木,わら,コンクリートなどで囲いを作り,その上に障子をかけた育苗用の保温施設をフレームframeといい,加温したフレームを温床という。温床の加温には,電熱や微生物(主として好気性バクテリア)が有機物を分解する際に発生する発酵熱などを利用する。温床にかける障子には油紙,ガラス,ビニルなどを張るが,近年では障子の代りに,竹やプラスチックでほろ型の骨組みを作り,これにビニルを張ったものを用いることが多くなった。温床の起源ははっきりしないが,イギリスでは,18世紀初めにオランダから樹皮を発熱材料としたガラス障子の温床を導入してパイナップルを栽培したという記録が残っている。日本では18世紀の末ごろに江戸の砂村(現在の東京都江東区の一部)で市中のごみを発熱材料とした油紙障子の温床が作られ,ナスやキュウリの促成栽培が行われたのがはじめである。一方,電熱を熱源とした温床(電熱温床)は1932年にノルウェーで実用化され,日本では第2次大戦後急速に普及した。
温床の熱源として発酵熱を利用する場合には,温床の底に厩肥(きゆうひ),わら,落葉などの有機物を入れ,適当量の水を加えて踏み固めた後,発熱するのを待って床土を入れる。発熱の程度は加える水の量,有機物を踏み固める程度,有機物中の炭素と窒素の割合(炭素率)などによって左右される。水を多く加えて強く踏み固めた場合には通気不良となり,好気性バクテリアの繁殖が抑えられるので,温度はあまり上昇しない。また,有機物の炭素率が大きいと温度はあまり上昇せず,逆に小さいと高熱は出るが長続きはしない。発熱を順調に行わせるためには,数種類の有機物を適当に配合して炭素率を30~40にしなければならない。熱源として電熱を利用する場合には,温床の底に断熱材としてわらやもみがらを敷き,次に砂を入れて,その中に温床線(鉄クロムの電熱線をビニルで被覆したもの)を埋め,その上から床土を入れる。発酵熱を利用した温床では,床温がしだいに低下していくが,電熱温床では床温をいつまでも一定に保つことができる。いずれの温床を用いる場合でも,晴れた日の日中には障子をずらして通風をはかり,温床内の温度が高くなりすぎないようにする。温床は,ビニルハウスが普及するまでは野菜や花の促成栽培にも利用されたが,近年では主として,低温期にトマト,ナス,キュウリなどの果菜類やサツマイモの苗を育成するために利用される。
執筆者:杉山 信男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
苗床の一種で、人工的に加温して外気温よりも高く保つようにしたもの。果菜の促成・早熟栽培や、寒地でのイネの育苗など、自然の条件では育苗に必要な温度が得られない場合に使われる。板、藁(わら)、れんが、コンクリートなどで枠をつくり、熱の逃げるのを防ぐため、油障子、ガラス障子、プラスチックフィルムなどで覆う。加熱の熱源によりいくつかに分けられる。醸熱温床は、微生物が有機物を分解するときに出す熱を利用する。厩肥(きゅうひ)、藁、紡績屑(くず)などを枠の底に踏み込み、微生物の活動を活発にするために若干の窒素肥料を加える。ほぼ飽和状態になるまで水を打ちながら、十分に踏み込みを行う。その上に堆肥(たいひ)と土を混合した床土をのせ、ここで育苗を行う。
近年では電熱温床といって土中に発熱線を張って加温するものがある。発熱線は電熱線に特殊な絶縁被覆を施したもので、空中配線用と地中配線用の別があり、また電源、電圧、電気容量によりさまざまの型式があるので、目的にあわせて選択する。普通、苗床1平方メートル当り50~100ワットを目安とする。醸熱温床では十分な発酵熱を長期にわたって維持するためにはかなり名人芸的な踏み込み技術を必要とするが、電熱温床ではサーモスタットを使用することによって温度管理が容易となる。ただし、設備費がかかること、手近に電源が必要であることなどの問題がある。
[星川清親]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 苗床は日当りがよく,風当りが弱く,水の便がよくて管理しやすい場所に設置するのが普通である。苗床には温床,冷床,露地床などがあり,作物の種類や育苗の時期などに応じて使いわけられる。温床は,わくを作り,有機物の発酵熱や電熱を利用して加温する苗床で,気温が低くて露地栽培のできない冬から早春に,果菜類などを育苗する場合に使用される。…
※「温床」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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