歌舞伎作者。4世まである。(1)初世(1734-1806・享保19-文化3) 俳名左交。号柳井隣,花川戸。江戸生れ。幼名蒔田喜三郎,または治三郎,通称笠屋善兵衛,中村平吉ともいうが不詳。1757年(宝暦7)歌舞伎作者三宅清蔵(のち津村と改姓)の世話で江戸市村座の狂言作者となり田川治助を名のる。同年11月津村と改姓。壕越二三治(次)に随身し,一時堀越を名のったのち桜田治助となる。61年上京,上方狂言を修業して江戸に帰り,3世市川団蔵付の立作者として頭角をあらわす。69年(明和6)4世市川団十郎の市川揃の大一座の立作者に抜擢され,以後《御摂勧進帳(ごひいきかんじんちよう)》(1773)をはじめ当り狂言を書き〈江戸の花の桜田〉と称された。85年(天明5)以降は隠居格となり,盟友4世松本幸四郎のために筆を取った。作風は初期の宝暦振りの寛闊さに加え,最盛期には幸四郎と組んでの病的なほどの極端な穴ねらいで,うがちによる新しさを追求し,明るさのなかにもかげりのある作風が天明期(1781-89)の江戸で圧倒的な共感を呼んだ。《貢曾我富士着綿(みつぎそがふじのきせわた)》の二番目助六の書替狂言など30余種の台本が伝わり,歌舞伎史上文学的にもっとも価値の高い作者として位置付けられるが,あまりに高踏的な精神のゆえか舞台での伝承はない。常磐津節の《戻駕(もどりかご)》,富本の《身替りお俊》,長唄の《吉原雀》など所作事の作詞者としても歌舞伎史上最高の地位に揺ぎはない。門下に笠縫専助,木村園夫(えんぷ),村岡幸治,福森久助,2世桜田治助がいる。(2)2世(1768-1829・明和5-文政12) 俳名調布,左交。江戸生れ。父はごみ舟の株を持つ。幼名藤次郎,通称ごみ半。笠縫専助に入門,栄半次の名で1790年(寛政2)河原崎座に初出勤。清水,松田と改姓したのち松島陽助から松島半次となる。このころから初世に随身,その没後初世の旧姓を名のり田川章作となり,1808年(文化5)に治助をつぐ。17年3世三津五郎付の立作者となる。晩年は初世の後家に名跡をかえし松島てうふを名のった。変化舞踊流行の旗手として常磐津節の《源太》,清元節の《傀儡師(かいらいし)》,長唄,清元節の《舌出三番叟(しただしさんばそう)》など名作を残すが,台本にはみるべきものがない。(3)3世(1802-77・享和2-明治10) 俳名左交。深川仲町山城屋の子。1824年(文政7)葛飾音助の名で初出勤。2世門下となり松島半次,てうふを経て33年(天保4)に治助となる。38年4世中村歌右衛門と提携し中村座での地位を確立,62年(文久2)に名跡を園治に譲ったのちも桜田左交の名で立作者を勤めた。一方,56年(安政3)からは狂言堂,狂言堂左交の名で森田座(のち守田座,新富座)の立作者も兼ね,市村座の河竹黙阿弥,中村座で同座した3世瀬川如皐と明治の初めまで三座体制を維持した。新作は少なかったが古老として重きをなし常磐津節の《三世相錦繡文章(さんぜそうにしきぶんしよう)》(1857)などを書く。(4)4世 生没年不詳。1862年(文久2)3世の門人2世木村園治がついだ。
執筆者:古井戸 秀夫
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歌舞伎(かぶき)作者。4世まである。
(1734―1806)江戸作者中興の祖と称され、金井三笑(さんしょう)とともに安永(あんえい)・天明(てんめい)期(1772~89)の作者を代表した。壕越二三次(ほりこしにそうじ)門下としてその作風を継承し、1769年(明和6)には4世市川団十郎を中心とする市川揃(ぞろ)えの大一座の立(たて)作者に抜擢(ばってき)され、以後『御摂勧進帳(ごひいきかんじんちょう)』など当り狂言を書き「江戸の花の桜田」と称された。いったん引退したのち隠居格として劇界に復帰、盟友4世松本幸四郎のために二番目の世話狂言と浄瑠璃(じょうるり)に得意の筆を振るい、その幸四郎の5回忌祥月命日(しょうつきめいにち)に死ぬ。初期の作には宝暦(ほうれき)期(1751~64)の余風としての寛闊(かんかつ)さがみられるが、最盛期には病的なほど極端な穿(うが)ちと明るさのなかにも翳(かげ)りのある作風となり、天明期(1781~89)の人々に圧倒的な共感をもって迎えられた。『国色和曽我(かいどういちやわらぎそが)』『傾城吾嬬鑑(けいせいあづまかがみ)』など現存台本30余種のほか、所作事(しょさごと)の名人として常磐津(ときわず)『戻駕(もどりかご)』、富本(とみもと)『道行瀬川(みちゆきせがわ)の仇浪(あだなみ)』『身替りお俊』、長唄(ながうた)『吉原雀(よしわらすずめ)』などを残す。門下に福森久助ら多くの立作者がいる。
[古井戸秀夫]
(1768―1829)初世の弟子。師の作風を継承し、化政(かせい)期(1804~30)の変化(へんげ)舞踊のパイオニアの一人として常磐津『源太(げんた)』、清元(きよもと)『傀儡師(かいらいし)』『鳥羽絵(とばえ)』、長唄『浅妻船』『舌出し三番』などを書いた。
[古井戸秀夫]
(1802―77)2世の弟子。中村、森田両座付きの立作者として幕末の劇界に君臨。常磐津の『三世相錦繍文章(さんぜそうにしきぶんしょう)』『神楽諷雲井曲毬(かぐらうたくもいのくせまり)』を書いた。4世は3世の弟子2世木村園治(生没年不詳)が継いだが、明治中ごろ不遇のまま没す。
[古井戸秀夫]
(古井戸秀夫)
(服部幸雄)
(今西晶子)
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…4幕。初世桜田治助・増山金八らの作。1784年(天明4)11月江戸中村座の顔見世狂言として初演。…
…洒落本,黄表紙,川柳など〈通(つう)〉を理想とする質の高い文芸が展開するのもこの時期で,都市の消費生活のゆとりを反映しておおらかでのんびりした歌舞伎の作劇,芸,演出が喜ばれ,いわゆる天明歌舞伎が開花する。作者では初世桜田治助,役者では初世中村仲蔵が天明歌舞伎を代表する。治助の作品は伝統的な江戸歌舞伎独特の作風を洗練・発展させたもので,全体にはなやかなムードに包まれ,洒脱で機知に富んでいる。…
…本名題《我背子恋の合槌(わがせこがこいのあいづち)》。作詞初世桜田治助,作曲初世杵屋(きねや)佐吉,振付2世藤間勘兵衛。源頼光が病気のため宿直の四天王の一人碓井貞光が警固するところに,白拍子妻菊が現れ,剣問答の拍子舞となる。…
…通称《先代萩(せんだいはぎ)》《身売りの累(かさね)》。初世桜田治助,笠縫専助合作。1778年(安永7)閏7月江戸中村座初演。…
…1805年(文化2)江戸中村座で3世坂東三津五郎,5世岩井半四郎らにより初演。作詞初世桜田治助,作曲名見崎喜惣治(初世名見崎徳治),振付初世藤間勘十郎。義太夫の《新薄雪物語》を増補改作した《練供養妹背縁日》の道行で,薗部左衛門を慕って死んだお美津の霊が村娘およしに乗り移って,左衛門と薄雪姫との道行をじゃまする。…
…本名題《浪枕月浅妻(なみまくらつきのあさづま)》。作詞2世桜田治助,作曲2世杵屋(きねや)佐吉,振付3世藤間勘兵衛と市山七十郎。将軍徳川綱吉の愛妾を風刺した英(はなぶさ)一蝶の絵を材とした舞踊。…
…通称《立場の太平次》。4世鶴屋南北,福森久助,2世桜田治助の合作。1810年(文化7)5月江戸市村座初演。…
…3世坂東三津五郎により1826年(文政9)6月江戸市村座初演。作詞2世桜田治助。作曲初世清元斎兵衛。…
…1824年(文政7)9月江戸市村座で3世坂東三津五郎が踊った三変化《復新三組盞(またあたらしくみつのさかずき)》の一つ。作詞2世桜田治助,作曲清元斎兵衛,振付松本五郎市。首からつるした箱からいろいろな人形を出して舞わせて見せる大道芸人傀儡(くぐつ)師を題材としたもの。…
…1811年(文化8)3月江戸市村座で3世坂東三津五郎が七変化所作事《七枚続花の姿絵(しちまいつづきはなのすがたえ)》の一つとして初演。作詞2世桜田治助,初世勝俵蔵(のちの4世鶴屋南北)。作曲3世岸沢古式部。…
…1824年(文政7)5月,3世坂東三津五郎,7世市川団十郎ほかにより江戸市村座で初演。2世桜田治助作詞,初世清元斎兵衛作曲,3世西川扇蔵らの振付。朝顔売,水売,芸者がそれぞれの酔態をみせる。…
…1812年(文化9)江戸中村座で,三番叟を3世中村歌右衛門,千歳を4世中村明石(のちの12世勘三郎),翁を4世中村七三郎で初演。作詞2世桜田治助。作曲2世杵屋正次郎,伊藤東三郎。…
…3世中村歌右衛門ほか。作詞2世桜田治助。作曲清沢万吉。…
…1820年(文政3)9月江戸中村座初演。作詞2世桜田治助。作曲杵屋(きねや)和助(2世杵屋佐吉)。…
…左甚五郎を4世中村歌右衛門,京人形を12世市村羽左衛門ほか。作詞桜田治助。作曲4世岸沢式佐。…
…通称《ちょいのせ》《ちょいのせの善六》。3世桜田治助作。1862年(文久2)5月江戸守田座初演。…
…通称《お園六三(ろくさ)》《三世相》。3世桜田治助作。1857年(安政4)7月江戸中村座初演。…
…本名題《稚美鳥末広(わかみどりすえひろがり)》。作詞3世桜田治助,作曲10世杵屋六左衛門,振付3世藤間勘十郎(亀三勘十郎)。同名の狂言をもとにしているが,趣を変え,大名を女,太郎冠者を恋の使として後半の囃し物のくだりを中心に舞踊化したもの。…
※「桜田治助」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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