまざまな改革論を主張している。
[池田政章]
選出方法は次のとおりである。5人以上の所属国会議員を有し、直近の総選挙もしくは通常選挙で全有効投票の100分の2以上の投票を得、当該参議院議員選挙で10人以上の候補者を有すること、のうち、いずれかに該当する政党もしくは政治団体が、所属する者の氏名を記載した「参議院名簿」を届け出ておく(公職選挙法86条の3)。名簿登載者の選定と順番は、当該政党などが決める。投票は政党名もしくは個人名を自書して行い、各政党等の得票数に基づいて、ドント式配分(各政党の得票数を1、2、3、4という整数で順に割り、商の大きい政党から順次議席を配分する方式で、ドントは考案者であるベルギー人の名)により各政党等の当選人数を決定し、個人得票数の多い順に、当選人を決定する(同法95条の3)。この方式は非拘束名簿式といわれる。
[池田政章]
衆議院とともに国会を構成する議院(日本国憲法42条)。憲法制定過程において,総司令部は,当初,一院制の構想を提示した(1946年2月13日のいわゆるマッカーサー草案)が,日本側の強い要望もあり,両議院ともに〈民選〉議員で構成するとの条件の下に両院制の採用が認められた結果,参議院が置かれることになった。なお,その名称については,当時,〈第一院〉〈上院〉〈公議院〉〈特議院〉〈審議院〉といった案も検討されたが,結局,〈参議院〉という名称に落ち着いた。
そもそも,両院制(二院制)とは,国民を直接代表する議院とともに,第二院たる議院をもって構成する議会制度であるが,後者は,その設置の目的に従って,(1)特権的少数者の利益保護を目的とする貴族院型,(2)社会の職能的集団を代表させようとする職能代表型,(3)高い知性・専門知識の会議体として構成しようとするブレーン・トラスト型,(4)他院のコントロールを目的とする機関内統制型,(5)連邦を構成する各邦を代表する連邦型に類型化することができる。もとより,こうした類型化は,あくまで理念型にすぎず,実際には,それらの複合的な性格を示すことは,明治憲法時代の貴族院が,(1)のみならず,(3)(4)の役割をも果たすことが期待されたこと,そして,現行の参議院が,(2)のみならず,(3)(4)の役割をも果たすことが期待されていることからも明らかである。
ところで,戦前の貴族院が公選によらない皇族,華族,勅選議員によって構成されたことから,国民代表機関としての実質を伴わなかったのに対して,現行憲法は,衆議院のみならず,参議院についても〈全国民を代表する選挙された議員でこれを組織〉(43条)すべきものとし,その結果,参議院の構成について,〈国民代表及び平等選挙並びに自由選挙の原則と参議院の独立性確保の方針を堅持しながら,其の範囲内に於て……衆議院とは出来るだけ異質的なものたらしめる〉(1946年12月13日。第91帝国議会における参議院議員選挙法案提案理由)ために,地方区・全国区2本立ての参議院議員選挙制度が案出された。この選挙方法のくふうに託された所期の期待も,しかし,緑風会の衰退・消滅に象徴されるように,通常選挙のたびごとに参議院の政党化が進行するなかで裏切られ,今日では,参議院は〈衆議院のカーボンコピー〉とまで酷評され,その改革が重要課題となっている。
こうした制度改革の一環として,1982年の公職選挙法の改正により,全国区制が廃止され,新たに,拘束名簿式比例代表制が参議院議員の選挙に導入された。しかし,参議院の政党化を前提とするこの改革が,参議院のあるべき姿との関連で果たして望ましいものであったのか否か,議論の存するところである。
戦前の貴族院は,衆議院と対等の権能を保持し,しかも,衆議院のように解散をうけることがなかったので,場合によっては衆議院に優位することもあった。これに対して,現行憲法は,国会の諸権能を衆参両議院に共有させることにより,機関内コントロールの効果を期待すると同時に,法律・予算の議決(59,60条),条約の承認(61条),内閣総理大臣の指名(67条)について〈衆議院の優越〉を認め,両院がその意思を異にするとき,両院協議会を開いたうえでもなお意見の一致をみない場合には衆議院の意思を国会の意思とするシステムを採用している。このシステムは,参議院による機関内コントロールが国会における審議・意思形成を慎重にする反面,その意思決定を困難にするところから,衆議院の意思に優越的価値を認めることにより,国会の統一的意思決定を容易ならしめることにある。その際,とくに,参議院ではなく,衆議院の意思を優越させたのは,議員の任期,解散制度等からみて,衆議院のほうが参議院よりもより民意に密着した会議体であると考えられたからであろう。
衆議院が解散されたときには,同時に参議院は閉会となる(54条2項)。ただし,衆議院の解散中において,国会の議決を要する緊急の事態が生じたときには,内閣の請求によって,参議院が緊急集会を開き,国会の権能を代行する(54条2項但書)。
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(原田英美 ライター / 2013年)
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衆議院とともに国会を構成する一院で,日本国憲法により作られた。旧憲法下の貴族院と異なり国民の選挙で選ばれるが解散はなく,予算・条約締結・内閣総理大臣指名については衆議院の議決が優先する。議員定数は比例代表(旧全国区)100人,選挙区選出(旧地方区)152人の252人(当初は250人)。任期は6年で3年ごとに半数改選。衆議院の「数の政治」に対する「理の政治」が期待され,当初は文化人や官僚の長老が独自性を発揮したが,しだいに政党化し,また大組織の利益代表化した。1983年(昭和58)の第13回選挙から全国区に代わり比例代表制が導入された。2000年(平成12)比例代表区は得票順に政党内の当選者が決まる非拘束(ひこうそく)名簿式比例代表制になった。
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…法律案は内閣も提出できると解するのが支配的学説であり,慣行もそうなっており,ほとんどの法律が内閣から提出された法案をもととしている。
[構成と活動]
国会は衆議院と参議院から成り(二院制),いずれも国民の直接選挙による議員から構成される(衆議院比例代表選出区(1994年の公職選挙法改正により導入),および参議院比例代表区(1982年の公職選挙法改正で導入)は,それぞれに議員候補者名簿を作成する政党,政治団体が投票の対象となっている)。前記の1994年公職選挙法の改正により,衆議院議員の定数は500人で,うち小選挙区(1区1人選出)選出が300人,比例代表区選出が200人となっている。…
…その正式な名称は,国によって異なる。たとえば,アメリカ合衆国では元老院Senate,イギリスでは貴族院House of Lords,ドイツでは連邦参議院Bundesrat,旧ソ連では民族ソビエト(民族会議)Sovet Natsional’nostei(ソ連崩壊後のロシア連邦では連邦会議),日本では明治憲法下にあっては貴族院,現在は参議院である。その構成や機能も多様であるが,大別すれば,(1)世襲貴族や資産階級などの特権的階層を代表し,保守勢力の利益を擁護するもの(イギリス,明治憲法下の日本),(2)連邦国家において,州を代表し州の利益を代弁するもの(アメリカ合衆国,ドイツ,旧ソ連など),(3)職能代表あるいは良識の府としての役割を期待されているもの(アイルランド,旧ユーゴスラビアなど)などに分けられる。…
…発案が議員に認められることはもとよりである(議員立法)が,内閣にも発案権が認められるというのが通説で,かつ慣例であり(憲法72条参照),成立する法律のほとんどが内閣提出法案となっている。そこで審議・議決に国会の立法意思が集中的にあらわれることになるが,国会を構成する衆議院の意思と参議院のそれとの齟齬は,衆議院が優越するように調整される。すなわち,法律案は原則として両議院で可決したとき法律となるが,衆議院で可決し,参議院でこれと異なる議決をした場合は,衆議院が出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したとき法律として成立する(59条2項)。…
※「参議院」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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