政府の規制を大幅に緩和し、自由競争を重んじる経済思想。1980年代のレーガン米政権期のレーガノミクスや、サッチャー英政権のサッチャリズムが代表的。冷戦後のグローバル化に伴って加速・拡大し、日本でも2000年代に小泉内閣が推進した。自助精神や産業競争力回復に寄与したと評価される一方、格差を広げたとの批判も根強い。
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1980年代以降に世界的に支配的となった経済思想・政策の潮流。1960年代の末から70年代にかけて、ドル・ショック(アメリカの経済的衰退を明確にしたドルの金兌換中止)、オイル・ショック、激化する労働運動、そして低成長下のインフレーションなど、第二次世界大戦後、高成長を維持してきた先進国の資本主義は大きな危機にみまわれた。その際、その高成長を支える思想体系としてのケインズ主義(市場を自由放任にするのではなく、政府が積極的に介入する)にとってかわる危機の解決として現れ、80年代から資本主導のグローバリゼーションのイデオロギー、実践的な知として支配的潮流の座についたのが新自由主義である。その源流にはフリードリヒ・ハイエク、シカゴ学派のミルトン・フリードマンといった経済学者がいる。
そもそも自由主義は、いわゆる「自由放任主義」としてイメージされるような、市場の論理を制約する一切をただただ退ける消極的な議論ではない。18世紀にデビッド・ヒューム、アダム・スミスらによって提起された古典的自由主義は、それまでの絶対王政や重商主義に取ってかわり、国家ではなく、市場を介してみずからの利益を理性的に追求する諸個人からなる自律的な社会の運動法則から出発する統治の技法を提案する実践的な知でもあった。絶対王政を支えた国家理性の教義が、統治能力の向上と国家の肥大とを密接に結びつけていたとすれば、自由主義は統治能力の向上のためには国家はむしろ介入の領域をみずから制約しなければならない、と発想の転換を促したのである。
新自由主義は古典的自由主義と同じく、実践的な知である。たとえば、古典的自由主義は、絶対王政の「過剰統治」と国家の肥大化を批判し、「神の手」によって運営される市場の論理にもとづく市民社会の自律性をうたいながら登場したが、新自由主義はケインズ主義的福祉国家の所得再分配政策などがもたらす「過剰統治」と国家の肥大化こそがシステムの機能不全の原因として、規制緩和、福祉削減、緊縮財政、自己責任などを旗印に台頭した。その場合、古典的自由主義とは区別される新自由主義の特徴は、独特の保守的側面と「ラディカル」ともいえる徹底した側面にある。すなわち前者が絶対的な国家秩序を批判しつつ啓蒙主義的勢力として現れたのとは対照的に、新自由主義は新保守主義と手をたずさえながら、家族の価値のような保守的道徳観の復活、治安の強化、マイノリティの権利の削減、排他的ナショナリズムといった強い国家の再編成を促す傾向にある一方で、従来は市場の論理にはなじまないとされてきた領域――たとえば公教育、福祉、犯罪政策など――にまで、その論理を拡大する徹底した傾向をもつ。
こうした新自由主義による改革の効果は、アメリカのように一部の先進国の経済成長に資した部分もあったが、企業権力の肥大化、南北間のみならず一国内での貧富の格差の拡大、弱肉強食イデオロギーの浸透による市民の連帯意識の衰退といった負の効果ももたらし、90年代以降は「第三の道」と呼ばれるヨーロッパでの社会民主主義勢力や、アンチ・グローバリゼーションの運動など、さまざまなレベルで新自由主義にかわる社会のあり方が模索されている。
[酒井隆史]
『ミルトン・フリードマン、ローズ・フリードマン著、西山千明訳『選択の自由――自立社会への挑戦』(1980・日本経済新聞社)』▽『アンドルー・ギャンブル著、小笠原欣幸訳『自由経済と強い国家』(1990・みすず書房)』▽『フリードリヒ・ハイエク著、一谷藤一郎・一谷映理子訳『隷従への道』(1992・東京創元社)』▽『スーザン・ジョージ著、毛利良一・幾島幸子訳『グローバル市場経済生き残り戦略』(2000・朝日新聞社)』
自由主義が経済過程への国家の干渉の極少化を唱えた点は,産業化に伴う社会問題の発生以来さまざまな批判を浴び,自由主義国家もしだいに自由放任政策を放棄した。このような条件の変化に応じて自由主義を再解釈する試みを新自由主義という場合がある。T.H.グリーンは資本主義の生む不平等の下に真の契約の自由はありえないとして,労働者の立場を強化するために国家の積極的な政策が不可欠であると説いた。ルソーやヘーゲルを援用する彼の新理想主義は,自由の実現のために国家の果たすべき積極的役割を示して,イギリス自由主義に新たな展開をもたらした。福祉国家が現実のものとなった今日,新自由主義を標榜するのはF.A.vonハイエク,M.フリードマンらケインズ批判派の経済学者である。彼らはケインズ派の有効需要政策を批判し,国家は通貨供給量の調節だけを行って,市場経済をかく乱すべきでないと説く(マネタリズム)。現代国家における行政の拡大傾向を効率の点だけでなく,選択の自由を奪うものとして批判するその主張は,グリーンに代表される19世紀の新自由主義とは志向を異にしている。ハイエクは,自由主義の前提する法の支配が主権者の意思に置き代えられて以来,国家権力の拡大と絶対化に歯止めがなくなったことに問題の根源を見いだし,全体主義や社会主義の批判にとどまらず,多数決原理そのものを疑問視している。自然法的な法の支配の観念の下に功利主義やケルゼンの法実証主義をも批判する彼の立論は,自由主義の歴史のなかでも特異で徹底したものといえよう。
→自由主義
執筆者:松本 礼二 新自由主義は1980年代にイギリスのサッチャー政権やアメリカのレーガン政権の政策にも影響を与えた。また累積債務問題に対処するメキシコ,ブラジルその他のラテン・アメリカ諸国などにおいて,IMF(国際通貨基金)・世界銀行の主導する構造調整計画を遂行するなかで,市場原理にもとづく新自由主義政策への転換がすすめられている。
執筆者:黒田 満
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(山口二郎 北海道大学教授 / 2007年)
(伊藤千尋 朝日新聞記者 / 2007年)
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