石油精製(読み)せきゆせいせい(その他表記)petroleum refining

改訂新版 世界大百科事典 「石油精製」の意味・わかりやすい解説

石油精製 (せきゆせいせい)
petroleum refining

原油を物理的・化学的手段を用いて加工し,各種の石油製品を生産する技術体系。第2次大戦後は中東地域における大油田の開発,タンカーの大型化と高速化,石油消費国における石油購入のための外貨節約の必要,などの理由により,石油の消費地精製が主となった。しかし最近は産油国が国内産業育成,付加価値の増大の立場から,原油を輸出するかわりに,みずから現地で石油精製を行い,石油製品を輸出しようとする動きが高まっている。日本をはじめ工業先進諸国の石油精製業も,このような国際情勢の変化によってなんらかの影響を受けることになろう。

 日本は国内に大きな石油資源をもたない。国内原油の確認埋蔵量はおよそ800万klにすぎず,年間の産油量は86万klである(1995)。したがって日本が必要とする石油の大部分は原油もしくは石油製品のいずれかのかたちで海外からの供給に依存している。1995年の日本の原油輸入量は約2億6700万klである。他方,石油製品の輸入量は合計3557万klであり,原油輸入量の13%にすぎない。すなわち,現在の日本は原油輸入-国内精製を原則としている。

日本の製油所は,そのいずれもが海岸に立地しており,秋田,新潟などの国内産原油の処理を主たる対象とする少数の製油所を例外とすれば,大部分が太平洋岸に立地している。その多くはコンビナート中核として,電力鉄鋼などに重油を,また石油化学ナフサを直接的に供給するほか,各種の石油製品を生産している。製油所の主要設備とその能力は表1に示すとおりである。

 1970年代の後半から石油価格の高騰による重油から石炭への転換,エネルギー節約の徹底,景気停滞,などにより石油需要がむしろ低下した。すなわち76年の年間原油処理量は2億6689万klであり,77-79年に2億7000万klを超えたものの,80年は2億5834万klに低下した(1995年は2億4291万kl)。このような事情から,製油所の稼働率は年平均70%を下回り,近い将来に石油需要の大きな伸びが期待しがたいこともあって,一部の古い設備の廃棄問題が検討されている。

原油を加工することによって表2に示すような多種多様な製品が生産される。すなわち,エネルギーとしてはもちろん,化学原料その他としても石油は産業や日常生活に不可欠の資源である。表中の需要比率は近年の日本の例である。

 また表3は日本の石油製品の需要量の変化を示したものである。石油製品需要構成の変化の特徴は,B重油,C重油の需要量が減少し,ジェット燃料軽油A重油など中間留分の需要量の伸びが大きく,これに灯油を加えると,構成比ではこれらが大きく上回っていることである。一方において,日本の輸入原油は年々重質化の傾向をみせており,このため石油の重質留分を分解して中間留分を増産する技術の開発が進められている。

上にも述べたとおり,とくに最近のように原油が売手市場であるような情勢下では,入手しうる原油の品質,性状は必ずしも買手側の要求に一致しない。他方,石油製品の品質に対する要求や需要構成は国内の経済,産業事情によって変化する。そこで石油精製業の立場からは,入手しうる原油から優れた品質の石油製品を市場の需要量に合わせて供給すべく,各種の物理的操作や化学的反応を組み合わせて石油精製工程を設計し,また操業することになる。石油精製工程の一例は図に示すとおりである。

 この図にみられるとおり,石油精製工程の第一歩は原油の常圧蒸留である。この工程は原油に含まれる炭化水素をその沸点差を利用して蒸留によって分離し,LPG,ナフサなどに始まり重油留分に至る各種の中間製品を得る。これに次の諸工程が続く。(1)硫黄,窒素,酸素などの非炭化水素成分を除去するための化学洗浄,水素化精製(水素化脱硫)などの工程。(2)石油製品の性能を改善するために炭化水素の構造を変える改質工程(改質法水蒸気改質法,接触改質)や,需要の多い石油製品を増産するための分解工程(水素化分解接触分解熱分解)など。(3)潤滑油やアスファルトなどを生産するための減圧蒸留や特別の精製工程。

 蒸留によって得られた中間製品は,これらの工程を経て,最終的に混合,調整,品質検査ののち製品として出荷される。各工程の詳細,あるいは各製品の性状などについては,それぞれの項目を参照されたい。
原油 →石油化学
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