普通選挙(読み)フツウセンキョ(その他表記)universal suffrage

デジタル大辞泉 「普通選挙」の意味・読み・例文・類語

ふつう‐せんきょ【普通選挙】

身分・性別・教育・信仰・財産・納税額などによって制限せず、国民に等しく選挙権を認める選挙制度。日本では、大正14年(1925)に男子について普通選挙制が実現し、婦人については第二次大戦後の昭和20年(1945)に実現した。普選。→制限選挙

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「普通選挙」の意味・読み・例文・類語

ふつう‐せんきょ【普通選挙】

  1. 〘 名詞 〙 すべての成年者に選挙権、被選挙権を与える制度。財産・教育・性などによって選挙権、被選挙権を制限する制限選挙に対するもの。日本では、財産による制限は大正一四年(一九二五)、性別による制限は昭和二〇年(一九四五)に除かれた。被選挙権は参議院議員、知事三〇歳、その他二五歳以上。普選。〔改訂増補哲学字彙(1884)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「普通選挙」の意味・わかりやすい解説

普通選挙 (ふつうせんきょ)
universal suffrage

狭義には,選挙権について,納税または財産の所有のような経済的要件による制限を認めない選挙制度をいうが,広義には,社会的地位,財産,納税,教育,信仰,人種,性別などによって選挙権を制限せず,成年の男女に等しく選挙権を認める制度をいう。普通選挙に対して,上述のような制限を伴った選挙を制限選挙という。狭義の普通選挙は,財産をもたない労働者階級の登場とその政治的自覚の高まりによって強く要求され,19世紀中ごろから普通選挙を実施する国が現れはじめた。第1次世界大戦後,これを実施する国は急激に増加しており,日本も1925年の選挙法改正によって男子普通選挙制を実施した。女子の選挙権は男子普通選挙にやや遅れて各国に普及しており,日本では1945年に認められ,現在では広義の普通選挙が各国で一般的となっている。日本国憲法は,15条2項で〈公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する〉と明瞭に規定しており,また,44条で〈両議院の議員及びその選挙人の資格は,法律でこれを定める。但し,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別してはならない〉と規定している。

 普通選挙が今日において一般的に認められている理由として,普通選挙の根底にある二つの原理を指摘することができる。第1は,近代民主主義における国民主権の原理である。すなわち,国家の主権が全国民に存し,主権者としての国民が国家の政治のあり方を最終的に決定する。したがって,できる限り多くの国民がその意見を表明する機会を与えられ,民意として国政に反映されなければならない。この要請に基づき,選挙権を少数の人々にのみ制限するあらゆる要件が撤廃されて今日の普通選挙へと選挙権が拡張されてきたわけである。第2に,国民の個人としての人格の独立性,同質性,平等性である。すべての国民はその社会的地位その他のいかんにかかわらず,人格としては平等に尊重されなければならない。この原理は,いわゆる〈個人の尊重〉および〈法の下の平等〉であり,制限選挙の下でのさまざまな選挙権の制限は〈法の下の平等〉が許容する合理的な差別とはいえない。したがって,〈法の下の平等〉は普通選挙の実施を要請しているのである。日本国憲法15条2項および44条の普通選挙の規定は,14条1項の〈法の下の平等〉をとくに選挙について明確に確認したものであるということができる。

 もっとも,普通選挙にも選挙権の制限がまったくないわけではない。日本では,被選挙権については年齢上の制限,地方公共団体の選挙権については居住上の制限があり,また,禁治産者,禁錮以上の刑に処せられ,その執行中の者,選挙違反で禁錮以上の刑に処せられた者については執行猶予中の者も,選挙権,被選挙権が認められない。
選挙 →婦人参政権運動 →普選運動
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「普通選挙」の意味・わかりやすい解説

普通選挙【ふつうせんきょ】

一定の財産,納税,教育,信仰等を選挙権の要件としない選挙。制限選挙に対する。近代初頭には,各国とも制限選挙を採用したが,20世紀に入ってからの普選運動の高まりとともに男性の普通選挙が各国に普及し,その後婦人参政権運動が起こって女性も含めた普通選挙制が実施されるようになった。日本では1925年の選挙法改正によって1928年男性の普通選挙が実施され,第2次大戦後の1945年に女性の参政権も認められるようになった。
→関連項目革新倶楽部加藤友三郎内閣参政権社会民主党鈴木喜三郎選挙大衆政党大衆民主主義田中義一内閣帝国議会日本婦人参政権獲得期成同盟会普通選挙法山川イズム吉野作造労農党

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「普通選挙」の意味・わかりやすい解説

普通選挙
ふつうせんきょ
universal suffrage

身分,財産,納税額,学歴,性別,民族などにかかわらず,国籍を有する成年全員の選挙権被選挙権を認める選挙制度。今日多くの国において実施されている。歴史的に,選挙権は特権階級から成年者全体へと漸進的に拡大していった。日本では 1890年から衆議院議員選挙法に基づき納税額によって選挙権を認める制限選挙が行なわれていたが,1925年改正衆議院議員選挙法(普通選挙法)が成立し,満 25歳以上の男子全員に選挙権が与えられた。昭和初期に女性参政権を求める運動が高まったが,男女が平等に参政権を得たのは,第2次世界大戦後の 1945年衆議院議員選挙法の改正によってであった。同時に選挙権年齢も 20歳に引き下げられた。1946年に公布された日本国憲法15条は,成年者による普通選挙の実施を保障している。1950年衆議院議員選挙法と参議院議員選挙法に代わって公職選挙法が成立し,今日では同法に基づいて普通選挙が実施される。近年は選挙権年齢を 18歳とする国が増えており,日本でも 2015年,18歳以上に選挙権を与える改正公職選挙法が成立した。(→選挙

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「普通選挙」の意味・わかりやすい解説

普通選挙
ふつうせんきょ

財産、収入、教育、社会的身分、人種、性別などにより選挙資格を制限することなく、国民に等しく選挙権を認める選挙制度をいい、現代の選挙法の基本原則である。制限選挙の反対語。近代の初期までは、財産・収入などによる制限選挙が行われてきたが、労働者階級の台頭、民主主義の進展に伴い、19世紀中葉より、財産・収入による制限の撤廃を内容とする男子普通選挙が一般的となった。その最初は1848年のフランスにおいてである。性別による制限の撤廃を含む普通選挙は、第一次世界大戦後、アメリカ、ドイツなどの諸国で実施され、第二次大戦後、世界の大勢となった。わが国では、1925年(大正14)に衆議院議員選挙が、翌年に地方議会議員選挙が男子普通選挙制となり、婦人の参政権が認められたのは1945年(昭和20)改正選挙法によってである。現行憲法は、公務員の選挙について、成年者による普通選挙を保障している(憲法15条3項)。

[三橋良士明]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

旺文社世界史事典 三訂版 「普通選挙」の解説

普通選挙
ふつうせんきょ
universal suffrage

社会的身分・財産・性別などによる条件を付さず,すべての成年者に等しく選挙権を与える選挙制度
19世紀後半に女性参政権運動が起こり,成年女子が選挙権を獲得するようになるまでは,普通選挙という場合,一般には成年男子に限る(universal manhood suffrage)ことが多かった。この男子普通選挙の最初は1848年のフランスで,女性の普通選挙権は欧米では第一次世界大戦,その他の国ぐにでは第二次世界大戦以後のこととなる。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「普通選挙」の解説

普通選挙
ふつうせんきょ

一般に,財産・納税額・教育程度などによって選挙権に制限を設けない選挙制度のこと。日本では1925年(大正14)衆議院議員選挙,翌年地方議会議員選挙について,ともに男子に限って普通選挙が認められた。さらに第2次大戦後の45年(昭和20)婦人参政権が認められ,男女普通選挙が実現した。日本国憲法では国会議員選挙について(第44条),またすべての公選による公務員の選挙について(第15条第3項),普通選挙を保障している。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「普通選挙」の解説

普通選挙(ふつうせんきょ)
universal suffrage

議員選挙権が年齢制限を唯一の条件として,身分・財産や人種・性別などによって制限されない選挙制度。イギリス選挙法改正に典型的にみられるように,ヨーロッパ諸国やアメリカで,19世紀から20世紀にかけ,財産制限や人種・性別の制限が段階的に廃止される形で実現されていった。多くの国に普及したのは第一次世界大戦後で,日本では第二次世界大戦後に施行された。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の普通選挙の言及

【選挙】より

… 選挙制度の改革は,議会に送られる代表者がより広範な基盤に立って選出されることを目ざして進行した。19世紀では有権者が財産や納税額の多寡により制限された選挙であったが,制限はしだいにゆるめられて,20世紀に入り男子普通選挙,さらに婦人参政権の確立となった。イギリスでは1832年の選挙法改正により腐敗選挙区が廃止され,67年の改正では都市労働者に,84年には農業および鉱山労働者に選挙権が与えられ,1918年には男子普通選挙制となり,同時に一部の婦人にも参政権が認められた。…

※「普通選挙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android