翻訳|death duty
亡くなった人の土地や現金といった財産を受け取った人に課される税。財産の評価額から基礎控除などを差し引いた総額に税率を掛けて算出する。総額が多いほど税率は高く、資産を再分配し、生まれた家庭による格差の固定化を防ぐ機能がある。現在の最高税率は55%。財務省によると、2021年度の贈与税を含めた税収は2兆7702億円。21年に課税対象となった割合は、亡くなった100人に対し9・3人だった。
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相続や遺贈などによって取得した財産に対して課される税金。基幹課税としての所得税を補完するとともに、富の再分配という観点から、富の集中を排除する機能を有する。
相続税には、遺産税estate taxと遺産取得税inheritance taxの2種類がある。遺産税は、被相続人の財産(相続財産)に課税する制度であり、相続財産から税金を差し引いた後に、残りを相続人が分けることになる。人は生前中に取得した財産の一部を死亡にあたって社会に還元すべきである、との考え方に基づく制度であり、イギリスやアメリカで採用されている。これに対して、遺産取得税は、相続人が相続によって取得した財産(=相続人の所得)に課税する制度である。相続という偶然の事情による富の増加を抑制することを目的とし、ヨーロッパ大陸諸国において採用されている。
日本の相続税は、1905年(明治38)に設けられて以来、遺産税の制度を採用していた。しかし、1950年(昭和25)にシャウプ勧告(アメリカの税制使節団による税制改革勧告)に基づく税制改正が行われ、担税力に応じた公平な課税である遺産取得税の制度に改められた。ただし、1953年および1958年の改正によって、原則として遺産取得税の制度を採用しつつ、税務行政の執行上の便宜性が高い遺産税の長所も取り入れられた。すなわち、相続税の総額を、遺産の総額と法定相続人の数およびその法定相続分によって決定することとし、相続にすべての遺贈も含めて、同じ被相続人の遺産からの財産取得者である受遺者にも相続税を負担させることとした。これが現行の課税制度である、法定相続分課税による遺産取得税方式である。
[野澤正充 2018年1月19日]
相続税は、「相続や遺贈、生前に被相続人から贈与された財産(相続時精算課税制度の適用を受けて取得したもの)の合計額」から「非課税財産、葬式費用、債務分」を控除し、これに「相続開始前3年以内の贈与財産の価額」を加算した額(正味の遺産額)から、基礎控除額(課税最低限)を引いた額(課税遺産総額)に対して課される。
前記の相続時精算課税制度とは、2003年(平成15)に創設された制度で、60歳以上の父母または祖父母から生前贈与を受けた推定相続人(18歳以上の子と孫)が贈与時に一定の税率で贈与税を納めておき、贈与者が死亡した際(相続時)に贈与財産と相続財産を合計した価額をもとに算出した相続税額から、すでに納めた贈与税額を控除することにより贈与税・相続税を通じた納税をすることができる制度である。また、非課税財産とは、(1)墓地や墓石、仏壇、仏具など日常礼拝をしているもの、(2)宗教、慈善、学術等の公益を目的とする事業を行う個人などがその事業に使うことが確実なもの、(3)相続によって取得した生命保険金のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分、(4)相続によって取得した退職手当金等のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分、などである。
基礎控除額は、3000万円+(600万円×法定相続人の数)である。そして、この基礎控除額を超える部分の遺産額を、法定相続人が民法の法定相続人の割合にしたがって相続したものとした場合の各取得分の価額に対して、1000万円以下の部分に適用される10%から、6億円超の部分に適用される55%までの超過累進税率を適用して相続税の総額を求める。この総額を各相続人および受遺者の課税価格により案分した額が、各納税義務者の納付すべき相続税額となる。
前記基礎控除額のほかに各種控除・特例が設けられている。被相続人の配偶者の場合は、遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が(1)1億6000万円、(2)配偶者の法定相続分相当額、どちらか多い金額が控除される(配偶者控除)。その他、未成年者控除(その未成年者が満18歳になるまでの年数1年につき10万円控除)、障害者控除(その障害者が満85歳になるまでの年数1年につき10万円控除)、相次(そうじ)相続控除(相続開始前10年以内に被相続人が相続・遺贈等によって財産を取得し相続税が課されていた場合、一定の金額を控除)、小規模宅地等の特例(事業用と居住用の特例があり、要件により50%または80%の減額)などがある。
各納税義務者は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告および納税をしなければならない。また、被相続人の死亡時における住所が日本国内であった場合の申告書の提出・納税先は、被相続人の住所地を所轄する税務署となっている。
[野澤正充 2022年4月19日]
相続税は財産の移転に対して課される特殊な財産税である。課税の客体としては大きく分類してフローとストックがあるが,財産税はストックである財産のある特定時点における評価額を課税標準として課税するものである。相続税というのは,財産所有者の死亡によって生ずる財産の移転に対して課される税であり,その起源は相続財産の名義書換えのときに登記所が徴収した手数料に求められるが,それが印紙税や登録税の性格を帯びるようになり,やがて相続税に発展したとされる。財産の移転に対して課されるので流通税の性格も有するが,今日では財産税の一種として扱われている。現代の福祉国家では所得の再分配がますます重要な役割を演じてきているが,ストックである富の再分配も重視されている。公平な分配の規準はきわめて難しいが,仮に能力や努力の差異に基づく稼得所得のある程度の不平等は容認するとしても,出発点から親の相続財産で大きいハンディキッャップがつくのは不公平であるという考え方も強く,この場合には相続税への重課による富の集中化の排除が提唱される。また,富の蓄積は個人的経済能力や努力という要因以外にも,社会一般から受ける利益の要因による場合も多いから,個人の死亡に際して相続税の形で蓄積した富の一部を社会に還元するという考えも,相続税の根拠としてあげられる。他方,子孫に財産を残したいという自然な気持ちは貯蓄の重要な動機の一つであり,また所得のみならず個人財産が厚いということは国民生活の安定にも不可欠の要因であるから,両者間の適当なバランスが必要である。
相続税は遺産税estate taxと遺産取得税inheritance taxとの2種類に分けることができる。前者は被相続人の財産を一括して課税する方法であり,後者は各相続人ごとに自分の相続した財産額に応じて課税する方法である。日本の相続税は遺産税形態で1905年(明治38)に創設され,50年の改正以来取得税主義が採用されたが,58年の改正により税務行政上の困難や財産の細分化による経営の困難化などの点を考慮して,遺産税の長所も取り入れられてきている。現行の相続税の概要を述べると,納税義務者は相続または遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与)により財産を取得した者である。課税価格はこれらにより取得した財産の価額の合計で,この額から被相続人の債務や葬式費用を控除した額が課税標準を形成する。基礎控除は,ある一定額と法定相続人の数に1人当り基礎控除額を乗じたものとの合計である。この合計額が課税最低限となり,これを超える額については,その納付すべき相続税額は,共同相続人(〈相続〉の項参照)が民法900条に定める相続分の割合により遺産を取得したものとして算出した相続税の総額を,各相続人が相続により実際に取得した財産の価額に応じて比例配分して算出した額とされる。
執筆者:林 正寿
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(浦野広明 立正大学教授・税理士 / 2007年)
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…そのうえで納税協力確保のために所得税率の最高限度を大幅に引き下げる一方,高額所得階層には富裕税を用意し,生産や投資への阻害作用を避けつつ,しかも所得課税の高度累進を実質的に保ち,かつ資産所得の逋脱(ほだつ)を防ごうとした。相続税を,相続財産および贈与財産について一生を通じる累積課税としたのも,資産保有の集中を防ぎ,高額資産に確実に課税しようという趣旨である。税務行政改善のためにいわゆる青色申告を導入したのもこの勧告の重要な貢献であった。…
…また土地租税には,土地の売買によって実現するキャピタル・ゲイン(資産の値上がり利益)の一部を公共に還元させることによって所得の再分配を進める機能もある。租税は一般的に所得税,流通税,財産税に分類されるが,日本の現行の土地租税には譲渡所得税(所得税),不動産取得税・登録免許税(流通税),固定資産税・都市計画税・特別土地保有税・相続税・譲与税および新設の地価税(1992年施行)(財産税)などがある。これらのうち財産税は,土地を所有することに対して,その土地の市場価格に一定率を乗じた額を課税するものであり,土地所有者はこの税がかけられると税負担に耐えるために土地を手放すか,あるいはみずから土地の有効な利用を進めなければならなくなるから,いずれにしても土地市場における供給促進の効果が期待できる。…
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