知恵蔵 「通商法301条」の解説
通商法301条
日米の貿易摩擦が激化した80年代末には、不公正貿易の完全撤廃を目的に、対象国に対する関税引き上げや輸入制限といった具体的な報復措置が盛り込まれた。2年間(89年~90年)の時限立法で、スーパー301条と呼ばれる。強硬な報復措置を認めたスーパー301条は、自由貿易に反する保護主義政策として国際社会から批判されたが、日本のほか、インド、ブラジルも対象となった。その後、クリントン政権下に二度復活したあと、2001年に失効している。
世界貿易機関(WTO)が発足した1995年以降は、通商法301条の発動は控えられるようになった。WTOは国際協調に基づく公平な自由貿易の発展を目的としており、相手国との交渉・協議を経ずに強硬発動すると、協定違反になる恐れが高いためである。WTOには、世界第2の経済大国である中国も2001年に加盟している。その後、中国製品の輸入が激増し、自国産業に打撃を与えるようになったため、米国は再び保護主義路線に舵(かじ)を切るようになった。18年4月には、対中貿易赤字の解消を目指すトランプ大統領が、中国に対して通商法301条に基づく制裁措置を発動すると発表。中国企業による知的財産権侵害を理由に、1300品種もの輸入品に高額の関税を上乗せさせるという内容だった。これに中国の習近平政権が猛反発。同規模の報復措置を表明したことから、世界経済を揺るがす貿易戦争に発展するとの懸念が広がった。
(大迫秀樹 フリー編集者/2018年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報