肥後国の御家人竹崎季長(たけざきすえなが)がモンゴル襲来の際の自分の活躍をかかせた絵詞。《竹崎季長絵詞》ともいう。前後2巻を通じて内容は大きく四つの部分に分かれている。前巻の前半は1274年(文永11)の文永の役における季長の武功を物語っており,後半は恩賞獲得のために季長が鎌倉へ出訴して成功する経過を物語っている。後巻の大部分は81年(弘安4)の弘安の役における季長の活躍を述べており,最後の部分は奥書となっている。これには永仁元年(1293)2月9日という日付が書かれているが,正応から永仁への改元は8月5日であり,この日付は後世に記されたものである。この絵詞はモンゴル襲来の基本史料の一つであると同時に,舞台となった博多付近の景観や竹崎季長の人物,鎌倉幕府の有力者安達泰盛の人物を知るうえでも貴重なものである。このほか,当時の武家故実,合戦法,兵器などについても知ることができる。《日本絵巻物集成》所収。詞書だけは《続群書類従》にも所収。
執筆者:佐伯 弘次 文永の役の恩賞要求のため作らせたともいわれるが,奥書によれば,季長が肥後の甲佐明神の神恩に感謝し,その報恩のため,また子孫に伝えるため制作させ奉納したとされる。しかしこの絵巻は,いつしか神庫を出て転々とする間に著しい錯簡,欠落を生じ,現在前後2巻として御物となっている。成立の事情,制作年,制作地,二つに大別される作風の相違など,なお検討すべき点が多い。記録的な要素の濃い合戦絵巻として,中心となる出陣,戦闘の場面は活力に満ちている。人物を大ぶりに描いて個性的面貌を与え,武具の表現も正確が期されているうえ,画中には人名,地名などが書き込まれるなど,個人が前面に押し出された武家の時代にふさわしい絵巻といえよう。
執筆者:田口 栄一
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鎌倉後期の戦記絵巻。御物。国宝。1274年(文永11)と1281年(弘安4)の両度の元寇(げんこう)、いわゆる文永(ぶんえい)・弘安(こうあん)の役で活躍した肥後国の御家人(ごけにん)、竹崎季長(すえなが)の戦功を中心に描く。錯簡、散逸があるが、現在二巻に調巻され、上巻は、文永の役で博多(はかた)における季長一門の奮戦ぶりと、それにもかかわらず幕府の恩賞がないので鎌倉に下り真相を訴え、肥後海東郷の地頭(じとう)職を賜ったこと、下巻は、弘安の役において志賀島(しかのしま)の海戦で戦闘するありさまが収められる。画中に人名などの書き込みを施し、また人馬、武器武具などの描写も正確で、記録画としての性格を顕著に示し、とくに当時の戦闘、武装の模様を伝える史料としても重要である。奥書に「永仁(えいにん)元年(1293)二月九日」の年紀があり、このころの制作とみられる。季長自らの戦功を記録したもので、地頭職を得たのは海東郷の氏神甲佐大明神の神恩によるとし、その報恩のためと、子孫に末長く伝えるために制作されたと推定される。
[村重 寧]
『小松茂美編『日本絵巻大成14 蒙古襲来絵詞』(1978・中央公論社)』
二巻
原本 宮内庁
別称 竹崎季長絵詞
解説 モンゴル襲来の際、肥後国御家人竹崎季長が自らの活躍を描かせた絵画と詞書からなる。前巻の前半部は文永の役での季長の活躍、後半部は恩賞獲得のため鎌倉へ出訴した経緯、後巻の大部分は弘安の役での季長の活躍となっている。奥書に永仁元年二月九日の年紀があるが、正応から永仁への改元は八月で、日付は後世のものと考えられる。モンゴル襲来を語るうえでの基本史料の一つであるとともに、現福岡市域の地名や景観などが記されており興味深い。絵画・詞書は「日本の絵巻」一三に、詞書は日本思想大系21「中世政治社会思想」上に収録。
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「竹崎季長(すえなが)絵詞」とも。鎌倉後期の文永・弘安の2回にわたる蒙古軍との戦闘を描いた絵巻。戦闘に参加した肥後国の御家人竹崎五郎季長が,自分の武勲を中心に描かせたもの。巻末の文書に,この戦功によって恩賞をえたのは甲佐大明神の神恩によるものであり,その報恩と子孫への教訓のために絵巻を制作したとある。戦闘の詳しい状況や,武士たちの面貌の特色,さらに服飾など,細部まで描写しており,詞書(ことばがき)のほか,画中にも人名・地名が記入され,記録的な性格を示す。制作時期は,奥書の1293年(永仁元)頃と推定される。紙本着色,2巻。上巻,縦39.3cm,横2324.3cm。下巻,縦39.7cm,横1985.6cm。宮内庁蔵。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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