市場機構によって決定される所得の分配(所得分配)を,なんらかの目的に基づいて分配しなおすこと。経済政策は直接的であれ間接的であれ,いずれも所得再分配という機能を営んでいる。所得移転を本来の目的としている所得再分配政策は,一般に機会の均等,最低生活の保障,生活の安定に資するために講じられる。義務教育,地方交付税・国庫支出金,社会保障,低開発国援助などがその例である。他方,完全雇用政策・公共投資あるいは市場価格の直接規制・操作(公共料金規制,米価支持,最低賃金,家賃統制,輸入関税),さらには公共財源の調達・発行(租税,社会保険料,国債)などによっても所得は間接的に再分配される。直接的な所得の再分配は必ずしも所得の完全平等化を目的とはしていない。最低生活の保障水準は平均生活水準より低く設定されるのが普通である。また生活の安定という目的は同一所得階層内部における所得の再分配を意味しており,所得の平等化には必ずしもつながらない。直接的であれ間接的であれ所得が再分配されると,資源配分も結果的に影響をうける。とくに個人貯蓄や就労意欲,あるいは企業の投資行動や雇用計画は多かれ少なかれ,その影響をうける。その場合,効率性という経済目的との調整問題が発生する。また価格規制による所得の再分配は不公平をもたらしやすく,資源配分の効率を損なうおそれが強い。非常時をすぎると価格規制は一般に緩和される。
所得再分配には利害対立が伴う。異なる利害は政治的に調整が図られるものの,間接的な民主主義のなかでは個別の利害が優先され,一般利益は軽視されやすい。また実質的に発言権を有していない者の利害も無視されるおそれがある。
執筆者:高山 憲之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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