自衛隊のなかで主として海において行動することを任務とする部隊で諸外国の海軍に相当する。対外的にはMaritime Self Defense Forceと称し,略称MSDF。
1950年6月25日朝鮮戦争が勃発し,7月8日連合国軍最高司令官マッカーサーは首相吉田茂に書簡を送り,これによって警察予備隊が発足し,海上保安庁職員が増員された。51年吉田首相と連合国軍最高司令官リッジウェーとの会談でアメリカ海軍からPF(哨戒艦)とLSSL(上陸支援艇)が貸与されることとなり,52年4月に海上保安庁に海上警備隊が発足した。52年8月に保安庁が設立された際,海上警備隊は,それまで海上保安庁内に置かれていた航路啓開(掃海)関係の組織,装備,人員とともに海上保安庁から分離して,警備隊と呼称されるようになり,保安庁の管理下に入った。同時に,警察予備隊は保安隊と名を変えて,警備隊とならんで保安庁のもとに入った。54年7月に保安庁が防衛庁(現,防衛省)となるに及んで,警備隊は海上自衛隊となった。
海上自衛隊は,海上からの侵略に対して日本を防衛するとともに,日本周辺海域における海上交通の安全を確保することをおもな任務としている。日本は,1957年5月に決定された〈国防の基本方針〉に基づいて,外部からの侵略に対しては,将来,国際連合が有効にこれを阻止する機能を果たしうるようになるまでは,アメリカとの安全保障体制を基調として侵略に対処することになっているが,海上自衛隊が実施する作戦については,78年11月に決定された〈日米防衛協力のための指針〉(ガイドライン)により次のように定められている。〈海上自衛隊及び米海軍は,周辺海域の防衛のための海上作戦及び海上交通の保護のための海上作戦を共同して実施する。海上自衛隊は,日本の重要な港湾及び海峡の防備のための作戦並びに周辺海域における対潜作戦,船舶の保護のための作戦その他の作戦を主体となって実施する。米海軍部隊は,海上自衛隊の行う作戦を支援し,及び機動打撃力を有する任務部隊の使用を伴うような作戦を含め,侵攻兵力を撃退するための作戦を実施する〉。
なお,この指針は日米両国政府によって見直し作業が行われ,97年9月末に最終報告の形で結論を得て,平素からの,および緊急事態における日米おのおのの役割ならびに相互間の協力と調整のあり方について,一般的な大枠と方向性を示すものとなった。このほか,95年11月に定められた〈平成8年度以降に係る防衛計画の大綱(新大綱)〉では,自衛隊の主たる任務である〈我が国の防衛〉に〈大規模災害等各種事態への対応〉および〈より安定した安全保障環境の構築への貢献〉が加わった。
1997年9月現在,人員約5万人,作戦用艦艇約150隻,作戦用航空機約200機などを保有し,これらの艦艇,航空機は,自衛艦隊,五つの地方隊などに配備されている。
海上自衛隊は,海上幕僚監部ならびに海上幕僚長の監督を受ける部隊および機関から成っている。海上幕僚監部は,海上自衛隊の隊務に関する防衛庁長官の幕僚機関である。海上幕僚長は,海上自衛隊の隊務に関して最高の専門的助言者として,防衛庁長官を補佐する。海上自衛隊の部隊および機関に対する防衛庁長官の指揮監督は,海上幕僚長を通じて行われることになっており,海上幕僚長は防衛庁長官の命令を執行する職責を有している。また,海上幕僚長は,統合幕僚会議議長,陸上・航空各幕僚長とともに統合幕僚会議を構成する。
海上自衛隊の部隊は,自衛艦隊,五つの地方隊,教育航空集団,練習艦隊,中央通信隊群その他の防衛庁長官直轄部隊から成り,機関は,六つの学校ならびに五つの病院から成る。自衛艦隊Self Defense Fleet(略称SF)は,自衛艦隊司令部,護衛艦隊,航空集団,潜水艦隊,掃海隊群,開発指導隊群,情報業務群,その他長官の定める直轄部隊から成り,艦艇および航空機を機動運用することによって日本の周辺海域全般の防衛に当たる。
地方隊は,横須賀,呉,佐世保,舞鶴,大湊地方隊に区分されており,各地方隊は,原則として地方総監部,護衛隊,掃海隊,基地隊,その他の直轄部隊から成る。ただし,大湊,佐世保両地方隊には上記のほかヘリコプターを保有する航空隊が,大湊地方隊にはミサイル艇隊が置かれている。地方隊は,地方総監の指揮監督を受けて,自衛艦隊と密接に連携しながら,担当する警備区域内の港湾や沿岸海域の警備に当たるほか,艦艇等に対する補給,整備などの後方支援に当たる。
海上自衛隊は,平時にあっては,有時即応の実力を保持するための教育訓練のほか,警戒監視および情報活動を実施している。また,国際平和協力業務として,1991年にはペルシア湾における機雷除去,92年には〈PKO協力法〉にもとづいてカンボジアへの隊員および物資の輸送を実施した。災害派遣では95年の阪神・淡路大震災において艦艇のべ679隻,航空機のべ1693機,車両のべ894両,人員のべ25万4600名を派遣している。また,97年にはロシア・タンカーのナホトカ号遭難・重油流出事故で,艦艇のべ920隻を派遣して62万5310lの重油を回収するなどの活動もしている。民生協力としては,南極地域観測に対して,1965年度以降砕氷艦〈ふじ〉によって,83年以降は砕氷艦〈しらせ〉によって,毎年観測隊員,観測器材,食糧等の輸送その他の協力を行っている。さらに,特殊な業務として,毎年12月下旬から5月中旬にかけて気象庁が行う〈海氷予報業務〉に対して,1957年以降航空機によるオホーツク海沿岸から根室海峡および釧路南東海域における海氷観測への協力を行っている。
なお,米海軍と共同の訓練も行っており,1980年から隔年参加している〈リムパック〉はその代表的なものである。これらの共同訓練を通じて双方の意志の疎通を図り,円滑な関係を維持するとともに,戦闘能力の向上を図っている。さらに,より安定した安全保障環境の構築のため,96年7月には,71年ぶりにロシア海軍300周年記念観艦式参加のためウラジオストク港へ護衛艦が派遣され,約1年後の97年6月には,103年ぶりにロシア側からロシア海軍大型対潜艦艇〈ウラジミール・ビノグラードフ〉が東京港晴海に来港,96年9月には,韓国釜山港に第2次大戦後初めて遠洋航海部隊が派遣された。また,同年11月には各国海軍の最高責任者が集う国際会議である西太平洋海軍シンポジウムを主催している。
海上自衛隊の行う作戦は,対潜戦,防空戦,対水上戦,電子戦,機雷戦などがあげられる。現在の海上自衛隊の編成,主要装備の具体的規模は,1995年11月に決定された〈新大綱〉にもとづいて定められており,これによる主要装備は,護衛艦約50隻,潜水艦16隻,作戦用航空機約170機である。
→自衛隊
執筆者:阿曾沼 広郷
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(田岡俊次 軍事ジャーナリスト / 2008年)
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