航空機に乗り組み、旅客の保安業務とサービスを行う者の呼称。フライト・アテンダントflight attendant、キャビン・クルーcabin crewなどとよばれている。
[松下正弘]
1922年4月、イギリスのダイムラー航空(現、ブリティッシュ・エアウェイズ)が客室乗務員を最初に導入したといわれる。その後、各社に、保安や機内サービスなどの専門業務を行う「スチュワード」として広まっていった。1930年アメリカのボーイング・エア・トランスポート社が初めて女性客室乗務員「スチュワーデス」を導入した。日本では1931年(昭和6)日本航空輸送株式会社が「エア・ガール」を採用したのが始まりである。
かつては女性乗務員をスチュワーデス、男性乗務員をスチュワードとよんでいたが、1980年代以降は男女の区別がある職業名称を男女共通の名称に変える傾向があり、スチュワーデス、スチュワードともフライト・アテンダント(FA)、キャビン・クルーなどとよばれている。また、キャビン・アテンダント(CA)は、日本で定着したスチュワーデスにかわる通称である。
[松下正弘]
航空機内での業務は、大きくは二つある。一つは「保安業務」である。飛行中の安全監視をはじめ、緊急事態への対処がある。とくに緊急脱出を要する事態の際は、旅客をいち早く安全に機外に誘導できるよう、救命具の付け方や、脱出に必要な非常用装備品の用意・点検などの知識・技量を平素から身につけておかねばならない。また実践ではそれらを発揮できないといけない。二つ目は「サービス業務」であり、その内容は多岐に渡る。機内サービスのメニューは航空会社によって異なっているが、旅客に快適な時間を過ごしてもらうために各社くふうを凝らしている。客室乗務員の人数を増やしたり通訳を乗務させたりする人的なサービス、機内食に選択の幅をもたせたり機内誌や機内販売品・娯楽品を用意したりする物的なサービスをはじめ、視覚・聴覚による機内設備や特別コーナーの設置など制度面でのサービスがある。飛行中の業務以外、搭乗ゲートの受付業務が加わる会社もある。エコノミー、ビジネス、ファーストの3クラスのサービスの違いをはじめ、予約の際の座席の事前アサイン(割当て)、常顧客の名前を機内でも把握しアプローチできる体制、新規マイレージ顧客の拡大など、販売施策と結び付いたきめの細かい顧客獲得競争や、新サービスの創出に各社しのぎを削っている。
[松下正弘]
乗務開始前には専門訓練が実施される。これは資格を取るものではないが、各社とも段階的な技能向上教育を設けている。専門訓練には、地上訓練off the job training(OFF-JT)、および慣熟乗務訓練on the job training(OJT)がある。地上訓練では、一定期間、機内サービスのための訓練と保安要員としての緊急脱出訓練や救急看護法などについて、モックアップ(実物大模型)を使用して行う。国際線は訓練項目が多いので期間が長い。地上訓練を終えると、実際乗務を通しての慣熟乗務訓練がある。そのほか、国内・国際路線、機種、クラス、身分(社内資格)別による訓練が経験と条件に応じて設定されている。とくに保安要員としての非常救難訓練(ブラシアップ訓練)は、一定期間ごとに実施されている。
[松下正弘]
1994年(平成6)から契約制客室乗務員制度が導入された。契約制客室乗務員の賃金は、全日空および日本航空の場合、乗務手当でみると正社員よりかなり低く、付加給付や多くの手当、福利厚生などの労働条件は適用外である。3年間の契約満了後正社員への道が開かれている。また外国人客室乗務員の雇用も、日本人の正社員より低コストのため、人件費削減策として求められている。また乗客には多くの人種がおり、ことば、文化、習慣を知った客室乗務員によるサービスが提供できるため、外国人客室乗務員の雇用は国際的な傾向でもある。全日空および日本航空では、海外の主要空港から外国人客室乗務員を大型機には乗務させており、またいくつかの外資系航空会社では、日本人を客室乗務員とは別に通訳として採用している。
機内の乗務編成は労働条件に大きくかかわる。どの機種を一定の飛行時間、何人体制で勤務するか、到着後次の乗務がいつであるかなどの編成や乗務割基準について、1996年に航空法施行細則に一部基本的な改定がなされた。航空法施行規則第214条「客室乗務員にあっては当該航空機の型式及び座席数又は旅客数にそれぞれ適応して定められていること」を受け、航空会社は型式別編成数を決めている。しかし、細部にわたる内容は労使協定によるのが一般的である。搭乗人数は社によって異なるが、国内線で座席約40席当り1名、国際線で約30席当り1名が配置されている。一方、増収策としての免税品などの機内販売は各社とも力をいれているが、途中タービュランス(乱気流)にあって負傷するなど、作業量の増加となっている。客室乗務員は、男女雇用機会均等法、労働者派遣法など採用・労働条件の法整備変更や分社化の動きに伴って、雇用形態が今後大きく変わっていく職種である。
[松下正弘]
2001年9月の航空機によるアメリカ同時多発テロ以降、国土交通省によって航空分野におけるテロ対策がなされている。手荷物検査等空港警備の強化をはじめ、機内の保安強化を乗務員に対し指導している。2004年(平成16)1月には喫煙、電子機器の使用、旅客や乗務員に危害を及ぼす暴言などの「機内迷惑行為」防止のため、改正航空法が施行された。機内迷惑行為が発生した場合の対応は、各社で統一して規則で定めなければ、ほかの乗客への迷惑になるだけでなく、安全な飛行ができないことにもつながる。機内迷惑は飲酒がらみで発生することが多いため、機内での酒類の提供量を規制している国もある。飲酒ゼロがもっとも望ましいが、サービス上の問題から困難である。しかし、飲酒がらみの機内迷惑は、発生時の対応の仕方がとくにむずかしく、客室乗務員が被害者になる事例もある。また、1999年(平成11)3月に日本の航空会社の国際線・国内線すべての便が禁煙になってから、トイレなどで喫煙する乗客がおり、火災の原因になるので大変危険である。人的監視以外に高精度な煙センサーの設置などの対策が求められている。
[松下正弘]
『全日本空輸編『エアラインハンドブックQ&A100――航空界の基礎知識』(1995・ぎょうせい)』▽『月刊スチュワーデスマガジン編『スチュワーデス・スチュワードになる本――国内航空会社編』(1999・イカロス出版)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
「歓喜の歌」の合唱で知られ、聴力をほぼ失ったベートーベンが晩年に完成させた最後の交響曲。第4楽章にある合唱は人生の苦悩と喜び、全人類の兄弟愛をたたえたシラーの詩が基で欧州連合(EU)の歌にも指定され...
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