資産の分類上,固定資産に対する概念であって,現金および通常の営業活動の結果,比較的短期間内に現金に転換されるものと認められる資産をいう。流動資産と固定資産とを区分する基準として,一般に(1)正常営業循環基準normal operating cycle ruleと,(2)1年基準one year rule(ワン・イヤー・ルール)とがあり,一般に認められた企業会計の慣行にしたがえば,両者を併用して判定する。前者によれば,〈正常の営業活動における一循環〉の過程の中にある資産はすべて流動資産とされる。すなわち,たとえば製造企業にあっては,原材料を仕入れ,製品を製造し,製品を販売し,代金を回収するまでの過程が,正常の営業活動の一循環であるから,原材料,仕掛品(製品に製造中または加工中の物品。貯蔵,販売の対象にならない),半製品(工程別原価計算において,一定の製造工程を完了し,次の工程に引きつがれる段階にある物品。貯蔵,販売の対象となる),製品のような棚卸資産,および受取手形,売掛金のような受取勘定はこの過程内にあるものとして,すべて流動資産とされる。ただし,受取手形,売掛金のような受取勘定のうち,破産債権,更正債権およびこれに準ずる債権で1年以内に回収されないことが明らかなものは,固定資産とされる。
後者の基準は営業循環過程外の資産に対して適用され,それによれば,貸借対照表日の翌日から起算して,1年以内に現金化される予定の資産はすべて流動資産とされる。すなわち,具体的には取引所の相場のある有価証券で一時所有目的のもの,1年以内に満期日の到来する預貯金,1年以内に期限の到来する貸付金,未収金等は流動資産である。また,前払費用のように,その本質が支出費用であるものについても1年基準が適用される。すなわち,貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に費用として計算されるべき前払費用は流動資産とされ,1年を超える期間を経て費用となるものは固定資産とされる。以上のように,流動資産は,正常な営業活動の循環過程内にある資産,およびそれ以外の資産のうち,貸借対照表日から起算して1年以内に現金化される資産をいうのであり,それは当座資産と棚卸資産が中心である。
流動資産,固定資産の区分は,貸借対照表の表示に関してとくに意味をもつ。企業会計上,貸借対照表は決算時における企業の財政状態を表示する報告書とされる。なかでも報告書の利用者は貸借対照表により当該企業の財務的流動性の大小について判断しようとする。流動資産と流動負債との比率により,財務的支払能力や安全性が判断される。
執筆者:嶋 和重
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現金および比較的短期間のうちに回収または販売などによって現金となる資産、もしくは比較的短期間のうちに費用化する資産。固定資産に対する概念である。流動資産には、(1)現金、預金、受取手形、売掛金、短期的な資金運用のために保有している一時的所有の取引所の相場のある有価証券などの「当座資産」、(2)商品や製品などのように棚卸によって実際有高を定め、かつ、その大部分が販売目的のものである「棚卸資産」、(3)1年以内に費用となる前払費用、1年以内に回収される未集金や立替金、前払金、未収収益などの「その他の流動資産」がある。
資産を流動資産と固定資産に分類する考え方は、企業が主として銀行から資金を調達していた時代に、銀行が貸借対照表により企業の支払能力を判断したことの名残(なごり)である。しかし、今日においても実務上は流動・固定による分類が行われている。なお分類基準には、主たる基準として営業循環過程基準と、それを補足する1年基準がある。
[万代勝信]
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(小山明宏 学習院大学教授 / 2007年)
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…企業の資金面での流動性を表す包括的な概念で,流動資産全体を総(gross)運転資本といい,流動資産から流動負債を引いた差額を正味(net)運転資本(純運転資本)という。通常の企業活動が続く場合,流動資産は1年以内に現金収入となる資産であり,流動負債は1年以内に現金で支出される債務である。…
…このような投下過程にある資産は,その性格上,投下額すなわち現金支出額(原価)を基準として評価する。資産を貸借対照表上に示すときには,その流動性の大小から,流動資産と固定資産に区別して表示する。流動資産には,現金,および商品や製品,原材料,仕掛品のような棚卸資産のほか,得意先との通常の商取引によって生じた債権(受取手形,売掛金等),さらに,これらの資産以外のもののうち,1年以内に回収されるものが含まれる。…
※「流動資産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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