解除とともに,いったんは有効に成立した契約を事後的に消滅させること。賃貸借契約のような継続的な法律関係を内容とする契約において,契約の存続期間の定めがないときには,いつでも両当事者に,また契約の相手方に債務不履行その他一定の事由(解約原因)があるときには,もう一方の当事者に契約を解約する権限(解約権)が発生し,解約権者の解約の意思表示によって契約は将来に向かって解消される。日常用語では〈解除〉と〈解約〉とは,ともに契約を解消させるものとして区別されないことが多いが,法律上は両者は区別される。解除が売買契約のような一時的な法律関係を内容とする契約の解消を意味するのに対して,解約は賃貸借契約のような継続的な法律関係を内容とする契約の解消のみを意味する。もっとも,民法の用語上でも両者には混同がみられる。そこで解除との区別を明りょうにするために,〈解約告知〉あるいは単に〈告知〉ということもある。解除と異なり,契約を契約締結時にさかのぼって消滅させるのではなく,解約時までの契約関係には影響を及ぼさず,解約時以降の契約関係を消滅させるものである。その意味で,解約は将来に向かってのみ効力を有し,遡及(そきゆう)効は有しない。たとえば,家の賃貸借契約において借主が家賃を途中から支払わなくなったような場合,貸主としては契約を存続させて,家賃の支払を請求することもできるけれども,そのような借主にその家を今後は貸与することを取りやめ,契約関係を解消することを望むこともある。そのような場合の法律的手段として解約が機能する。解約は将来に向かってのみ効力を有するのであるから,解約の時点までに家主が受領した家賃は契約にもとづいて受領したものと評価され,その返還の問題は生じない。同様に借家人がそのときまで建物を使用したことも契約にもとづく使用と評価され,通常の程度の汚損・破損・磨滅は修理・交換を要しないこととなる。
解約の理由については,解除と異なり,民法上特別の規定は置かれていない。このため,かつては解除の規定が適用され,債務不履行があれば解約できると解釈されていたこともあったが,その後,判例を中心とし,主として借地・借家契約について信頼関係破壊の法理が形成されてきた。それは,継続的な契約関係(継続的債権関係)は当事者間の信頼関係を基礎として成立しているという特質にかんがみ,単なる債務不履行によっては解約権は発生せず,それによって契約の基礎となっている信頼関係が破壊された場合に限って解約することができるというものである。したがって,たとえば借家契約において家賃の支払が1度だけ期限になされなかったとしても,それは債務不履行には違いないが,それだけでは原則として当事者間の信頼関係は破壊されず,契約を解約することはできないと解釈されることとなる。そして,この信頼関係破壊の法理は当事者の合意による約定解約理由にも適用がある。なお,委任・雇傭契約等の契約類型では,これとは別に,委任者等はいつでも格別の理由なしに解約することが認められている(民法651条)。それは,これらの契約類型においては,それぞれ必要があって契約を締結したけれどもその後その必要性が消滅したり,債務不履行には該当しないものの債務者の債務履行に対する信頼が喪失したりするような場合にも,なお契約関係だけを継続することは不合理であるという理由で認められている特殊な解約原因である。もっとも,このようにして解約されたことによって相手方である受任者等に損害を生じたときにはそれを賠償する義務がある。また,継続的債権関係から生ずる特別の解約原因として,契約の存続期間が定められていないときには,当事者はいつでも解約することができるのを原則とする。しかし,これには重要な例外があり,社会的に重要な役割を果たしている借地契約,借家契約ならびに農地の賃貸借契約においては,借主保護のためそれぞれ特別の法律が定められており,貸主の解約権は著しく制限されている(借地借家法3条,28条,農地法20条)。解除と異なり,期間の定めのない契約の解約権の行使にあっては,解約の意思表示によって直ちに解約の効果を生ぜず,解約の意思表示後一定期間が経過して初めて解約の効果を生ずることが多い。解約の効果は契約の将来に向かっての消滅であり,解除と異なり原状回復の問題は生ずる余地がない。しかし,契約が将来に向かって消滅する範囲内で契約関係の清算は行われるわけであり,たとえば建物の賃貸借契約では,借家人は建物の明渡義務を負い,家主は敷金・保証金等の返還義務を負うこととなる。
→解除
執筆者:栗田 哲男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
法学上、広狭二義に用いられる。賃貸借、雇用などのいわゆる継続的債権関係において、将来に向かってのみ契約を終了せしめ遡及(そきゅう)効を生じない当事者の一方的意思表示を、講学上「告知」とよび、その遡及効を生じる民法第541条以下に規定されている「解除」と区別している。解約は告知と同義に用いられ(広義の解約)、あるいはそのうちとくに期間の定めのない契約関係の場合に用いられる(狭義の解約)。したがって、狭義の解約は、期間の定めのない契約関係を期間を定めて終了せしめる機能をもっている(民法は解約申入れ期間を定める――617条・627条など)。継続的契約である賃貸借などにおいては、経過した事実関係はそのままにして、将来に向かって契約を無効にする(不遡及的無効――620条)。雇用や委任などの契約についても同様である。
ただし、特別法はしばしば解約の申入れに対して制限を課している。法定解約原因は債務不履行であるが、信頼関係を破る程度の債務不履行であることが要件とされ、背信関係としての債務不履行がなければ、解約権は生じない。たとえば借家法では、期間満了時における契約の更新拒絶ないし解約については正当事由を要件としている(借家法1条ノ2)。そのほか、解約申入れ期間を伸長している。たとえば、借家法では解約申入れ期間の経過を要件としており(2条1項・3条)、そのほか、労働基準法第20条でも同様の趣旨の規定がある。
[淡路剛久]
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