認知症や知的・精神障害などで判断能力が十分ではない人を弁護士や司法書士、福祉関係者、親族らが後見人となって支援する制度。特定の人の法的行為を制限する明治以来の禁治産・準禁治産制度を廃止し、2000年に導入された。後見人は本人に代わって預貯金の管理や福祉サービスの利用手続きをしたり、契約を取り消したりできる包括的な代理権があり、日常生活の見守りを担うこともある。本人や家族らが利用を申し立て、家裁が後見人を選定する。
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精神上の障害により判断能力が不十分であるために、契約などの法律行為における意思決定が困難な者について、その者(本人)の権利を守るために選任された援助者(成年後見人等)により、本人を法律的に支援する制度。この成年後見制度は、成人に対するものであり、判断能力が不十分な未成年者については、未成年後見制度がこれに相当する。また、成年後見制度は、家庭裁判所が成年後見人等を選任する法定後見制度と、本人と将来後見人になる者との間の契約(任意後見契約)に基づいて財産管理が行われる任意後見制度からなる。
[野澤正充 2022年4月19日]
成年後見制度は、1999年(平成11)の民法改正によって導入され、2000年(平成12)4月1日から施行されている。この1999年改正前の民法は、判断能力の不十分な者を保護する制度として、意思無能力者がした法律行為を無効とする(同法3条の2)とともに、禁治産・準禁治産制度を設けていた。すなわち、禁治産制度は、たとえば重度の認知症などにより心神喪失の常況にある者(本人)に対して、家庭裁判所が禁治産の宣告をし、後見人を付すと、この後見人が、本人にかわって財産管理や身上看護を行うものであった。また、準禁治産制度は、「心神耗弱(こうじゃく)者または浪費者(前後の見境なく財産を浪費してしまう癖のある者)」(本人)に対して、家庭裁判所が準禁治産の宣告を行い、保佐人を付すと、重要な財産行為については保佐人の同意が必要となり、その同意のない行為は、本人が取り消すことができた。そして、後見人も保佐人も、配偶者がなることが原則であり、該当者がないときは利害関係人の請求によって選任された。
しかし、上記の禁治産・準禁治産制度に対しては、以下の問題点が指摘されていた。すなわち、(1)後見人・保佐人が付されると、軽度の障害者にとってはその取引が大きく制限されてしまうこと、(2)後見人・保佐人となる配偶者が高齢のため、不適当な場合があること、(3)保佐人には取消権も代理権もなく、準禁治産者の保護に実効性がないこと、(4)禁治産の用語に社会的偏見が強く、しかも、本人は選挙権を喪失すること、(5)宣告が戸籍に記載されるため、制度を利用することに対する抵抗が強いことなどである。
[野澤正充 2022年4月19日]
以上のような状況において、一方では、高齢化の進展に伴い介護の問題が深刻化するなか、高齢者介護の社会化を目ざした介護保険法が1997年に制定された。この介護保険制度は、サービスを受ける者の自己決定による選択方式を採用するため、判断能力が不十分な者に対しては、自己決定ができるよう適切な支援をすることを前提としていた。それゆえ、介護保険法の円滑な運用のためにも、より利用しやすい新しい制度の整備が喫緊の課題であった。また、他方では、欧米諸国の成年後見立法の流れを受けて、自己決定権の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション(normalization=高齢者や障害者を隔離するのではなく、ともに暮らす社会が望ましいとする福祉の考え方)などの新しい理念が登場し、従来の本人保護の理念との調和を図る必要性が生じた。
そこで、成年後見制度に関する法改正が、介護保険法との同時施行(2000年4月)を目ざして準備された。そして、1999年12月8日、「民法の一部を改正する法律」(平成11年法律第149号)、「任意後見契約に関する法律(通称、任意後見契約法)」(平成11年法律第150号)、「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第151号)、および、「後見登記等に関する法律(通称、後見登記法)」(平成11年法律第152号)が公布され、2000年4月1日に施行された。この民法改正により、禁治産宣告・準禁治産宣告が廃止され、「後見開始」(民法7条)、「保佐開始」(同法11条)となり、「禁治産者」「準禁治産者」「無能力者」という偏見を与えかねない用語も、それぞれ、「成年被後見人」「被保佐人」「制限能力者」(2004年の民法改正により「制限行為能力者」)に改められた。また、ノーマライゼーションの観点から、判断能力が不十分であることを理由に資格を制限していた法律の見直しも行われ、2013年5月には、「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立し、同年7月以降に公示・告示される選挙から、選挙権・被選挙権の制限がなくなった。ただし、成年被後見人・被保佐人は、公務員や弁護士・医師になることができず、会社の取締役にもなれないなどの、職業や資格の制限は残されていた。しかし、この制限についても、見直しがなされている(後述)。
[野澤正充 2022年4月19日]
成年後見制度の施行以来、その利用者数は増加傾向にある。しかし、認知症高齢者の総数と比較すると、その利用率は低い。たとえば、2025年の認知症の有病者数は約700万人になると推計されているのに対して、2015年時点の成年後見制度の利用者数は約19万人にすぎなかった。そこで、2016年4月8日、「成年後見制度の利用の促進に関する法律(通称、成年後見制度利用促進法)」(平成28年法律第29号)が成立した。この法律は、(1)成年後見制度の理念(ノーマライゼーション・自己決定権の尊重、身上の保護の重視)の尊重、(2)地域の需要に対応した成年後見制度の利用の促進、および、(3)成年後見制度の利用に関する体制の整備をその基本理念としている(同法3条)。そして、国・地方公共団体の責務(同法4・5条)、関係者・国民の努力(同法6・7条)、および、関係機関等の相互の連携(同法8条)を定めている。また、政府は、成年後見制度利用促進基本計画(同法12条)を定めるとともに、成年後見制度利用促進会議を設け、「施策の総合的かつ計画的な推進を図る」ものとする(同法13条)。
ところで、成年後見制度利用促進法第9条は、「成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正」その他の「必要な法制上の措置」については、同法施行後「3年以内を目途として講ずるものとする」と規定していた。また、同法第11条2号も、「成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行うこと」を明記していた。そこで、この規定に従い、成年被後見人等の欠格条項の見直しが行われ、2019年(令和1)6月14日、「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和1年法律第37号)が成立した。この法律は、成年被後見人等を資格・職種・業務等から一律に排除する規定等(欠格条項)を設けている各制度について、心身の故障等の状況を個別的・実質的に審査し、制度ごとに必要な能力の有無を判断する規定(個別審査規定)へと適正化するとともに、所要の手続規定を整備する(180法律程度)ものである。具体的には、国家公務員等に関しては国家公務員法等の欠格条項を削除し、また、弁護士法や医師法の欠格条項については、これを削除し、あわせて個別審査規定を整備した。このほか、医療法・信用金庫法等における法人役員の欠格事由から成年被後見人等を削除し、あわせて個別審査規定を整備した。
[野澤正充 2022年4月19日]
前述のように、成年後見制度には、家庭裁判所が成年後見人等を選任する法定後見制度と、本人と将来後見人になる者との間の契約(任意後見契約)に基づく任意後見制度がある。
[野澤正充 2022年4月19日]
(ア)制度の類型
法定後見制度には、保護を必要とする者(本人)の判断能力(「事理を弁識する能力」)の程度に応じて、(1)成年後見、(2)保佐、および、(3)補助の三つの類型がある。
(1)成年後見類型
1999年の改正前民法の禁治産に相当する。精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者を対象に、家庭裁判所が後見開始の審判を行う(民法7条)。そして、後見開始の審判を受けた者は成年被後見人とされ、これに成年後見人が付される(同法8条)。成年後見が開始されると、成年被後見人は、日用品の購入その他の日常生活に必要な範囲の契約以外は、単独で行うことができなくなる。すなわち、成年後見人は、成年被後見人のした法律行為を取り消すことができる(同法9条)。また、成年後見人には、成年被後見人の財産に関する法律行為についての代理権が付与される(同法859条1項)。
(2)保佐類型
1999年の改正前民法の準禁治産に相当する。精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者が対象となる(同法11条)。ただし、改正後の民法では、浪費者は対象とならない。保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とされ、保佐人が付される(同法12条)。保佐が開始されても、被保佐人は行為能力を失わないため、法律行為を行うことができる。しかし、元本の領収、借財、保証、不動産または重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、訴訟行為等、一定の重要な財産行為については保佐人の同意を得なければならず(同法13条1項)、その同意を得ないでしたものは、被保佐人または保佐人が取り消すことができる(同法13条4項)。このように、保佐人には、一定の法律行為についての同意権と取消権が認められる。そのほか、民法は、家庭裁判所が、特定の法律行為について、保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができるものとした(同法876条の4)。
(3)補助類型
1999年の民法改正によって新設された類型であり、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者を対象とする(同法15条)。すなわち、軽度の精神上の障害などにより判断能力が不十分な者のうち、保佐よりも判断能力が高い者が対象となる。補助開始の審判を受けた者は、被補助人とされ、補助人が付される(同法16条)。補助が開始されても、被補助人(本人)は行為能力を失わない点では、保佐と同様である。しかし、保佐のように、補助人の同意を要する行為が列挙されず、家庭裁判所が、特定の法律行為(たとえば、土地の売買契約など)について、審判により、補助人に代理権(同法876条の9)または同意権・取消権(同法17条)の一方または双方を付与する。なお、補助の開始決定にあたっては、本人が請求した場合を除いて、本人の同意を得なければならず(同法17条2項)、本人の意思を尊重する制度になっている。
なお、以上の成年後見人、保佐人、補助人(以下、「成年後見人等」という)は、本人の財産を管理するとともに、身上看護の事務を行うにあたっては、本人の意思を尊重し、かつ、その身上に配慮しなければならない(同法858条・876条の5・876条の10第1項)。
(イ)成年後見人等の選任
成年被後見人等の選任は、親族等からの申立てを受けて(民法7・11・15条1項)、家庭裁判所が職権で行う(同法843条1項・876条の2第1項・876条の7第1項)。家庭裁判所は、複数名を選任してもよく(同法843条3項・876条の2第2項・876条の7第2項)、また、法人(たとえば社会福祉法人)を選任してもよい(同法843条4項・876条の2第2項・876条の7第2項)。
成年後見制度の運用が始まった当初(2000年)は、成年後見人に選任される者の約9割が親族であった。しかし、その後は、弁護士や司法書士などの専門職が多くを占める第三者が後見人に選任されている(2019年には、成年後見人の約78.2%が第三者後見人である)。その背景には、親族の後見人による財産の横領の問題が指摘されている。そこで、2012年2月に、後見制度支援信託が整備された。この制度は、成年被後見人(または未成年被後見人)の全財産を信託銀行の口座に移し、後見人が信託財産から払戻しを受け、または契約を解約するためには、家庭裁判所が発行する指示書を必要とすることにより、不適切な財産管理を防ぐものである。
(ウ)成年後見人等に対する監督
家庭裁判所が行う。ただし、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、本人、親族もしくは成年後見人等の請求により、または職権で、後見事務を監督する成年後見監督人等(成年後見監督人、保佐監督人、補助監督人)を選任することができる(民法849条・876条の3・876条の8)。そして、成年後見人等に不正な行為など後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、成年後見監督人等、本人、親族、検察官の請求により、または職権で、成年後見人等を解任することができる(同法846条・876条の3第2項・876条の8第2項)。
[野澤正充 2022年4月19日]
(ア)意義
本人(委任者)が十分な判断能力を有するときに、あらかじめ、任意後見人となる者(任意後見受任者)や将来その者に委任する事務(本人の生活、療養看護および財産管理の事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がこれらの事務を本人にかわって行う制度である。法定後見制度においては、家庭裁判所が成年後見人等を選任するのに対して、任意後見制度は、本人と任意後見受任者との委任契約(任意後見契約)を締結することによって、任意後見人を選任する制度である。成年後見制度の理念である自己決定権の尊重を具現化した制度であり、2000年に任意後見契約法によって導入された。
(イ)任意後見契約の概要
(1)任意後見契約の方式
本人の意思と任意後見人の権限や義務を明確にするため、同契約は、法務省令で定める様式の公正証書によって行わなければならない(任意後見契約法3条)。
(2)任意後見監督人の選任
任意後見契約が締結され、その登記をした後(後見登記法5条)に、本人の判断能力が不十分になったときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族または任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する(任意後見契約法4条)。ただし、任意後見受任者または任意後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹は、任意後見監督人となることができない(同法5条)。
(3)本人の意思の尊重
任意後見人は、委任に基づく事務を行う際、本人の意思を尊重し、その心身の状態および生活の状況に配慮しなければならない(同法6条)。
(4)任意後見監督人の職務
任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告をしなければならない。また急迫の事情がある場合や利益相反行為に関しては、任意後見監督人が代理権を行使することができる(同法7条)。
(5)任意後見人の解任
任意後見人に不正な行為などがあったときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、親族または検察官の請求により、任意後見人を解任することができる(同法8条)。
(6)任意後見契約の解除
任意後見監督人が選任される前においては、本人または任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。任意後見監督人が選任された後においては、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、契約を解除することができる(同法9条)。
(7)法定後見との関係
任意後見契約が登記されている場合には、原則として、任意後見契約が優先する。ただし、家庭裁判所が本人の利益のためとくに必要があると認める場合には、法定後見が開始され、任意後見契約は終了する(同法10条)。
[野澤正充 2022年4月19日]
1999年の民法改正の前は、禁治産・準禁治産の宣告があった場合には、取引の安全を図るため、戸籍簿にこの宣告内容が記載されていた。これに対しては、抵抗感を示す者が少なくなく、禁治産・準禁治産の制度が利用されない理由の一つとなっていた。そこで、成年後見制度の導入に伴い、このような抵抗感を取り除くとともに、プライバシーにも配慮して、官報公告や戸籍簿への記載が廃止され、法定後見および任意後見契約を公示する後見登記制度が創設された。
後見登記法によれば、登記事務は法務局で行われ(同法2条1項)、登記情報の開示は登記事項証明書の交付によって行われる。ただし、登記事項証明書の交付を請求できる者は、登記されている者(本人、法定・任意後見人、法定・任意後見監督人など)と配偶者、4親等内の親族に限定されており、職務上必要がある場合のみ国や地方公共団体の職員の請求が許可されている(同法10条)。
[野澤正充 2022年4月19日]
『本山敦「第1編親族法 第4章後見・保佐・補助」(前田陽一・本山敦・浦野由紀子著『民法Ⅵ 親族・相続』第5版所収・2019・有斐閣)』▽『二宮周平『家族法』第5版(2019・新世社)』▽『冷水登紀代「第4編親族 第5章後見」(松岡久和・中田邦博編『新・コンメンタール民法(家族法)』所収・2021・日本評論社)』▽『〔WEB〕厚生労働省『成年後見制度の現状』(2021) https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000760235.pdf(2022年3月閲覧)』
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(中谷茂一 聖学院大学助教授 / 2007年)
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