第一審判決に対して,上級裁判所になされる上訴。ただし第一審判決に対する上訴として,例外的に跳躍上告がなされることがあるし,また高等裁判所が第一審として下した判決(例えば独占禁止法85条,特許法178条,裁判所法16条4号等)に対しては,最高裁判所に上告することしかできない。
第一審の終局判決に対する,第2の事実審への上訴である。第一審でなされた,事件の審判を完結する判決(終局判決)に対してのみ許され(民事訴訟法281条1項),中間判決等の中間的裁判に対しては独立の控訴はできない。その代りに,中間的裁判のうち〈不服申立ての許されないもの〉と,〈抗告の対象になるべきもの〉以外のものは,終局判決に対して控訴がなされたときにともに控訴裁判所の判断を受ける(283条)。これは中間的裁判に不服申立ての理由があるのなら,その裁判を前提とする終局判決にも不服申立ての必要があるはずなので,中間的裁判に対する不服は終局判決に対する控訴について判断する中で扱えば足りる,ということに基づく。終局判決中の訴訟費用に関する裁判に対しても,事件そのものについての判決と独立に控訴することは許されない(282条)。
当事者が控訴によって第一審の終局判決に対する不服の当否についての審判を控訴裁判所に求める権能を控訴権といい,これは第一審判決によって不利益を受けた当事者に生じる。控訴権は,当事者間に不控訴の合意があるときは発生しない。控訴権は放棄することもできる(284条)。控訴期間(第一審判決送達の日から2週間の不変期間。285条)内に控訴を提起しないと,控訴権は消滅する。控訴権のない当事者による控訴は,不適法として却下される。
控訴は,控訴期間内に控訴状を第一審裁判所に提出して提起する(286条)。控訴期間内に控訴が提起されると,第一審判決の確定は妨げられる(確定妨止の効力。116条2項)。控訴が提起されると事件は控訴裁判所に移り,そこで審判される状態に入る(移審の効力ただし,287条参照)。控訴裁判所は,第一審が簡易裁判所のときは管轄地方裁判所,第一審が地方裁判所のときは管轄高等裁判所である(裁判所法16条1号,24条3号)。確定妨止の効力と移審の効力は,控訴人が第一審判決に対してどれだけの限度で不服を申し立てているかにかかわりなく,第一審判決の全部について不可分に生じる(控訴の不可分)。ただし,第一審判決が1個でも,通常共同訴訟人(共同訴訟)に対するものである場合は,共同訴訟人の一部によるまたは一部に対する控訴の効力は,他の共同訴訟人には及ばない(民事訴訟法39条)。また当事者間に第一審判決の一部について不控訴の合意があったり,当事者が第一審判決の敗訴部分について控訴権ばかりでなく付帯控訴(後述)の権利までも放棄した場合には,その部分について,第一審判決の一部確定の状態が生じる。
控訴人は,控訴審の終局判決があるまで,控訴を取り下げることができる(292条1項)。控訴の取下げは,現になされている控訴という不服申立てを撤回するだけのものであるから,一度取下げをしても控訴期間内であれば,同じ第一審判決に対してふたたび控訴を提起できる。この点で,その判決についてはおよそ控訴をしないということを意味する〈控訴権の放棄〉と異なる。また控訴の一部取下げはできない。適法な取下げにより,控訴の効果がはじめにさかのぼって消滅し,事件ははじめから控訴審に移審しなかったことになり,開始された控訴審手続は終了する。そして控訴期間内に取下げがなされた場合は,ふたたび控訴がなされずに期間が経過すれば期間満了時に,また控訴期間経過後に取下げがあった場合は,期間満了時にさかのぼって,第一審判決が確定する。
控訴審の審理は,第2の事実審として第一審の続行の形をとる(続審主義)。控訴審は,第一審判決に対する不服の当否を審判する場であるが,審理に当たっては第一審での審理を踏まえてそれを続行し,事実認定を行い新たな判断資料を補充したうえで法を適用し,なお第一審判決が維持できるかどうかを調査するのである。控訴審の手続には,一般に地方裁判所における第一審の手続に関する規定が準用される(297条)。控訴審手続は第一審手続の続行なので,第一審でなされた訴訟行為は控訴審でも効力を持つ(298条)。口頭弁論も第一審の口頭弁論の続行としての意味を持つので,当事者は第一審の口頭弁論の結果を陳述してその内容を控訴審の裁判官に知らせなければならない(296条2項)。新たな攻撃防御方法の提出も,控訴審の口頭弁論の終結に至るまでできる(弁論の更新権。156条参照)。しかし,その提出が時機に後れたものは却下されることがある(157条1項。なお301条参照)。その判定は第一審と控訴審の口頭弁論を通じてなされるので,第一審で提出できたはずの攻撃防御方法は時機に後れたものということになる。口頭弁論は,控訴人の不服申立ての限度で行われる(296条1項)。また反訴は,相手方の同意がある場合にだけできる(300条)。
控訴審の裁判には,控訴状却下命令(288条),控訴を不適法として却下する判決(290条。なお293条参照),控訴を理由なしとする控訴棄却の判決(302条1項),控訴を理由ありとして認容する判決などがある。控訴棄却の判決は,控訴人の不服に理由がない場合だけでなく,第一審の判決理由が不当でその意味では不服に理由があっても,第一審判決の結論自体は他の理由から維持できる場合にも下される(302条2項)。また控訴認容の判決においては,控訴裁判所は第一審判決を取り消したうえで(305条,306条),訴えについてみずから裁判をする(取消自判)のが原則であるが,事件を第一審に差し戻したり(取消差戻し。307条,308条),事件を管轄裁判所に移送したり(取消移送。309条)することもある。なお控訴裁判所が第一審判決を取消変更する場合,それは控訴人の不服申立ての限度でなされ(304条),職権で裁判できる事項を除き,相手方の控訴または付帯控訴がない限り,控訴人にとって第一審判決よりも不利に裁判することはできないし(不利益変更の禁止),また控訴人が不服申立てにより求めている以上に有利に裁判することもできない。控訴がなされると第一審判決の全部の確定が妨げられるが,実際に審判がなされるのは当事者の不服申立ての限度においてであるから,第一審判決中当事者のいずれからの不服申立ての対象にもなっていない部分については,控訴裁判所は申立てに基づいて仮執行の宣言をすることができる(294条)。
控訴裁判所は,控訴を棄却する場合に,控訴人が訴訟の完結を遅らせるだけの目的で控訴を提起したと認めるときは,控訴提起の手数料として納付すべき金額の10倍以下の金銭の納付を命じて(金銭納付の裁判),制裁を加えることができる(303条)。
控訴審手続中で,被控訴人が第一審判決に対してみずからの不服の主張をし,控訴審の審判の範囲を自己に有利に拡張する申立てをいう。付帯控訴は控訴審の口頭弁論の終結に至るまでできる(293条1項)。例えば第一審で全部勝訴の被控訴人が付帯控訴により自己にさらに有利な判決を求めるというように,独立しては控訴の利益が認められない場合にも利用できる。また控訴期間の経過や控訴権の放棄によってみずからの控訴権を有しない当事者も,相手方の控訴を利用して付帯控訴をすることはできる(293条)。付帯控訴については,控訴に関する規定が準用される(293条3項)。
執筆者:大須賀 虔
刑事訴訟においても,控訴は,第一審判決に対する事実審への上訴である。被告人と検察官は,この制度によって,第一審判決の法令違反のみならず不当な事実認定や刑の量定についても,上級裁判所に是正を求める機会を保障される。日本では,1880年公布の治罪法が違警罪と軽罪事件について控訴を認めたのに続いて,旧々刑事訴訟法,旧刑事訴訟法はともに原則として全事件について控訴を許し,現行刑事訴訟法も同様である。とはいえ,控訴審手続の内容には変化があった。旧刑事訴訟法では,控訴を申し立てる者は原判決(第一審の判決)に対する不服の理由を明らかにする必要はなく,また控訴審でも当然に証拠調べの手続が行われた。これに対して現行法では,控訴申立人は,原則として第一審にあらわれた資料に基づいて原判決の不当性を指摘しなければならないこととされた。控訴審の審理は,原判決に申立人が主張するような誤りがあるかどうかの解明を中心に行われる。証拠調べも,当然に行われるわけではない。これらの違いをとらえて,多くの学説は,旧法の控訴審は第一審と同じ手続を繰り返す覆審であったが,現行法では原判決の当否を審査する事後審になったと説明している。
現行法では,原則としてすべての第一審判決に対して控訴を申し立てることができるが,例外的に高等裁判所が第一審として裁判する事件(内乱罪など)では,控訴が許されない(刑事訴訟法372条)。被告人,第一審の弁護人および検察官が,控訴を申し立てることができる。その他,被告人の法定代理人なども被告人のために控訴をすることができる(351条,353条,355条)。控訴裁判所となるのは高等裁判所である。控訴を申し立てるには,原判決の言渡しから14日以内に,高等裁判所あての申立書を第一審裁判所に提出しなければならない(373条,374条)。控訴申立人は,裁判所が定める期間内に,一定の不服の理由を記載した控訴趣意書をも提出しなければならない。控訴趣意書に記載することのできる控訴理由は,法文に列挙されたものに限られる(384条)。そのうちのおもなものは,原審の訴訟手続が法令に違反していたこと,原判決の法令適用に誤りがあること(380条),刑の量定(いわゆる量刑)が不当であること(381条),および事実の認定に誤りがあること(382条)である。訴訟手続の法令違反のうち,法律上関与することが許されない裁判官が判決に関与した場合などのように,一定の重大なものは,当然に控訴の理由になる(377条,378条)が,その他のものは,その違反が明らかに判決に影響したと認められる場合に限り,控訴の理由として主張できる(379条)。法令適用の誤りや事実誤認も,同様に判決に影響を及ぼすことが明らかなものだけが控訴の理由となる。事実誤認や量刑不当を主張する場合には,第一審の記録またはすでに取り調べられた証拠の中にあらわれた事実によって,その主張の根拠を示さなければならない。ただし,そのほかにも,第一審で取調べを請求することができない事情のあった証拠によって証明することのできる事実は,根拠として援用することができる(382条の2)。
控訴審の公判における審理手続は,第一審と異なる点が多い。被告人は,原則として出廷の義務を負わず(390条),出廷しても自分自身で弁論することはできないので弁護人に弁論させなければならない(388条)。公判手続は,控訴趣意書に基づく弁論によって始まる。裁判所は,原判決を破棄すべき理由があるかどうかという観点から,控訴趣意書に含まれた事項は必ず調査しなければならないが,それ以外でも控訴の理由となりうる事由については職権で調査を及ぼすことができる(392条)。これらの調査をするために必要があるときは,裁判所は当事者の請求または職権で事実の取調べをすることができる。事実の取調べをするかどうかは,原則として裁判所の裁量に任されているので,当事者が新しい証拠を提出しようとしても,それを取り調べるか否かは,裁判所の判断による。ただし,第一審で取調べを請求できなかった事情があり,しかも事実誤認または量刑不当を証明するために不可欠な証拠は,取り調べなければならない(393条1項)。原判決後の情状(たとえば被害弁償)は,当事者から量刑不当の根拠として援用することはできないが,裁判所は職権で取り調べることができる(同条2項)。
審理の結果,原判決を破棄すべき理由がなければ,控訴は棄却される(396条)。原判決を維持できないときには,これを破棄したうえで,事件を第一審裁判所に差戻しして裁判をやり直させるか,または控訴裁判所自身が事件について自判して,結論を示す判決を下す(不法に裁判管轄を認めたことを理由に原判決を破棄したときは,事件を管轄の第一審裁判所へ移送する。397~400条)。なお,被告人側だけが控訴をした場合には,原判決よりも重い刑を科すことは,不利益変更の禁止という原則に触れ,許されない(402条)。
→審級
執筆者:後藤 昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
訴訟法上、未確定の裁判について、上級裁判所にその再審査を求める不服申立てである上訴の一種。
[本間義信]
第一審の終局判決に対する上訴をいう。第一審で不利益な判決を受けた当事者が、これを不服として上級裁判所(控訴裁判所)に、その取消しを求めて行う。ここでいう不服とは、判決主文中の判断(したがって請求についての判断)に対するものでなければならず、したがって、判決の理由のみに不服がある場合には控訴できない。また、主観的に不服があるというだけでは控訴できず、裁判所に要求したもの(本案の申立て)とそれに対する判決とを比較して、後者が前者より当事者にとって不利益であるときに、不服が認められる(形式的不服)。
控訴審では、第一審判決の当否を、事実認定と法律適用の両面で審理し、事件を再審理する。事実審理をする点で事実審といわれる(法律審たる上告とは異なる)。事実審理については、控訴審は第一審での訴訟資料を基礎としながら(したがって、当事者は第一審における口頭弁論の結果を陳述し、第一審においてなした訴訟行為は、控訴審においても効力を有する――民事訴訟法296条2項・298条1項)、さらに新たな資料も加えて(攻撃防御方法の提出等は、裁判所の定める期間内にせねばならず、これを経過してから訴訟行為をする当事者は、裁判所に対し、その理由を説明しなければならない)第一審判決の当否を審査する(これを続審主義という)。控訴審で原判決を変更する場合には、不服申立ての限度においてのみ、これをなすことができ、控訴人にとって原判決以上に不利な判決をなすことができない(同法304条――不利益変更禁止の原則という)。したがって、口頭弁論も不服申立ての限度で行われる(同法296条1項)。原告・被告双方から控訴がなされれば、不利益変更禁止の原則は適用されない。
控訴裁判所は、簡易裁判所の判決に対しては地方裁判所、地方裁判所の判決に対しては高等裁判所である。控訴は、判決の当事者への送達より2週間以内に、控訴状を原裁判所(第一審裁判所)へ提出することによって行う。控訴が不適法でその不備を補正できないことが明らかな場合(たとえば控訴期間が過ぎてから提起された控訴)には、第一審裁判所は、決定で、控訴を却下しなければならない。また、控訴が不適法でその不備を補正できないときは、控訴裁判所が、口頭弁論を経ないで、判決で、控訴を却下できる。期日の呼出しに必要な費用の予納を命じたのにそれがない場合は、控訴裁判所は、決定で、控訴を却下することができる。控訴の提起の効果として、原判決の確定が遮断され、当該事件について控訴審への移審の効力が生ずる。これらの効果は原判決全部について生ずる。
原判決の言渡し後であれば、当事者は控訴権を放棄できるし、控訴提起後も、控訴審の終局判決の言渡しまでは、いつでも控訴の取下げが可能である。当事者双方が口頭弁論期日あるいは弁論準備手続期日に欠席した場合、もしくは、出席はしたが何も述べないで帰った場合で1か月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなされる。当事者双方が連続して2回同様のことをしたときも同じ扱いになる(民事訴訟法292条2項・263条)。控訴期間内に取り下げられた場合には、期間内に再度控訴の提起が可能であるが、控訴期間内に控訴の申立てをしない、あるいは、その後に取り下げられた場合には、原判決(第一審判決)が確定することになる。
[本間義信]
第一審判決に対する上訴をいう。控訴の提起は、検察官、被告人いずれの側からもできるが、第一審判決に法で定める瑕疵(かし)(裁判のやり方に法律が定める手続違反、法律の解釈適用の誤り、事実誤認があるなどの控訴理由。刑事訴訟法377条~384条)があることを主張し、その破棄を求めることが必要である。
刑事訴訟の控訴審は、第一審で提出された訴訟資料を基礎として、原判決の内容の当否を審査する事後審制を採用している。しかし、事実誤認、刑の量定不当も控訴理由となっていること(刑事訴訟法381条・382条)から、新事実、新証拠の取調べも認められている(同法393条)ので、修正された事後審制といえよう。また、刑事訴訟においても、不利益変更禁止の原則が認められている(同法402条)。
控訴裁判所は、簡易裁判所、地方裁判所、家庭裁判所のいずれの判決に対しても高等裁判所である。控訴は、裁判告知の日から14日以内に申立書を第一審裁判所に提出して行う。
検察官または被告人等は控訴の放棄・取下げを原則としてすることができる(死刑、無期の懲役または禁固の判決に対する控訴は放棄できない)。この場合は、さらに控訴することができない。
[本間義信]
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