大韓帝国(1897~1910。略称、韓国)末期の愛国運動家。現在の北朝鮮黄海南道(こうかいなんどう/ファンヘナムド)海州(かいしゅう/ヘーチュ)出身。字(あざな)は応七(ウンチル)。幼いころから射撃の名手として知られた。1894年、韓国南部で発生した甲午(こうご)農民戦争(東学党の乱)で、父親に従って農民軍の鎮圧に従事。1895年、キリスト教の洗礼を受けた(洗礼名はトーマス)。1905年(明治38)、韓国の外交権を日本に移して韓国を日本の保護国とする第二次日韓協約(乙巳(いっし)保護条約)が締結され、伊藤博文(ひろぶみ)が初代統監に就任すると、安重根は救国の方法を探るために、清国の上海(シャンハイ)に行った。1906年に帰国後は、鎮南浦(ちんなんぽ/チンナムポ)で三興学校を設立するなど、教育活動を通じた救国運動である愛国啓蒙(けいもう)運動に従事した。1907年、高宗(こうそう)皇帝がオランダのハーグで開かれた平和会議に密使を送ったハーグ密使事件が起きると、伊藤は高宗皇帝を退位させ、純宗(じゅんそう)皇帝を即位させた。さらに、韓国の内政権を日本が掌握する第三次日韓協約(丁未(ていび)約条)が締結され、韓国軍は解散させられた。このような状況のなか、安重根はロシアのウラジオストクに亡命、そこで日本に抵抗する義兵活動を行った。1909年5月、伊藤は韓国統監を退き、枢密院議長となった。伊藤が、満州(現在の中国東北地方)のハルビンでロシアの蔵相ココーフツォフVladimir Nikolayevich Kokovtsov(1853―1943)と満州・朝鮮問題について会談するとの情報を得た安重根は、1909年10月26日、列車内での会談を終えてハルビン駅のプラットホームに降りた伊藤を狙撃、射殺した。そしてその場でロシア官憲に逮捕されて、日本の司法当局に引き渡され、関東州の旅順(りょじゅん/リュイシュン)監獄に収監された。殺害理由については、伊藤を「大韓独立主権を侵奪した元凶」であり、「東洋平和を乱す者」だからと主張した。獄中で『東洋平和論』を執筆したが未完に終わった。1910年2月14日、旅順の関東都督府地方法院にて死刑が言い渡され、同年3月26日、旅順監獄で刑の執行がなされた。
[武井 一]
朝鮮の独立運動家。字は応七。黄海道海州の生れ。幼時に黄海道信川に移住し,1894年の甲午農民戦争時には父の進士泰勲に従って政府側義兵を起こし同地の農民軍を破った。その後フランス人宣教師から受洗しカトリック教徒となる。1904年,朝鮮が日本の軍事支配下に入ると国権回復の志を強くし,上海に行き同地在留の朝鮮政府旧高官などに運動を呼びかけたが失敗して帰国。06年平安南道鎮南浦に移り,敦義・三興の両学校を設立した。07年中国北間島を経てウラジオストクに赴き,同地を拠点として李範允らと義兵(義兵闘争)を組織する。08年6月義兵を率いて咸鏡北道へ進撃したが敗退。09年前韓国統監伊藤博文のハルビン訪問を知り,その殺害を計画し,10月26日ハルビン駅にて伊藤を拳銃で暗殺した。関東都督府地方法院で死刑判決を受け,翌年3月旅順監獄で処刑された。義士とたたえられ,その行動は永く朝鮮の独立運動を鼓舞した。
執筆者:糟谷 憲一
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1879~1910
朝鮮の独立運動家。1906年,平安南道鎮南浦(ちんなんぽ)で敦義(とんぎ)学校を設立し,人材育成と愛国啓蒙運動に尽力した。07年,独立運動の拠点であったウラジヴォストークに移動し,義兵運動に参加した。09年10月,伊藤博文(前韓国統監)の満洲視察を察知し,ハルビン駅頭で狙撃して殺害した。その場で逮捕され,翌年3月に旅順監獄で処刑された。獄中で『東洋平和論』を執筆。伊藤暗殺の衝撃のもとで,日本は韓国併合を推進した。
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1879.7.16~1910.3.26
李氏朝鮮末期の独立運動家。1905年(明治38)の第2次日韓協約で韓国が日本の保護国となったことに憤慨し,義兵運動に参加した。のちウラジオストクに亡命し,抗日独立運動を展開,韓国の道徳立国を主張し日本の背信を非難した。09年10月26日,ハルビン駅で前統監伊藤博文を暗殺,翌年3月旅順監獄で死刑に処せられた。韓国の国家的英雄。
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