運輸省(現,国土交通省)の外局として,海上における人命および財産の保護,法律違反の予防,捜査,鎮圧等を任務とする行政機関(海上保安庁法1条)。その実質的任務は沿岸警備,海難救助,海上交通安全,灯台,水路をはじめ広範にわたる。これらの機能は第2次大戦前には海軍,逓信省等に分かれていたが,1948年5月1日,アメリカのコーストガード(沿岸警備隊)に類する海上保安業務の一元的担当機関として海上保安庁が設置された。77年に日本の領海を12カイリとし,漁業等に関する管轄権が行使される漁業水域を200カイリとする新海洋秩序,いわゆる〈200カイリ時代〉に移行して以来,海上保安庁の責任はいっそう重要なものとなっている。その内部組織は,総務,経理補給,船舶技術,警備救難,水路,灯台の6部からなっている(2008年現在は総務,装備技術,警備救難,海洋情報,交通の5部)。総務部,経理補給部は人事,職員訓練,経理等を,船舶技術部はヘリコプター搭載の巡視船11隻を含む大小431隻の警備救難用船艇と,76機の航空機等の配備等を担当する。警備救難部は沿岸警備と法令の励行,海難救助,遭難船舶の処理,船舶交通の障害除去,港則,海上交通安全,海洋汚染防止,犯罪捜査等を,水路部は水路の測量,海象観測,水路図および航空図等の作製供給,船舶安全通報等を,灯台部は灯台その他の航路標識の建設,保守,運用等をそれぞれ担当する。その出先機関としては,管区海上保安本部が,小樽,塩釜,横浜,名古屋,神戸,広島,北九州,舞鶴,新潟,鹿児島,那覇の11ヵ所に,その他海上保安部(66ヵ所),海上保安署(51ヵ所)等がある(1997現在)。2001年の省庁再編により国土交通省の外局となった。
また実務を遂行する海上保安官(補)は,警察官と同様の司法警察職員としての地位を与えられている。保安官など職員の訓練・養成のための機関として,海上保安大学校(呉)と海上保安学校(舞鶴)がある。
執筆者:八木 俊道
1871年(明治4)兵部省海軍部水路局とし,海図作成を目的に創設された。初代水路局長柳楢悦(ならよし)は水路部創業の基礎確立に尽力し,外国技術者の助けを借りない自前の測量と海図作成の技術を養成した。その後97年には日本近海の海図が整備され,1917年には全国海岸の測量が終了したが,関東大震災で資料・原図を焼失,第2次世界大戦でも多くの資料を失った。45年には運輸省に,48年には海上保安庁に編入され今日に至っている。近年は海図のみならず海洋の管理,開発の基礎として海の基本図を作成しているほか,海象観測,測地観測,海洋資料の収集と提供などの業務も行っている。2002年海洋情報部に改組。
執筆者:佐藤 任弘
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国土交通省の外局の一つで(国土交通省設置法41条2項)、1948年(昭和23)に海上保安庁法(昭和23年法律第28号)に基づき設置された(海上保安庁法1条1項)。「海上において、人命及び財産を保護し、並びに法律の違反を予防し、捜査し、及び鎮圧する」目的のために設置された行政機関であり、海上における警察活動を行う執行機関である。
海上保安庁の長は、海上保安庁長官である(海上保安庁法10条1項)。同長官は国土交通大臣の指揮監督を受けるが、海上保安庁が同大臣以外の大臣の所管に属する事務を担当する場合には、当該大臣の指揮監督を受けることになる(同法10条2項)。
海上保安庁の内部部局として、総務部、装備技術部、警備救難部、海洋情報部、交通部が置かれている。施設等機関として海上保安大学校(国土交通省組織令255条)と海上保安学校(同令256条)が設置されている。地方支分部局として、第1から第11までの管区海上保安本部が設置されている(同令258条)。
海上保安庁の活動範囲は「海上」である(海上保安庁法1条1項)。海上保安庁法の制定当初は、海上保安庁の活動範囲は「港、湾、海峡その他の日本国の沿岸水域」とされていたが、公海において職務を執行することができることを明確にするために1952年に改正され、現行法の通りとされている。
海上保安庁の任務は「海上の安全及び治安の確保」(同法2条1項)であり、その事務は、法令の海上における励行、海難救助、海洋汚染等の防止、船舶交通に関する規制、海上における犯罪の予防・鎮圧、犯人の捜査・逮捕、水路の測量・水路図誌の調製、灯台などの航路標識に関する事務である(同法5条)。
海上保安庁に海上保安官と海上保安官補が置かれている(同法14条1項)。海上保安官と海上保安官補は警察活動を行うのみならず、刑事訴訟法の規定に基づく司法警察職員としての職務も担当する(同法31条)。ソマリア沖・アデン湾における海賊対策として、自衛隊の護衛艦が2009年(平成21)から派遣されているが、自衛隊は司法警察活動を行えないため、逮捕、取調べなどの司法警察活動が行われることを想定して、海上保安官が護衛艦に同乗している。海上保安庁による法令の励行の事務は、海上保安庁が所管する法令以外に、ほかの行政機関が所管する法令の励行の事務も担当するため、その場合には海上保安官は、海上保安庁の所管ではない法令の執行の事務を担当する行政官庁の当該官吏とみなされる(同法15条)。
海上保安庁法は、この法律のいかなる規定も海上保安庁とその職員が軍隊として組織され、訓練され、軍隊の機能を営むものと解釈することを禁止している(同法25条)。したがって、内閣総理大臣は、自衛隊に対して防衛出動(自衛隊法76条1項1号)や治安出動(同法78条1項)を命じた場合に、「特別の必要があると認めるときは」、海上保安庁を防衛大臣の統制下に入れることができるが、その場合であっても、海上保安庁の活動は、海上保安庁法の任務と所掌事務の範囲に限定される。
[山田健吾 2024年2月16日]
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(2012-09-20)
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航行の安全と海上の治安を担当する運輸省の外局。1948年(昭和23)5月1日設置。第2次大戦後の日本の近海は機雷や標識破壊のため航行の安全が失われ,海軍の消滅で治安も悪化していたことから,海上保安の一元的な管理機関として発足。50年7月の警察力増強に関するマッカーサー書簡により海上保安庁も増強。52年4月には海上警備隊が設置されたが,8月新設の保安庁へ移管された。沿岸警備,海難救助,海上交通の安全,灯台・水路の保安などを任務とした。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…これらの組織はきわめて大規模で,ドイツのように多数の優秀な組織自身の救助船艇と司令部をもち,その運営費はすべて民間からの寄付金で維持されている国もある。日本では海上保安庁が専門機関として多数の巡視船艇や航空機を全国の要所に配備しており,その業務の一つとして海難の際の人命救助に従事している。そのほかに〈水難救護法〉によって市町村長や警察官に救助義務が課せられている。…
※「海上保安庁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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