室町時代の座敷飾りの秘伝書。足利義政(あしかがよしまさ)の同朋衆(どうぼうしゅう)能阿弥(のうあみ)の著と伝えられる。書名の君台は将軍の御座所で、その飾り方についての左右の侍者の帳記(記録)という意味。原本はなく写本として残る。流布の系統には、能阿弥本系と相阿弥(そうあみ)本系がある。能阿弥本系には数種があるが、文明(ぶんめい)8年(1476)3月12日の日付があり、大内左京大夫(だゆう)にあてて書かれたとする『群書類従』巻361に所収されたものが一般に知られている。相阿弥本系は東北大学所蔵本に代表され、写本としてもっとも古い。しかし内容的にみて能阿弥本系がこれに先だつものとされる。おそらく能阿弥がまず着手し、さらに別の同朋衆によって追記され、これを継承しつつ大成したものが相阿弥本と考えられよう。
内容としては、前半は中国の宋(そう)・元(げん)時代を中心とする画家たち約150人をあげ、年代順に上、中、下の品等に分け、その字(あざな)や号、出身地、画題を列挙し、唐絵(からえ)鑑賞の指針を示している。後半は座敷飾りの方式を図解とともに説明し、また飾り付けの道具となる器物について解説している。座敷飾りについては、押し板に三幅一対、または五幅一対の場合にはかならず三具足(みつぐそく)を置くとか、四幅一対の絵のかかるときは、花瓶か香炉を置き、脇(わき)の花瓶はそのまま置くといった画軸による花や置物の飾り方式が述べられ、当時の美術鑑賞の方式を知ることができる。
[北條明直]
室町時代に成立した中国伝来の絵画,工芸品の鑑定評価と,それらを用いた座敷飾の構成について集大成した伝書で,内容は三つの部分から成っている。〈一〉は六朝から元代にいたる中国画人の目録で,上中下の三品等に分け,略伝をつける。当時の舶載唐絵の主題と評価が示されている。〈二〉は掛幅を中心とした室内飾の諸方式を記す。〈三〉は陶磁器,文房具などの鑑識と配置方法について図入りで記録する。原本はなく異本が多いが,能阿弥撰述の《群書類従》本と,相阿弥撰述の東北大学本の2系統に分かれる。成立過程には不明の点があるが,足利将軍家所縁の公家等の接待用に用いられたことは確実である。画家の伝記には夏文彦の《図絵宝鑑》の影響がみられる。当時珍重された唐物の舶載状況,価値評価,飾り方などの実態を知るうえで貴重。
執筆者:衛藤 駿
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…室町幕府には,この鑑識を担当する唐物奉行の職制がおかれた。この職域にあった同朋衆の能阿弥・相阿弥による《君台観左右帳記》は,上巻は中国画家の等級分けなどの精査,下巻では,唐・宋・元の書院内部での唐物の装飾法を述べる。能阿弥の影響下にあり,文亀2年(1502)に没した,村田珠光による佗茶の展開の中で,唐物は狭義に唐物茶入を指す語となった。…
…このうち同朋衆は,義持,義教を経て義政の時代に最も活躍するが,とくに唐物同朋は将軍家による唐物収集を担当し,目利(めきき),保管,表装あるいは唐物唐絵をもってする座敷飾に当たった。これはこの時期における書院座敷(書院造)の発達に対応するもので,同朋衆が経験的につくり出した室礼の規式の集大成ともいうべき《君台観左右帳記(くんだいかんそうちようき)》は,その後における日本人の生活美学の母体となったといっても過言ではない。文化史上における義政の評価も,本書の存在,あるいはそれに関与した同朋衆の活躍に負うところが大きい。…
※「君台観左右帳記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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