狭義には,選挙権について,納税または財産の所有のような経済的要件による制限を認めない選挙制度をいうが,広義には,社会的地位,財産,納税,教育,信仰,人種,性別などによって選挙権を制限せず,成年の男女に等しく選挙権を認める制度をいう。普通選挙に対して,上述のような制限を伴った選挙を制限選挙という。狭義の普通選挙は,財産をもたない労働者階級の登場とその政治的自覚の高まりによって強く要求され,19世紀中ごろから普通選挙を実施する国が現れはじめた。第1次世界大戦後,これを実施する国は急激に増加しており,日本も1925年の選挙法改正によって男子普通選挙制を実施した。女子の選挙権は男子普通選挙にやや遅れて各国に普及しており,日本では1945年に認められ,現在では広義の普通選挙が各国で一般的となっている。日本国憲法は,15条2項で〈公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する〉と明瞭に規定しており,また,44条で〈両議院の議員及びその選挙人の資格は,法律でこれを定める。但し,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別してはならない〉と規定している。
普通選挙が今日において一般的に認められている理由として,普通選挙の根底にある二つの原理を指摘することができる。第1は,近代民主主義における国民主権の原理である。すなわち,国家の主権が全国民に存し,主権者としての国民が国家の政治のあり方を最終的に決定する。したがって,できる限り多くの国民がその意見を表明する機会を与えられ,民意として国政に反映されなければならない。この要請に基づき,選挙権を少数の人々にのみ制限するあらゆる要件が撤廃されて今日の普通選挙へと選挙権が拡張されてきたわけである。第2に,国民の個人としての人格の独立性,同質性,平等性である。すべての国民はその社会的地位その他のいかんにかかわらず,人格としては平等に尊重されなければならない。この原理は,いわゆる〈個人の尊重〉および〈法の下の平等〉であり,制限選挙の下でのさまざまな選挙権の制限は〈法の下の平等〉が許容する合理的な差別とはいえない。したがって,〈法の下の平等〉は普通選挙の実施を要請しているのである。日本国憲法15条2項および44条の普通選挙の規定は,14条1項の〈法の下の平等〉をとくに選挙について明確に確認したものであるということができる。
もっとも,普通選挙にも選挙権の制限がまったくないわけではない。日本では,被選挙権については年齢上の制限,地方公共団体の選挙権については居住上の制限があり,また,禁治産者,禁錮以上の刑に処せられ,その執行中の者,選挙違反で禁錮以上の刑に処せられた者については執行猶予中の者も,選挙権,被選挙権が認められない。
→選挙 →婦人参政権運動 →普選運動
執筆者:川人 貞史
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財産、収入、教育、社会的身分、人種、性別などにより選挙資格を制限することなく、国民に等しく選挙権を認める選挙制度をいい、現代の選挙法の基本原則である。制限選挙の反対語。近代の初期までは、財産・収入などによる制限選挙が行われてきたが、労働者階級の台頭、民主主義の進展に伴い、19世紀中葉より、財産・収入による制限の撤廃を内容とする男子普通選挙が一般的となった。その最初は1848年のフランスにおいてである。性別による制限の撤廃を含む普通選挙は、第一次世界大戦後、アメリカ、ドイツなどの諸国で実施され、第二次大戦後、世界の大勢となった。わが国では、1925年(大正14)に衆議院議員選挙が、翌年に地方議会議員選挙が男子普通選挙制となり、婦人の参政権が認められたのは1945年(昭和20)改正選挙法によってである。現行憲法は、公務員の選挙について、成年者による普通選挙を保障している(憲法15条3項)。
[三橋良士明]
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一般に,財産・納税額・教育程度などによって選挙権に制限を設けない選挙制度のこと。日本では1925年(大正14)衆議院議員選挙,翌年地方議会議員選挙について,ともに男子に限って普通選挙が認められた。さらに第2次大戦後の45年(昭和20)婦人参政権が認められ,男女普通選挙が実現した。日本国憲法では国会議員選挙について(第44条),またすべての公選による公務員の選挙について(第15条第3項),普通選挙を保障している。
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議員選挙権が年齢制限を唯一の条件として,身分・財産や人種・性別などによって制限されない選挙制度。イギリスの選挙法改正に典型的にみられるように,ヨーロッパ諸国やアメリカで,19世紀から20世紀にかけ,財産制限や人種・性別の制限が段階的に廃止される形で実現されていった。多くの国に普及したのは第一次世界大戦後で,日本では第二次世界大戦後に施行された。
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… 選挙制度の改革は,議会に送られる代表者がより広範な基盤に立って選出されることを目ざして進行した。19世紀では有権者が財産や納税額の多寡により制限された選挙であったが,制限はしだいにゆるめられて,20世紀に入り男子普通選挙,さらに婦人参政権の確立となった。イギリスでは1832年の選挙法改正により腐敗選挙区が廃止され,67年の改正では都市労働者に,84年には農業および鉱山労働者に選挙権が与えられ,1918年には男子普通選挙制となり,同時に一部の婦人にも参政権が認められた。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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