地政学(読み)チセイガク(その他表記)geopolitics

翻訳|geopolitics

デジタル大辞泉 「地政学」の意味・読み・例文・類語

ちせい‐がく【地政学】

民族国家特質を、主として地理空間や条件から説明しようとする学問スウェーデンのR=チェーレンが唱え、第一次大戦後ドイツのK=ハウスホーファー大成ナチスの領土拡張を正当化する論に利用された。地政治学。ジオポリティ(ッ)クス(geopolitics)。

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精選版 日本国語大辞典 「地政学」の意味・読み・例文・類語

ちせい‐がく【地政学】

  1. 〘 名詞 〙 国の政策を、主として風土・環境などの地理的角度から研究する学問。スウェーデンの政治学者チェレン(ヒェレン)の用語。ドイツのハウスホーファーにより、ナチスの領土拡張政策の正当化に利用された。地政治学。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地政学」の意味・わかりやすい解説

地政学
ちせいがく
geopolitics

スウェーデンの政治学者チェレーンRudolf Kjellén(1864―1922)によって第一次世界大戦直前につくられた用語で、政治地理学が世界の政治現象を静態的に研究するのに対し、地政学はこれを動態的に把握し、権力政治の観点にたって、その理論を国家の安全保障および外交政策と結び付ける。地政学を大成したのはドイツの軍人K・ハウスホーファーであった。彼はヒトラーのナチス党と結び付き、地政学は、第三帝国の領土拡大政策の基礎としてゲルマン民族至上主義と民族自給のための「生活圏」Lebensraumを主張するプロパガンダの手段と化した。しかし今日では南北問題の解明などのために新たな地政学が必要とされよう。

[川野秀之]

『ルドルフ・チェレーン著、阿部市五郎訳『地政治學論』(1941・科学主義工業社)』『ハウスホーファー著、太平洋協会編訳『太平洋地政学』(1942・岩波書店)』『ルドルフ・チェレーン著、金生喜造訳『領土・民族・国家』(1943・三省堂)』『ハルフォード・ジョン・マッキンダー著、曽村保信訳『デモクラシーの理想と現実』(1985・原書房)』『高木彰彦他編『アジア太平洋と国際関係の変動――その地政学的展望』(1998・古今書院)』『アントニオ・グラムシ著、上村忠男編訳『知識人と権力――歴史的・地政学的考察』(1999・みすず書房)』『ジョン・オロッコリン著、滝川義人訳『地政学事典』(2000・東洋書林)』『奥山真司著『地政学――アメリカの世界戦略地図』(2004・五月書房)』『アルフレド・セア・マハン著、北村謙一訳『マハン 海上権力史論』新装版(2008・原書房)』『曽村保信著『地政学入門――外交戦略の政治学』(中公新書)』『倉前盛通著『悪の論理――地政学とは何か』(角川文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「地政学」の意味・わかりやすい解説

地政学 (ちせいがく)
geopolitics

地理的諸条件を基軸におき,一国の政治的発展や膨張を合理化する国家戦略論が地政学である。地政学という名称を最初に用いたのは(1916),スウェーデンの学者チェレン(ヒェレン)Rudolf Kjellén(1864-1922)であったが,内容的にはドイツのF.ラッツェルが,すでに生存圏肯定の理論としてI.カントの政治地理学を再編成し直し,ドイツの植民地拡大政策の根拠づけを行っていた(1889)。ラッツェルとチェレンの生存圏,自給自足,大陸国家優先の地政学は,ドイツのK.ハウスホーファーによって受け継がれた。地球上の生存空間を求める国家間の競争が,政治地理,経済地理,さらにその根幹となる自然地理から科学的に説明できるとする彼の学説は,世界が汎アメリカ,汎アジア,汎ユーロアフリカ,汎ロシアの四つの総合地域に統轄されると主張し,その中でドイツの支配する汎ユーロアフリカ地域のみが大陸海洋両様地域として発展しうるという,ナチス・ドイツのイデオロギー的基礎となる地政学を展開した。これに対し英米系の地政学では,同じく大陸パワー論をとりながらもドイツの支配をおそれる立場で地政学を唱えたイギリスのH.J.マッキンダー,海洋パワー論の見地でアメリカの海洋戦略を強調したアメリカのA.T.マハン,大陸パワーと海洋パワーの接触地帯をリムランドrimlandと名づけ,日独伊枢軸から成るこのリムランドと米英ソの連合勢力との勢力均衡論のなかで,アメリカの国益追求を権力政治的に基礎づけようとしたスパイクマンNicholas J.Spykman(1893-1943)など多様性があった。第2次大戦後,北極の重要性,北アメリカの隔離性の喪失,大陸の潜在力の増大を強調する地政学や,アメリカ核戦略と結合してリムランドのうちカリブ海,日本,西欧,オーストラリアのみを重視する地政学などいくつかのものが出現したが,一般的には政治地理学の部分的理論として相対化された。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地政学」の意味・わかりやすい解説

地政学
ちせいがく
Geopolitik; geopolitics

20世紀初めに現れた国家学の一形態。国家の本質は,単に権利の主体,あるいは法的秩序の保障者たることにあるのではなくて,民族と国土にあり,新しい国家学は生活体としての国家を経験的に把握しなければならないとするもの。地理と政治が密接な関係にあることを,ドイツの地理学者 F.ラッツェルが『政治地理学』 (1897) の中で学問的にこれを体系化し,スウェーデンの政治学者 R.チェーレンは国家の解明にラッツェルの理念を取入れて『生活形態としての国家』 (1916) を著わして初めて地政学という名称を用いた。チェーレンの地政学にみられるような地理的決定論と国家有機体説との結合は,全体主義的な国家理念に通じやすく,ドイツの K.ハウスホーファー (元日本駐在武官) によって「生活圏」という概念を用いて発展し,ナチス・ドイツの侵略政策を正当化するための御用学問として利用された。第2次世界大戦後に自殺したハウスホーファーの「自分は科学者であるよりもドイツ人であった」という述懐はこのことを示している。大戦後,多くの学者によって,科学的用語としては不適当とされたが,アメリカの政治学者の間に地政学の影響が残っている。なお政治地理学という用語の代用として使われる場合もある。

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百科事典マイペディア 「地政学」の意味・わかりやすい解説

地政学【ちせいがく】

英語でgeopoliticsといい,20世紀初めに現れた政治学の一形態。スウェーデンのチェレンが政治地理学を発展させて創始,国家を土地を不可欠の構成要素とする地理的有機体として扱ったもの。ドイツのハウスホーファーによって継承されたが,これはナチスの政策に利用された。
→関連項目ラッツェル

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「地政学」の解説

地政学(ちせいがく)
geopolitics[英],Geopolitik[ドイツ]

一般には,自然地理的環境と民族や国家との関係を重視し,その解明をめざす学問をさす。考え方としては古来のものだが,19世紀にドイツのラッツェル(F.Ratzel)やスウェーデンのチェレーンによって体系化され,アメリカの海軍戦略家マハン,イギリスのマキンダー(H. J. Mackinder)の「ユーラシア大陸論」などにも同様の議論がみられる。ハウスホーファーらの地政学はナチスの侵略政策の合理化に用いられ,批判された。

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