商業者が,金銭と引換えにその代価として発行する有価証券で,その所持人に対して,それと引換えに,一定の期間内に,あるいは期間を定めず,証券面に指定された場所で,記載された金額や商品ないしはサービスの範囲について,当該商業者が取り扱う商品ないしはサービスの給付を受けるものをいう。商品券という呼称は,明治20年代以降に用いられるようになり,大手呉服店や百貨店が発行するようになって一躍普及した。それ以前は〈商品切手〉ないしは〈物品切手〉などと呼ばれ,江戸時代から一般の小売商店によって発行されていたようである。ちなみに,大坂においてはじめて商品切手の発行をみたのは,高麗橋虎屋菓子店が発行した饅頭五文切手であったといわれており,その後,酒切手,豆腐切手などが発行されている。明治に入ると,初めは酒切手が多く発行され,明治10年代から饅頭切手,菓子切手が多く発行されたが,当時設置された東京文紙会社の出張所の見本切手目録には,それらのほかに,茶切手,豆腐切手,乾物切手,生魚切手,米油切手,酢切手,酒類切手,鰹節切手,玉子切手,醬油切手,鰻切手などが記載されている。
上述のとおり,明治20年代に入ると,〈商品券〉という呼称も用いられるようになるが,明治30年代後半から40年代にかけて日露戦争後の好景気のもとで,かなり高額の商品切手が発行され,その用途もしだいに広がっていった。すなわち,それまでの商品切手は,ほとんどが供養ないしは祝事の贈答用にすぎず金額も小額のものが多かったが,好景気とともに,広く謝礼用としても用いられるようになり,商品券という呼称で百貨店が発行するようになって,ますます盛んに利用されるようになった。百貨店の商品券は,多種類の商品と交換できるので贈答用として広く利用され,百貨店としても商品券の未回収高は無利息の借入金の性格をもち,経営にも寄与するし,発行者としての信用も無形の資産となる。そのため発行額が急増して中小小売商を圧迫するということや,商品券所持者を保護するというたてまえから,1932年に〈商品券取締法〉が制定されている。同法は,証券面に金額の表示をなした商品券を発行する者に,毎年2回一定期日における商品券発行額の1/2以上に相当する金銭,国債,地方債または主務大臣において確実と認める社債もしくはこれに準ずる債券を供託することを義務づけ,商品券所有者にこの供託財産に対して優先的に弁済を受ける権利を認めている。今日では商品券は百貨店の商品券のほか,図書券やビール券のような同業者による全国共通に使える商品券や,商店街の共同商品券,あるいはアイスクリーム券などもある。なお商品券には印紙税,さらに指定都市などでは商品切手発行税(地方税)が課されている。ただし印紙税非課税の小額の額面の商品券に限っては,都市などにより商品切手発行税が課されている場合でも,業者により負担され,額面どおりで販売されているケースが多い。
執筆者:木綿 良行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
代金前払いで一覧払い(呈示が即支払いになる)の無記名有価証券の一種。商品切手ともいう。券面に記載されている金額の範囲内で、発行店の取り扱う全商品を随時購入することができる。贈り物に金銭を嫌う日本の風習から、ほとんど贈答用に使用される。法律上は、前払い式支払い手段の一種で、プリペイドカードとあわせて、第三者型発行者の発行する前払い式証票とされる(資金決済に関する法律、平成21年法律第59号)。
古くは江戸時代中ごろに発行された大坂虎屋(とらや)のまんじゅう、伏見駿河屋(ふしみするがや)の羊かんの商品切手があり、明治時代には百貨店発行の呉服切手をはじめ、酒類切手、菓子切手、豆腐切手などもあった。大正から昭和にかけて盛行し、商品券取締法(昭和7年法律第28号)の規制・監督を受け、主として百貨店が発行してきたが、第二次世界大戦後広く普及した。規制・監督の法律は、前払式証票の規制等に関する法律(平成1年法律第92号)を経て、前述の現行法に変わっている。
商品券を購入する際に、かつては券面金額に応じた印紙税がかかったが、現在は無税である。商品券が主として百貨店で発行される理由は、利用者と百貨店の双方に利点があるからで、利用者は百貨店の幅広い品ぞろえによって、自由な時期に自己の欲求を満足させることができる。百貨店側からすれば、商品券の未回収高は無利息の借入れ資本として経営に貢献するのみでなく、発行者としての名声や信用も重要な資産となりうるのである。1960年代ごろから、個々の百貨店ばかりでなく、複数の百貨店が連携して共通商品券を発行したり、同業の小売組合が全国的規模で共通商品券(たとえば図書カード)を出している。
[森本三男]
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