デジタル大辞泉
「審判」の意味・読み・例文・類語
しんぱん【審判】[書名]
《原題、〈ドイツ〉Der Prozeß》カフカの長編小説。未完。1925年に遺稿として刊行された。銀行員ヨーゼフ=Kが、理由もわからないまま逮捕・起訴され、死刑になるまでを描いた不条理小説。題名は、編者のマックス=ブロートが生前の著者との会話に基いてつけたもの。
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しん‐ぱん【審判】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 「しんばん」とも )
- ① ある事件を審理して判断、または判決を下すこと。さばき。法律上では、訴訟における審理と判決のほかに、行政機関が前審として特許の申請、海難事件などについて行なう手続や、家庭裁判所が家事事件や少年事件について行なう手続、またはその裁判をもいう。
- [初出の実例]「既にして、審判(〈注〉ギンミ)の日至りければ」(出典:西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉八)
- ② キリスト教で、神がこの世をさばくこと。人間は、その罪のために、神からさばきを受けなければならないが、イエス‐キリストによる罪のあがないを信じる者は、ゆるされるとする。さばき。
- [初出の実例]「再臨審判」(出典:讚美歌(1903頃)目次)
- ③ 運動競技の勝敗や反則などを判定すること。また、その人。
- [初出の実例]「試合は午後一時十分より久保田敬一氏審判の下に開始せられしが」(出典:毎日新聞‐明治三七年(1904)一一月一日)
- [ 2 ] ( 原題[ドイツ語] Der Prozeß ) 長編小説。カフカ作。未完。遺稿を友人のマックス=ブロートが整理して一九二五年に刊行。銀行員ヨーゼフ=Kが、ある朝、不意に逮捕され、正体不明の強権の中でしだいに破滅の道をたどっていく姿を描く。巨大な力によって、支配、翻弄される人間の悲劇を表出。
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審判(宗教)
しんぱん
宗教観念、宗教思想としての審判は、神が人間および社会の罪悪を審(さば)くということで、永生観念と結び付いた死後の審判、現世における罪と罰という応報思想、終末論と結び付いたこの世界の「最後の審判」の思想などがある。
人間の宗教的堕落、倫理的荒廃に対する神の審判を徹底して告知したのは、古代イスラエルの預言者たちである。しかし彼らは同時に、神ヤーウェへの背信反逆を悔い改める者への救いをも語った。この場合、審判はあくまで此岸(しがん)的なものである。一方、死後の審判という思想は、すでに古くエジプトの「死者の書」などにみられるが、『新約聖書』にも、おそらくゾロアスター教の影響を受けたユダヤ教を介して、死後の審判の思想が語られている。たとえばパウロは、「(死後)私たちは皆、キリストの審きの座の前で善であれ悪であれ、自分の行いに応じてそれぞれ報いを受けねばならない」(「コリント人への第二の手紙」5章10節)と記す。ところが「ヨハネ伝福音(ふくいん)書」は、「彼(イエス)を信じる者は審かれない。信じない者はすでに審かれている」(3章18節)と、審判の現在性を語る。現在のキリスト教においても、前者の死後の審判とそこでの救いを強調する諸宗派と、むしろ後者によって審判思想の実存的解釈をする神学とがある。なお、現世における罪の応報思想はキリスト教には希薄である。
[月本昭男]
『O・クルマン著、前田護郎訳『キリストと時』(1954・岩波書店)』▽『R・ブルトマン著、中川秀恭訳『歴史と終末論』(1959・岩波書店)』▽『大木英夫著『終末論』(1979・紀伊國屋書店)』
審判(法律)
しんぱん
法律上次のような各種の意義がある。
(1)訴訟における審理と裁判、または審理と判決のこと。訴訟における審判は公開の法廷で行われるのが原則である。裁判所は審判の請求を受けた事件について裁判をしなければならず、審判の請求を受けない事件について判決をしてはならない(刑事訴訟法378条3号)。付審判の決定があったときは、その事件について公訴の提起があったものとみなされる(同法267条)。
(2)家庭裁判所が家事事件手続法で定める家庭に関する事件および少年法で定める少年の保護事件について行う手続をいう。家事事件手続法では、決定の意味でも用いられる。
(3)行政機関が前審として争訟を審理・裁定する手続をいうこともある。たとえば、独占的状態があると認められる場合に、公正取引委員会が当該事件について行う審判手続を開始するような場合である。
[内田一郎]
審判(カフカの小説)
しんぱん
Der Prozeß
ドイツ語作家カフカの主要な長編小説。遺稿(未完)が死の翌年の1925年に出版された。高級銀行員ヨーゼフ・Kは、ある朝悪事も働かないのに逮捕される。行動は束縛されないが、不思議で猥雑(わいざつ)な裁判所で審理され、Kは予審判事を罵倒(ばとう)する。叔父が心配して、弁護士を紹介するが、裁判は進まず、Kはしだいに苦境にたち、裁判所の画家ティトレリに救いを求める。この間Kはいろいろな女性とむき出しの性的関連をもつ。終わりごろ聖堂の僧と掟(おきて)について問答を重ね、自分には不可解な罪について考えるが、最後に裁判所の刑吏によって死刑を執行される。平均的な近代市民の実体が目覚めさせられるのが主題である。
[城山良彦]
『『審判』(原田義人訳・新潮文庫/辻瑆訳・岩波文庫)』
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審判 (しんぱん)
法学の分野では次の三つの場合に用いられる。(1)訴訟における審理,裁判の略称。審判妨害罪(裁判所法73条),審判の公開(刑事訴訟法377条)などという場合の審判はこの意味である。講学上も,この意味で用いられることが少なくない。(2)家庭裁判所が家庭事件および少年事件について行う手続(裁判所法31条の3-1項)およびその結果出される決定(家事審判法13~15条)。この手続は非公開で,裁判官の大幅な裁量を許す形で行われ,裁判が決定(審判)の形をとる点で通常の訴訟手続と異なる。この手続を行う家庭裁判所の裁判官を家事審判官という(家事審判法2,3条)。家事審判および少年審判の項を参照。(3)準司法的行政機関が前審として争訟を審理・裁断する手続(裁判所法3条2項参照)。特許審判,海難審判,公正取引委員会の行う審判などがこれに当たる。その手続の結果出される判定の呼称は一様でなく,特許審判,公正取引委員会の審判では審決といい,海難審判では裁決という(特許法157条,独占禁止法54条,海難審判法42条)。なお,このような審判を行う者を審判官という。
執筆者:青山 善充
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審判(法律)【しんぱん】
訴訟法学では,審理・裁判の略称として用いるが,他方,家庭裁判所が家庭事件や少年事件についてする手続や,行政機関が前審として争訟を審理・裁断する手続(特許審判・海難審判や公正取引委員会の行う審判など)も審判という。さらに家事審判では,そこでなされる決定も審判と呼ぶ。
→関連項目強制調停|準起訴手続|少年鑑別所|犯罪少年|非常上告|保護処分
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審判
しんぱん
法律上は裁判所の審理と裁判,とくに判決 (裁判所法 73,刑事訴訟法 377) 一般,家庭裁判所が家事事件および少年事件についてする手続 (裁判所法 31条の3,1項1,2号) ,行政機関が争訟の前審としてする手続 (裁判所法3条2項) などをいう。行政審判には,第2次世界大戦後新しく日本に導入された行政委員会 (公正取引委員会など) またはこれに準じる行政機関 (電波監理審議会など) が行うものと,戦前より存続していた特別審判機関が行うもの (特許審判と海難審判) とがある。行政審判を経て行われる判断 (通常,審決という) については,行政審判において認定された事実は,これを立証する実質的な証拠があるときには裁判所を拘束するという,いわゆる実質的証拠法則が法定されている場合がある (独占禁止法 80,電波法 99) 。最近では議会,政党,大学,宗教団体などの自律権との関係で裁判所の審理,判断の限界が問われる場合に司法権の範囲と限界の問題としても審判という用語が用いられてきている。
審判
しんぱん
Der Prozeß
ユダヤ系ドイツ語作家 F.カフカの小説。 1925年刊。平凡な銀行員ヨーゼフ・Kは,ある朝,何の理由もなしに突然逮捕される。審理は奇妙な法廷において行われ,Kは無罪を主張するが効果はない。弁護士や裁判官とつながりがあるという画家との交渉を通しても要領を得ず,結局は不可解のまま1年後に処刑される。教誨師の語る,「掟の門」の中へ入ることができず,待ち続けて死ぬ男についての寓話が,不条理の世界と,現代人の罪責を追求したこの小説全体の意味を伝えているようである。
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審判
英国の作家ディック・フランシスのミステリー(2008)。原題《Silks》。競馬界を舞台にしたシリーズの第42作。
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普及版 字通
「審判」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典(旧版)内の審判の言及
【カフカ】より
…若い布地販売員グレゴールが巨大な虫に変身し,しだいに家族にうとまれて死ぬ著名な作品《[変身]》も同年末に完成,カール少年のアメリカ放浪記,長編《アメリカ》も書きすすめられたが,書くことと結婚への願望は両立し得ず,フェリーツェとは以後の5年間に2度婚約と解消をくりかえし,大部の手紙が残された。こうした懊悩を基底にして14年には《審判Der Prozess》の大部分が執筆され,短編《流刑地にて》も完成。16‐17年には精緻で幻想的な小品やアフォリズムが多く書かれたが,喀血して肺結核と診断され,療養生活をくりかえすうちに,20年,ミレナ・イェセンスカMilena Jesenskáとの恋愛時代にはいり,《ミレナへの手紙》を残す。…
【パプスト】より
…その後,ナチスが政権を握ってフランスへ去るまでに,反戦映画の名作として知られる《西部戦線一九一八年》(1930),ブレヒト劇の映画化《[三文オペラ]》(1931),労働者のストライキを描いた最初の傑作として知られる《炭坑》(1931)などでドイツの〈トーキー芸術〉の確立に寄与する一方,ピスカートルやハインリヒ・マンとともに映画労働者組織の先頭に立った。亡命時代はフランスでシャリアピン主演の《ドン・キホーテ》(1933),ハリウッドで《今日の男性》(1934)などをつくり,39年,スイス国境を越えてオーストリアに帰り,ユダヤ人迫害問題をあつかった《審判》(1948),ヒトラーの最後を描いた《最後の幕》(1955)など,〈セミ・ドキュメンタリー〉風の意欲作をつくるが往年の輝きはなく,56年に引退した。【柏倉 昌美】。…
【行政審判】より
…職権行使の独立性を有する合議制の行政機関が,裁判手続に準じた手続を経て,処分その他の決定を行う過程をいう。このような行政審判は,第2次大戦前から存在した[海難審判]および特許審判を除いては,戦後,アメリカ法の影響のもとで,日本に導入されたものである。すなわち,戦後,行政の民主化の一環として,アメリカの独立規制委員会にならって,各種の行政委員会が設置されたのであるが,同時に,それらの行政委員会がその準立法的権限や準司法的権限を行使する際の手続として,行政審判が導入された。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」