翻訳|wire service
ニュースおよびニュース資料を収集し、それを新聞、雑誌、放送などマス・メディアその他官庁、企業などに提供する機関をいう。マス・メディアは国内・国外で日々発生するニュースを報道しなければならないが、そのすべてを自力で収集するには、膨大な通信網を整備するとともに莫大(ばくだい)な経費と労力を必要とし、その負担は大きく、むだも多い。そこで新聞、放送などの求める共通的なニュースを収集し、供給する機関として通信社が生まれてきた。通信社業務の発生は経済ニュースの需要から始まったとみられるが、新聞の発達に伴い、その業務も一般時事ニュースに拡大し、近代的通信社が成立した。その最初のものは1835年に創立されたフランスのアバスで、日本では、1888年(明治21)三井の益田孝(ますだたかし)が創立した時事通信社とされる。このように、かつては一般的におもにマス・メディアにニュースを提供するのが通信社の主要業務であると考えられてきたが、今日では様相を一変させている。というのも、ロイターなどの世界的な通信社の多くは、その収益の大半を、金融機関などにリアルタイムの情報を提供する業務から得るようになったためである。また、ソ連時代のタス通信(ソ連崩壊後の1992年にイタル・タスと名称変更)のように、国営通信社が諜報(ちょうほう)機関としての役割を果たすこともある。香港(ホンコン)が中国に返還される前は、新華社が香港における事実上の大使館の役割を果たしていた。
[高須正郎・伊藤高史]
2000年現在、世界の140以上の国に通信社があるが、その性質、規模、目的、作業方法には大きな差異があり、巨大な超国家的企業となっているもの、国家的通信社で国際的作業も行うもの、国内的な目的の国家的通信社、その他各種の専門的通信社がある。このうちロイター(イギリス)、AFP(フランス)、APとUPI(アメリカ)、イタル・タス(ロシア)の5社は、全世界のニュースを収集して、数多くの言語で世界各国に配布するシステムの規模と技術的な力によって、とくに広範な国際的役割をもち、世界通信社world news agencyとよばれている。通常、世界のニュースの収集、配布は、主としてこれら5社によって行われ、1日数十万語の国内・国外ニュースを収集し、各国の国家的通信社および数千の契約新聞社、ラジオ・テレビ局に24時間体制でニュースを提供している。
通信社は、国内・国外のニュースを国内のマス・メディアなどに提供するだけでなく、自国のニュースを世界に流通させる重要な役割を担っているため、国益と密接な関係をもっている。したがって各国政府は国家的通信社の維持、発展に大きな関心を払っている。アバスに始まった近代的通信社は、続いて1849年ドイツにウォルフ、51年イギリスにロイターが創設され、19世紀後半、世界の三大通信社として世界のニュースを支配したが、20世紀に入り、二度の世界大戦を経て、各国の力関係が変化するに伴い、資力を誇るアメリカの二大通信社が発展し、さらにソ連時代のタス通信社がその地歩を広げ、現在の五大世界通信社による世界情報通信体制が現出した。
[高須正郎・伊藤高史]
日本では、時事通信社に続いて明治期には、帝国通信社(略称帝通)、日本電報通信社(電通)が日清(にっしん)・日露戦争を通じて業務を拡大、日本の二大通信社として競争。20世紀に入っては、帝通の没落にかわって日本新聞聯合(れんごう)社(聯合)が生まれ、電聯競争時代を展開したが、1936年(昭和11)国策によって両社の通信業務を吸収した同盟通信社(同盟)が設立され、日中戦争から第二次世界大戦中、東洋の最大通信社として活動した。しかし45年の敗戦によって同盟は解体、現在の共同通信社(外部の力を排除するため組合組織としている社団法人)と時事通信社(株式会社)が創設され、以後、日本を代表する通信社として現在に及んでいる。
[高須正郎・伊藤高史]
『通信社史刊行会編・刊『通信社史』(1958)』▽『今井幸彦著『通信社』(中公新書)』▽『倉田保雄著『ニュースの商人ロイター』(朝日文庫)』▽『江口浩著『「TOKYO発」報道戦争』(1997・晩声社)』▽『金子敦郎著『国際報道最前線』(1997・リベルタ出版)』
新聞社,放送局などにニュースを提供する機構。ニュースは,あらゆる場,対象から収集されるが,その共通な部分については,通信社がこれを収集することにより,新聞社,放送局などは経費と労力を節減でき,同時に自社独特の取材範囲を拡張できる。ここに通信社の意義がある。広くニュースを収集,配布するためには大きな通信網を整えなくてはならないから,大きな組織を必要とする。APとUPI(アメリカ),ロイター(イギリス),AFP(フランス),タス(現在イタル・タス,ロシア)の5社は,世界のニュースを収集し,これを多数の国々に配布する通信社として,世界通信社World News Agencyと分類されている。その他,各国には一つないしそれ以上の通信社があり,それぞれ自国内ないし世界に通信網を張っているが,その多くは,世界ニュースについては,多少とも前記5社に依存している。一方,経済情報とか学芸,漫画などを新聞社,放送局あるいは銀行,商社,出版社などに提供する専門の通信社もあり,また,かつて通信社が新聞社に広告を取り次いだこともあって,広告代理店などが通信社という名まえをつけているものもある。
中国その他の社会主義の国では通信社はおもに国営である。政治,経済,社会各般にわたり国内,国際ニュース・コミュニケーションは国営通信社によって統轄される。ソ連崩壊後のロシアでは,国営と民営の通信社が鼎立している。発展途上国では国営または公営で,形の上では民営であっても国が関与したり,財政上国が補助しているものが多い。これに対しアメリカ,イギリス,日本など〈自由諸国〉では国がいっさい関与しない民営を身上としている。報道の自由を確保するためにはニュースに対する国家権力の介入をいっさい許さないためである。アメリカのAP通信社は一貫して新聞社の協同組織として経営を維持しており,日本の共同通信社その他これに範をとる通信社も多い。
近代的通信社の始祖ともいわれるアバスAgence Havas(フランス,1835創設),ウォルフWolffs Telegraphen-Bureau(ドイツ,1849創設),ロイター(イギリス,1851創設)の各通信社は,当初は顧客へ経済情報を流すことから始まり,電信,海底ケーブルなどの近代的通信技術の開発にともなって,先進ヨーロッパで発展し,19世紀後半における世界の三大通信社といわれた。これら三つの通信社は1856年に第1回の国際協定を結んで,ニュースの交換を行うようになった。その後協定は何度も更改されて,1870年,ロイターはイギリス帝国と極東(中国,日本),アバスは南ヨーロッパとラテン・アメリカ,ウォルフは北ヨーロッパ,ロシア,バルカン諸国などと,世界を三つに分割して,それぞれの領域でニュースの収集,配布に独占権を持つことが取り決められた。後発のAPはロイターから世界ニュースを供給されたが,その活動範囲はアメリカ合衆国の領土に限定されていて,国際進出のため協定の破棄に苦心していた。第1次大戦後,各国の力関係の変化にともない,1934年に国際協定は破棄され,世界ニュースの地域分割独占の時代は終わって,少数の世界通信社による寡占時代を迎えることになる。ウォルフはドイツの敗戦により,その通信網をロイターとアバスに取り上げられ,33年にナチスの国営通信DNB(Deutsches Nachrichtenbüro)に吸収された。しかしアバスも第2次大戦中,フランスの降伏により解体され,44年にAFPとして生まれ変わった。第2次大戦後,資力を誇るアメリカの通信社は急速に発展し,タスも戦勝によりその地歩を広げた。しかし戦後半世紀たって,情報・通信技術の発達,メディアの多様化にともない,通信社の流す情報の地位は相対的に低下した。しかも全世界に取材・送信のネットワークをはりめぐらし,24時間体制でニュースを発信する国際通信社の経営はますます巨額の資金を必要とし,現在ではロイターとAPの二大巨人が他を圧してそびえ立つ様相を呈している。また,アジア,アフリカの植民地は政治的には独立をかちえたが,国際報道のうえでは旧態依然,旧宗主国からの一方通行であり,情報の植民地としての地位に変りない。発展途上国が1978年のマス・メディア宣言のころから主唱する〈新世界情報コミュニケーション秩序〉はこのような状態の打破を目的としたものである。
明治憲法発布の前後に生まれた時事通信社(1887-90),新聞用達会社(1890-92)などが日本の通信社の先駆といわれるが,当時は群小通信社の乱立にとどまった。新聞用達会社の後身として,1892年創立の帝国通信社(帝通)は日清,日露戦争を通じて業務を拡大,1901年創立の日本電報通信社(電通)とともに日本の二大通信社として競争した。第1次大戦勃発直前の14年,ロイター通信社と結ぶ国際通信社(国際)が生まれ,26年東方通信社を合併して日本新聞聯合(れんごう)社(聯合,1928年新聞聯合社と改称)を組織,帝通の没落とともに,電通と聯合との激しい競争を特徴とする〈電聯時代〉を生んだ。この競争の結果は,国策により36年両社の通信業務を吸収した同盟通信社(同盟)の出現となり,同盟は日中戦争および第2次大戦を通じて東洋における最大の通信社としての地位を誇ったが,45年敗戦によって解体し,その施設を継承して,現在日本を代表する共同通信社と時事通信社が創設された。
執筆者:殿木 圭一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(浜田純一 東京大学教授 / 2007年)
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