選挙において,政党あるいは候補者の集団の得票数に比例するように代表者を選出する方法。比例代表制では各政党の得票率と議会内の議席占有率とはほぼ等しくなる。各種の方法が考案されており,その数は300を超す。
従来の多数代表制では少数党が過少に代表される欠陥があり,18世紀後半,フランスの数学者ボルダJ.C.Bordaやコンドルセらによって批判と代替的方法の提案がなされ,1846年にはフランスのP.V.コンシデランによって今日の名簿式比例代表制にあたるものが提案された。1855年にデンマークの数学者で当時の大蔵大臣であったアンドレーC.C.G.Andraeにより具体的制度として比例代表制が提唱され,同年の議会選挙で実施されたのが最初である。その2年後,イギリスのヘアThomas Hareが同様の方法を提唱し,J.S.ミルやW.バジョットら著名な思想家の支持を得て,比例代表制は論議の的となった。20世紀になってしだいにヨーロッパ各国が採用しはじめ,第1次世界大戦後,スイス(1918),ドイツ(1919),オーストリア,ノルウェー(1920),アイルランド(1923)等に広まった。
比例代表制では,得票数をもとに各政党に何議席ずつ配分するかということと,配分された議席がどの候補者に与えられるかということとの2点について考慮が必要である。各種の方法を大別すれば,議席配分に関して最大剰余法largest remainder formulaと最大平均法highest average formulaとがあり,当選者の決定に関して名簿式と単記移譲式とがある。最大剰余法とは,ある一定の得票数を決めて,各党についてその得票数ごとに1議席ずつ配分していき,残った配分もれの議席を各党の配分もれの得票数(剰余)の大きいものから順に与えていく方法である。各党に1議席与える基準となる得票数を当選基数(クオータquota)という。当選基数の算定方法にはいくつかあり,ヘアHare式では,総投票数を定数で除したもの(端数は切捨て)が用いられる。ドループDroop式では総投票数を定数プラス1で除したものに1を加えたもの(端数は切捨て)であり,また,イタリア下院選挙の現行法制では総投票数を定数プラス2で除したもの(端数は切捨て)となっている。
最大平均法は,各党に議席を与えるに際して,1議席の重みをなるべく大きくする,いいかえれば,1議席ができるだけ多くの票を代表するように議席を配分する方法である。ベルギーのドントVictor d'Hondt(1841-1901)は各党の1議席当りの平均得票数を計算し,多い順に定数に達するまで議席を配分する方法を考えた(1882)。ドント式の具体的な計算方法は,各党の得票数を1,2,3,……という自然数で順に除していき,その商の大きい順に議席を与えていく,というものである。ドント式は,比例代表の趣旨にもっともかなったものであるが,計算煩瑣(はんさ)なため,通常はドント式と配分結果がつねに一致するハーゲンバハ=ビショフHagenbach-Bischoff式が用いられる。この方法は,ドループ式の当選基数を用いて第1段階の配分を行ったあと,各党の得票数を各党の配分数プラス1,プラス2,……で除して,商の大きい順に配分もれの残りの議席を与えて最終的な配分とするものである。
また,ドント式の変形としてサン・ラグSaint Lague式がある。これは少数党を優遇する方法として考え出されたものであり,ドント式が1,2,3,……の自然数で除していたのを変えて,1,3,5……という奇数で除していく方法である。このように奇数で除していくと小政党に有利な議席配分となるが,ドント式のような理論的根拠はない。サン・ラグ式にはさらに変種があり,1.5,3,5,……で除していくもの,1.4,3,5,……で除していくものなどがある。各国の事情による妥協の産物である。
次に,当選者の決定に関して,名簿式は,各政党があらかじめ候補者名を記した名簿を提出しておくものである。配分議席数にしたがって名簿の上位から順に当選者を決める拘束名簿式と,各候補に対する投票を行わせて,名簿の中の得票数の多い候補から順に配分議席数まで当選者を決める非拘束名簿式とがある。単記移譲式は,投票者が政党または候補者に順位をつけて投票し,候補者の得票のうち当選基数に達したあとの剰余については順位にしたがって得票を移譲していき,当選基数に達した次の候補者を決めていく手続を定数にいたるまで繰り返していくものである。
長所としては,(1)投票者の選好に比例して代表が選出され,少数派にも意見反映の機会が与えられる,(2)政党本位の選挙が行われる,(3)選挙費用が比較的少なくてすむ,(4)政党幹部の当選を確保できる,などがある。しかし,他面で短所としては,(1)少数政党の分立が生じやすく,政治の不安定につながる,(2)当選決定に関する手続が煩瑣であり,技術的に困難である,(3)投票者と議員との間に政党が介在することになり,直接選挙の趣旨からはずれる,などがあげられる。
日本においては,1983年6月の第13回参議院議員通常選挙において初めて比例代表制が導入された。しかし比例代表制の導入は大正から昭和初期にかけて検討されたことがある。1933年には,斎藤実首相の選挙法改正に関する諮問を受けた法制審議会が比例代表制についても審議したが,具体案で意見が分かれ確定案の答申ができなかった。そこで,衆議院議会振粛委員会から出された比例代表制案を含めた選挙法改正案を作成したが,枢密院の反対にあい,比例代表制の導入を断念した。また,敗戦直後の第89回帝国議会における大選挙区制限連記制を導入する衆議院議員選挙法改正審議において,原案に反対する自由・社会両党は単記移譲式比例代表制の修正案を提出したことがある。67年の第5次選挙制度審議会において,参議院全国区に比例代表制を採用すべきだとする意見が強くなり,72年の第7次選挙制度審議会において非拘束名簿式比例代表制の導入案が有力となった。その後,自民党は何度か参議院全国区に比例代表制を導入する公職選挙法改正案を提出し,82年の第96回国会において実現した。これにより,議員定数252が3年ごとに半数改選される参議院議員選挙では,定数1~4の都道府県選挙区から76名と,全国を1選挙区として拘束名簿式のドント方式の比例代表制で50名が選出されることになった。候補者名簿を届け出ることができる政党要件は,(1)所属国会議員が5人以上,(2)直近の国政選挙で得票率4%以上(現在は2%以上),(3)参院選での候補者数が10人以上,のいずれかを満たすことと厳しく,また,供託金も比例代表区400万円(現在は600万円),選挙区200万円(現在は300万円)とされたため,小政党や無所属候補者にとっては不利な選挙制度となった。
第8次選挙制度審議会は,90年に衆議院の選挙制度として小選挙区比例代表並立制を答申した。細川護煕連立政権下で,政治改革4法が94年1月に成立し,永年続いた中選挙区制に代わって小選挙区比例代表並立制が採用された。
この制度は衆議院の総定数を500とし,そのうち300を定数1の小選挙区から選出する。残りの200は,全国11のブロックに人口比例により配分された定数の議席を,ブロックごとの拘束名簿式のドント方式による比例代表選挙により選出する。小選挙区の区割りは,衆議院小選挙区画定審議会が10年ごとの国勢調査の結果が出たあとに行う画定案の勧告に基づいて行われるが,選挙区の人口格差が2倍以上にならないことを基本としながら,47の都道府県に各1を与えた上で,残りの253を人口に比例して各都道府県に配分する方式を採ったため,人口格差を2倍以内に抑えることができていない。有権者は居住する小選挙区において候補者に投票するとともに,居住するブロックの比例代表選挙において政党に投票する。小選挙区における立候補の届け出は,(1)所属国会議員5人以上,あるいは(2)直近の国政選挙の得票率が2%以上の政党が行うことができる(候補者届出政党となる)が,無所属で本人届け出または推薦届け出もできる。比例代表選挙における候補者名簿の届け出は,(1)小選挙区の候補者届出政党になれる,あるいは(2)ブロックの定数の10分の2以上の名簿登載者がある政党が行うことができる(名簿届出政党となる)。候補者届出政党はその小選挙区の候補者を同時に比例代表選挙の候補者名簿に登載することができ(重複立候補),重複立候補者を名簿内で同一順位とすることもできる。この場合,比例代表選挙の当選順位は惜敗率(小選挙区における当選者の得票に対する各重複立候補者の得票の割合)の大きい順となる。供託金は,小選挙区300万円,比例代表600万円(ただし,重複立候補者は300万円)となった。
1996年の総選挙結果は,次の通りである。小選挙区選挙の議席は,自民党169,新進党96,民主党17,共産党2,社民党4,さきがけ2,民改連1,無所属9。比例代表選挙の議席は,自民党70,新進党60,民主党35,共産党24,社民党11。
→選挙 →代表 →当選人
執筆者:川人 貞史
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各党派の得票数に比例した数の議員が選出される可能性を保障する選挙方法。
18世紀後半のフランスにおいて、数学者のJ・C・ボルダやコンドルセらによって、それまで用いられていた多数代表制の批判と確率計算法に基づく新選挙法の提案がなされた。19世紀なかばには、V・コンシデランによって今日の名簿式比例代表制にあたる方法が提案された。1855年、デンマークの数学者で、財務大臣を務めていたC・G・アンドレーCarl George Andrae(1812―1893)が比例代表制を提案し、同年の国会議員選挙で初めて実施された。その2年後、イギリスでは、弁護士のヘアーThomas Hare(1806―1892)が比例代表方式を提唱し、J・S・ミルや、W・バジョットにより支持された。それとともに、ヘアーの友人である弁護士のH・R・ドループHenry Richmond Droop(1831―1884)により、その修正方式が提唱された。1899年には、ベルギーにおいて数学者のV・ドントd'Hondt(1841―1901)により考案された方式が採用され、1900年の下院選挙において実施をみた。比例代表制は、第一次世界大戦後、ヨーロッパをはじめとして各国に普及した。日本では、1982年(昭和57)の公職選挙法改正により、参議院比例代表選出議員の選挙に導入された。
多数代表制や少数代表制の修正という意味をもつ比例代表制は、当選人に必要以上に投じられた余剰票と落選人に投じられた死票をできるだけ少なくすることにより、選挙人の意思をできるだけ正確公平に議会に反映しようとするものである。原則的技術として、当選基数(当選人となるに必要かつ十分な最低得票数)を超えた余剰票をほかの候補者または政党に移譲する方式をとる。当選基数の定め方と移譲方式の違いにより、多様な型がある。単記移譲式比例代表制は、投票に際して選挙人が付した移譲順位に従って、余剰票をほかの候補に移譲する方式である。名簿式は、政党が作成した候補者名簿に対して投票し、その投票を候補者名簿を提出した政党などの得票として集計し、票の移譲を候補者名簿上の候補者のなかで行う方式である。日本の参議院選挙は拘束名簿式比例代表制であったが、2001年(平成13)から非拘束名簿式比例代表制に変わった。拘束式は、各党があらかじめ候補者名簿を提出し、有権者は政党に対して投票する。この場合、当選者は各党の名簿登載順位によって決定される。有権者には名簿上の、どの候補者に投票するかの自由がない。それに対し、非拘束名簿式(自由名簿式)は、有権者に名簿に登載された候補者を選択する自由を保障する方式である。
日本の比例代表制における当選者の決定には、ドント方式d'Hondt methodという比例計算方式が用いられている。これは、ベルギーのドントが考案したもので、各政党の得票数を1、2、3…と順に整数で割っていき、その商の大きい順から議員定数に達するまで当選人を決めていく方式である。
[三橋良士明]
『池田邦二著『比例代表制』(1983・朝日新聞社・朝日ブックレット)』▽『西平重喜著『比例代表制』(中公新書)』
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(蒲島郁夫 東京大学教授 / 2007年)
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各党派に,その党派の獲得票数に比例する議員数を配分する選挙制度。合理的な面を持つ反面,ヴァイマル共和国においてみられたように,小党分立を助長し,議会政治を不安定にするという批判もあり,現在のドイツにおける「5パーセント条項」(得票数が5%未満の党は議席を得られない)など,いろいろな条件と組み合わされることが多い。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
… さらに,93年総選挙を直接の契機とする55年体制崩壊後は,94年の衆議院選挙のための小選挙区比例代表並立制の導入とも相まって,日本の政党政治は,非自民を標榜する党派の離合――自民党からの離党者による新党さきがけの結成(93年6月),新生党の結成(93年6月),新生党,民社党,公明党,日本新党などの解党・合同による新進党の結成(94年12月),新党さきがけ,社民党などからの離党者による民主党の結成(96年9月),新進党からの離党者による太陽党の結成(96年12月),新進党の解党(97年12月)など――と96年1月に社会民主党と党名を変更した旧社会党の落によって特徴づけられる。今後,日本の政党制が,比例代表制がより強く作用して多党制の方向へ向かい,連立政権を常態とするようになるか,小選挙区制のより大きな影響力の下に二党制へ収斂していくか,まだ定かではない。
[政党制と選挙制度]
政党制が国ごとに異なっている要因にはさまざまなものがある。…
…イスラエルの国会議員選挙は,120名を全国からなる一つの大選挙区から選出している。比例代表制をとる国は,その趣旨からとうぜんに大選挙区制である。日本の参議院議員選挙は定数252名のうち100名を全国区から3年ごとに半数ずつ選出する大選挙区制をとっており,1983年から全国を1区とする比例代表制を採用している。…
※「比例代表制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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