事業者が扱う自社の商品を他社のものと区別するために使うマーク。文字や記号、立体などの種類があり、これらを組み合わせたタイプもある。特許庁から登録が認められると商標権が発生し、独占して使うことができる。具体的には、別の事業者が類似する商品を製造したり販売したりした場合、差し止めや損害賠償などの請求が可能となる。効力は10年間だが、何度でも更新できる。
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明治一七年(一八八四)六月七日に、農商務省内に商標登録所が設けられ、「商標条例」が公布されて、「商標」の語が広まった。
事業者が自己の取り扱う商品や自己の提供する役務を他人の商品や役務と区別するために商品または役務について使用する標識をいう。トレードマークともいう。商標を保護対象とする商標法(昭和34年法律第127号)は幾度となく部分的改正が行われているが、1991年(平成3)の改正では商標の定義(2条)自体も改正され、従来除外されていた役務について使用する標識(いわゆるサービスマーク)も商標として取り扱うことになった。法律上は、商品に使用するものを商品商標、役務に使用するものを役務商標と称している。さらに1996年の改正では、従来平面的で視覚に訴えるものに限られていた形状について、立体的形状も商標(立体商標)として取り扱うように改正された。定義等を規定する第2条によれば、商標とは、
「文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)」
と定義されている。
したがって、サービスマークも商標法で保護されることとなり、また、立体標章も商標として取り扱われることとなった。
商標は商品または役務について使用される標章(標識)であるから、氏名、商号、社標などの人的標識は、それが商品または役務を表示する標識として使用されない限り、商標とはいえない。標章を商品や役務について使用する場合の「使用」の定義を第2条で規定している。標章を商品に付す場合、当該商品に直接付せられる必要はないが、商品の容器・包装、インターネットを通じた提供または広告など商品との関係において使用されることが必要である。標章を役務について使用する形態としては、役務の提供にあたりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したり、当該標章を付したものを用いたり、映像面に標章を表示して役務を提供する行為、当該標章を付したものを役務の提供のために展示する行為等が規定されている。また、商品や役務に関する広告、定価表または取引書類に標章を付して展示したり、頒布したり、情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為も該当する。ここでいう商品とは取引の目的となりうべき物、とくに動産をいう。また、役務とは他人のために行う労務または便益であって、独立して商取引の目的となりうるものをいう。保険会社などにおいては新しく企画された保険を「新商品」などといっているが、これらの保険は役務であって、商標法上の商品ではない。
商標は業として使用されるもので、自他商品または自他役務を識別し、かつ商品または役務の同一性を表示するために使用されるものであるから、個人的に使用されるものは商標とはいえない。商標は自他商品等を識別する機能を有するばかりでなく、出所表示機能、品質保証機能および宣伝広告機能などを有するもので、これらの機能に社会的・経済的価値が認められる結果、商標に法律上の権利が与えられているのである。
[瀧野秀雄]
標識の起源や歴史はきわめて古く、古代エジプト時代の発掘品や、古代ギリシア・ローマ時代の陶器などにみられる陶工標とよばれる標識、中世において海難・盗難などにあったとき商品の所有権を立証するために付せられた商人標または所有標とよばれる標識、商品の量目・品質・技術に対する責任を明らかにするための責任標または警察標とよばれるものなどがあったが、いずれも、現代の商標のように商標自体が財産権として認められ、法の下(もと)に保護されているものとは異なっている。
18世紀後半に産業革命によって資本主義社会が成立し、生産手段が機械化され、流通機構が整備されるにしたがって、需要者はもとより生産者および販売者にとって必然的に財産権として存在し、かつ自他商品識別の機能を有する商標を保護する制度を必要とするようになった。そのような社会情勢から、1803年フランスにおいて「工場、製造場および仕事場に関する法律」が制定され、その第16条に商標の盗用が私文書偽造の罪となると規定されたが、商標自体を財産権として認めるまでには至らなかった。その後同じくフランスで世界最初の商標法ともいうべき「使用主義および無審査主義を内容とする製造標および商標に関する法律」が1857年に制定され、現行法の「登録主義を内容とする商標またはサービスマークに関する法律」(1964)に受け継がれている。イギリスにおいては1862年に商品標法が、続いて1875年に商標登録法が制定され、1905年には、より整備された商標法が制定された。その後改正を重ねて、使用主義、審査主義、公告制度を採用した現行法(1938)となっている。ドイツにおいては1874年に商標保護法が制定され、1894年審査主義を採用した商標法に変わり、改正を重ねたのち現行法(1967)となっている。アメリカにおいては1870年、連邦商標条例が制定され、改正を重ねて1946年に使用主義を採用した現行法が成立した。
日本においては、古くから刀剣、手工芸品などに製作者の銘、氏名などを入れることが行われていたが、これらは前記の陶工標の類を出ないもので、現代の商標とは異なるものである。そこで明治政府による近代化政策の一つとして、1884年(明治17)登録主義・先願主義などを採用した商標条例が制定され、1888年欧米諸国の長所を採用した商標条例が制定された。1899年工業所有権保護同盟条約に加入するための改正商標法、同明治四十二年法、精緻(せいち)な同大正十年法を経て、商標権の自由譲渡制・使用許諾制度・防護標章制度などを新設した現行の商標法が1959年(昭和34)に制定された。
[瀧野秀雄]
商標が自他商品または自他役務を識別するために使用される文字、図形、記号、立体的形状またはそれらの結合された標識であるのに対し、商号は商人が営業上の活動において自己を表すための名称であり、文字のみで表示される。
商号は法律上は権利・義務の主体である商人を表示するものであるから人的標識といわれているが、同一の商号を永年にわたり使用していると商号自体が営業上の信用を表示する営業標識の機能と、商品の出所または自他商品を識別する機能をもつようになり、商標のもつ機能と交錯するようになる。商号のこのような機能に着目して、商号を商標として登録したり、自己の商標を構成する文字を要部とした商号にすることが行われている。たとえば東京通信工業株式会社がソニーの商標を使い始めてから3年後に社名もソニー株式会社に商号変更したなど多くの例がある。商標は登録されることにより独占的使用権は全国に及ぶが、商号は登記されることにより、同一市町村内で同一の営業のため同一の商号を他人が登記することを防ぎ、不正競争の目的をもって同一または類似の商号の使用を禁止する効力を有する(商法12条)。
[瀧野秀雄]
商標権は他の工業所有権(産業財産権)と同じくその客体が観念的な無体物である点で無体財産権または知的財産権とよばれる。商標権は指定商品または指定役務について当該商標を独占して使用することができ、かつ他人が許諾なくして使用するのを排除することができるものであるから、所有権と同じ性質を有するものといえる。商標権の客体は特許権、実用新案権、意匠権等の他の工業所有権のように人間の精神的な創作活動の成果である発明・考案・意匠を客体とするものではなく、産業活動に適するように選択された標識自体である。したがって、その標識が他人の同種の商品または役務と、自己の商品や役務とを識別することができるものであり、商標としての適格性を有しかつ公益上・私益上の不登録事由がなければ、創作性や新規性がなくても権利として保護される。
[瀧野秀雄]
商標法は商品または役務の標識である商標の保護に関する法律で、商標権の発生、効力等について基本的事項を規定している。商標法は工業所有権法に属するが、特許法等が精神的創作物を保護の対象としているのと異なり、取引における標識を保護する点で、不正競争防止法や商号に関する規定と同じく、競業秩序を維持する法律といわれている。したがって商標法は商標権者の私益保護のみならず、一般需要者の公益保護という二面的性質をもつものである。商標法第1条には、「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と規定している。
[瀧野秀雄]
商標権者は、指定商品または役務について登録商標の使用をする権利を専有する(商標法25条)が、他人に専用使用権を設定したり、通常使用権を許諾したりすることができる。そして同法第2条3項1号~10号には「使用」について、詳細に規定している。
[瀧野秀雄]
商標権は、存続期間の満了(ただし更新が可能)、登録無効審決の確定、相続人の不存在、権利の放棄、不使用による取消し、商標権者の不正使用による取消し、使用権者の誤認や混同行為を理由とする取消し、外国商標権者の承諾なくしてその代理人等によりなされた商標登録の取消しなどの原因によって消滅する。とくに登録された商標が継続して3年間以上、日本国内において商標権者、専用使用権者、通常使用権者のいずれによってもその指定商品について使用されていないときは、第三者はその使用されていない商品について商標登録の取消しの審判を請求することができる(商標法50条1項)という制度は、登録主義に従う日本の商標法に使用主義の利点を導入したものということができる。このことは、商品流通のために使用されていない商標の整理を促進する大きな効果をあげている。
[瀧野秀雄]
サービスマークは、銀行、保険、広告、倉庫、運送、通信、土木建築業などのサービス(役務)について使用する標識(標章)である。日本では、従来は標章を商品について使用する場合の「商標」とは異なるものとして商標法では保護されなかったが、1991年の商標法の改正によりサービスマークも商標として取り扱われることになった(同法2条)。法律上は、役務商標と称している。サービスマークの登録制度は、アメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、イタリアなど主要国はもとより、多くの国が採用している。
[瀧野秀雄]
アメリカ、ヨーロッパ連合(EU)、オーストラリアなどでは、特徴ある音声や特定の映像などを商標として保護している。TPP(環太平洋経済連携協定)交渉が妥結し、音声など「新しいタイプの商標」が国際ルール化される可能性が高まったため、先行して日本政府は2014年(平成26)、商標法を改正(2015年4月施行)し「新しいタイプの商標」を導入した。従来は形が定まった文字、記号、図形などしか登録できなかったが、(1)文字や図形などが時間経過に伴って変化する「動き」商標、(2)文字や図形などが見る角度によって変化する「ホログラム」商標、(3)単色または複数の色の組合せのみからなる「色彩」商標、(4)メロディー、セリフ、自然音からなる「音」商標、(5)文字や図形などの商標を商品などにつける「位置」が特定される商標、の5種類が登録可能になった。たとえば、「音」商標では、大正製薬のドリンク剤の「ファイトー、イッパーツ」、「色彩」商標ではセブン‐イレブン・ジャパンが看板などに使用している「白地にオレンジ、緑、赤の縞(しま)模様」、「動き」商標では、東宝の映画冒頭の「東宝ロゴが光り輝く動画」、「位置」商標ではエドウィンの「ジーンズのポケットの隅に縫い付けられた赤色タグ」などが登録された。2017年3月時点で、「音」商標が110件、「動き」商標が65件、「位置」商標が23件、「ホログラム」商標が9件、「色彩」商標が2件登録されている。
[矢野 武 2017年12月12日]
『豊崎光衛著『工業所有権法』(1980・有斐閣)』▽『小野昌延著『商標法概説』第2版(1999・有斐閣)』▽『田村善之著『商標法概説』第2版(2000・弘文堂)』▽『特許庁編『工業所有権法逐条解説』第16版(2001・発明協会)』▽『網野誠著『商標』第6版(2002・有斐閣)』▽『紋谷暢男編『商標法50講』(有斐閣双書)』
商標法(1959公布)上,商標とは文字,図形もしくは記号もしくはこれらの結合またはこれらと色彩との結合で,営業者が商品または役務(サービス)について使用するものを指す(商標法2条)。トレード・マークともいう。商号とは異なり文字に限定されず,自他識別力あるマークであればよい。日本では,1884年に商標条例が制定されて以来,商標は保護されている。しかし,従来は営業と商標は不可分のものであり,営業と分離して商標だけを譲り渡したり,商標の使用許諾をなすことはできなかった。1959年の商標法においては営業から分離された商標だけを譲渡したり使用許諾をすることができるようになった。これにより商標権の財産権的性格が確立し,特許権等の他の工業所有権と同等の地位を得たといえよう。商標法の目的は,商標を保護することにより,営業者の信用の維持を図り,産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護すること(1条)である。ある営業者が築きあげてきた信用は,具体的にはその営業者の商標等の標識に化体されており,その商標を他の営業者が無断で使用すれば,本来の営業者の信用が著しく棄損されるだけではなく,消費者も偽物をつかまされることになり,経済活動に大きな混乱をもたらす。したがって,商標を保護することにより,取引界における信用が維持されることになる。
営業者または商人が,自己の扱う商品に特定のマークを付すということは,洋の東西を問わず古くから行われていたが,現代的意味における財産権としての商標の出現したのは19世紀初頭からである。それ以前のものは,作者の銘を表すものであったり,あるいは組合(ギルド)の生産標として強制的または統制的色彩の濃いものであり,財産権として意識されていたものではない。しかし,現在のように大量生産時代になると,生産者と消費者の人的関係は切断され,消費者は商標をとおしてのみ営業者を知ることができるようになる。このような状況の下において,商標は営業者にとって,きわめて重要な財産となる。ただし営業が順調になされている限りは商標の財産的価値が顕在化することはまれであるが,倒産等により商標の処分をなす場合には顕在化する。
商標権を取得する手続は,特許権の場合と類似しており,一定の方式に従って特許庁に出願しなければならない。登録される商標は,現に使用されているものに限らず,使用する意思がありさえすればよい。商標とは,商品につき使用されるものであるから,出願に際しては,政令で定める商品の区分に従って商品を指定しなければならない。商標というものは商品と結びついているものであり,商品を離れた一般的商標というものはありえない。出願された商標は,審査官による審査を受け,拒絶の理由が発見されないときは登録査定される(16条)。この商標権は,特許権等とともに工業所有権の一種であり,登録から10年間存続する(20条)。しかし,営業が続く限り商標権も継続して用いる必要があり,更新手続をすればさらに10年間継続し,更新を続ければ事実上永久に独占権が継続する。ただし,更新に際しては,その商標を使用していることを証明しなければならない。商標権の効力,ライセンス等は特許権の場合とほぼ同様である。ただ,特許権は新規な創作という精神的創作物についての独占権であるが,商標権は自己が築き上げてきた信用についての独占権であるという点において異なっている。
→工業所有権
執筆者:中山 信弘
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…また,特別法で差止請求権が規定されている場合がある。たとえば,周知された他人の氏名,商号,商標等と同一または類似のものを使用した商品を販売,輸出等をする者等に対して,営業上利益を侵害されるおそれのある者は差止めを請求しうる(不正競争防止法条)。また,特許権者等は自己の特許権等を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止または予防を請求することができる旨の規定がある(特許法100条,同趣旨の規定が商標法36条,意匠法37条,実用新案法27条,著作権法112条)。…
…商人がその営業上の自己を表示するために用いる名称のこと。商人が自己の同一性を明示するために用いるものであるから,自己の商品を指示するために用いる商標や,商品のともなわないサービスについて使用するサービス・マークとは異なる。また,商人の営業の同一性を表示するために用いる営業標(たとえば三越百貨店ののごとき)とも区別される。…
…それらのうちで,言葉で表現できるものをブランド名といい,言葉で表現できない記号,デザイン,レタリングなどをブランド・マークという。また,ブランド名,ブランド・マークのうちで,その排他的使用が法的に保証されているものは,商標(トレード・マーク)と呼ばれている。ブランドは,それがメーカー(製造業者)に属するか,流通業者に属するかによって,メーカー・ブランドとプライベート・ブランドprivate brand(PBともいう)に分けられる。…
…外国商品につき,国内で総代理店制がとられている場合,第三者がそのルート以外から商品を輸入することをさすが,法的に問題となるのは,特許権や商標権等の無体財産権(知的財産権)が介在した場合である。例えば,アメリカのA社がアメリカと日本で商標権を有し,日本のB社と総代理店契約を締結し,商標の専用使用権を設定している場合に,日本のC社がアメリカで流通しているA社の製品を独自に輸入・販売する行為はA社の商標権またはB社の専用使用権を侵害することになるか否か,という問題である。…
※「商標」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
小麦粉を練って作った生地を、幅3センチ程度に平たくのばし、切らずに長いままゆでた麺。形はきしめんに似る。中国陝西せんせい省の料理。多く、唐辛子などの香辛料が入ったたれと、熱した香味油をからめて食べる。...
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