翻訳|constituency
選挙を行うにあたって,投票結果を集計し,それに対して公職のポストを配分する基礎となる単位。選挙区は通常,地理的な区域として定められているが,ときには一定の選挙民の集団として定められることもある。ポストの配分は行わないが投票結果が集計される開票区が,選挙区の中に一つ以上含まれている。選挙区は,配分されるポストの数によって分類されており,1名のものを小選挙区,2名以上のものを大選挙区という。たとえば,イギリスの下院議員選挙は650の小選挙区から1名ずつ選出するものであり,アメリカ連邦下院議員選挙は435の小選挙区によって実施される。日本の1993年までの衆議院議員選挙は129の選挙区で定数2~6名を選出しており,理論的には大選挙区制であるが,俗に中選挙区制と呼ばれている。イスラエルの国会議員選挙は,120名を全国からなる一つの大選挙区から選出している。比例代表制をとる国は,その趣旨からとうぜんに大選挙区制である。日本の参議院議員選挙は定数252名のうち100名を全国区から3年ごとに半数ずつ選出する大選挙区制をとっており,1983年から全国を1区とする比例代表制を採用している。
各選挙区における当選者の決定方法には,多数代表制,少数代表制,比例代表制の3種がある。多数代表制は,選挙区において多数の投票を得たものを当選させるものである。この典型的な例は小選挙区単記投票制と大選挙区完全連記制である。多数代表制は当選の要件に絶対多数を要求するものと相対多数を要求するものとがある。イギリス,アメリカなどでは相対多数を獲得した候補者が当選となるが,フランスの国民議会議員選挙では第1回目の投票で絶対多数を当選の要件とし,そのような候補者がいない場合には1週間後の第2回投票(バロタージュballotageという)を行い,このときは相対多数で当選者を決定する。
多数代表制は多数派の意思を選挙結果に反映させる反面,少数派の意思は無視される。この欠点を補う方法が少数代表制であり,少数派にも当選の可能性が開けている。この制度は定数2名以上の大選挙区制を前提とする。当選の要件は相対多数であって多数代表制と変わるところはないが,次のような制限を設けて少数派も代表を当選させることができるようになっている。(1)制限投票制 定数より少ない候補者の連記を認めるものである。これによって少数派は下位当選が可能になる。日本の1946年の衆議院総選挙はこの方法で行われている。(2)単記投票制 これは(1)をさらに徹底させたものと考えられ,また,多数代表制である小選挙区単記投票制の選挙区をいくつか統合して修正を加えたものとも考えられる。日本の1993年までの衆議院総選挙および,1983年以前の参議院全国区選挙はいずれも大選挙区(中選挙区)単記投票制である。(3)累積投票制 連記投票で,同一候補名を複数書くことを認めるものである。(4)点数投票制 投票者が自分の選好順序に従って候補者に点数をつける投票のしかたである。
さて,選挙区の規模は代表の性格,選挙民の意思の反映のしかた,選挙運動の形態,選挙運営など多くの問題に影響を及ぼす。小選挙区,大選挙区とも一長一短がある。小選挙区制の長所は,(1)多数党の出現を容易にし,政局の安定が得られやすい,(2)選挙民が候補者の人物,識見,政見をよく知って投票する,(3)投票率が比較的高くなる,(4)同一政党内における同士討ちの弊害が少ない,(5)選挙運動費用が比較的少額で足りる,(6)候補者の乱立を比較的防止できる,(7)選挙運動の取締りが徹底する,(8)選挙公営の実施が容易である,などである。小選挙区制の短所は,(1)選挙結果は少数代表に不利であり,死票が増加して,不自然な多数党の登場を招く場合がある,(2)地方的勢力家に有利であって全国的大人物に不利であり,議員の素質の低下をもたらすおそれがある,(3)議員が地方的問題にのみ没頭しやすい,(4)新人の進出が困難である,(5)選挙民の候補者選択の幅が狭い,(6)個人的競争となるため選挙運動が激烈となり各種の弊害(暴行,脅迫,情実,買収等)を伴いやすい,(7)人口の変化に伴い,しばしば選挙区の再画定作業が必要となり,ゲリマンダーのおそれがある,などである。
大選挙区制の長所は,(1)完全連記制をとらなければ,選挙結果に少数代表の趣旨を加味することができる,(2)全国的人物,新人の当選が比較的容易であり,議員が地方的利害に拘泥する弊害が少ない,(3)選挙民とのつながりよりも候補者の人物識見が重視される,(4)選挙民の候補者選択の範囲が比較的広い,(5)小党派および新政党にも有利である,(6)選挙運動が過度に激烈になることを緩和し,買収などの不正,腐敗行為の効果が少ないので,弊害の減少につながる,などである。大選挙区制の短所は,(1)小党分立になりやすく,政局の不安定をもたらしやすい,(2)扇動家的人物,売名的人物が立候補し,当選しやすい,(3)議員と選挙区との関係が密接でなくなる,(4)候補者の人物,識見,政見を選挙民によく知らせることが困難である,(5)棄権者数が増加する,(6)同一政党内の同士討ちの弊害が生じやすい,(7)選挙運動費用が高くなる,(8)候補者の乱立のおそれがある,(9)選挙運動の取締りが徹底せず,選挙公営の実施が容易でない,などである。
日本の衆議院議員選挙の選挙区制は1890年の第1回総選挙以来,小選挙区制,大選挙区制とも実施されてきたが,1925年の普通選挙制度の採用時以来,46年の総選挙を除いて93年の総選挙まで中選挙区制で実施されてきた。しかし,88年のリクルート事件の発覚後,国民の政治不信が著しく高まった結果,自民党単独政権に代わって93年に成立した非自民の細川護熙連立政権のもとで94年に政治改革4法などが成立し,新たに300議席を選出する小選挙区と11ブロックで200議席を選出する比例代表選挙を組み合わせた小選挙区比例代表並立制が導入された。
執筆者:川人 貞史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
選挙を行うにあたって、全体の選挙人を選挙人団に分ける標準となる区域をいう。いいかえると、議員などの代表者を選出する基礎単位となる区域が選挙区である。全体の選挙人を地域別に分割した場合の区域を地域選挙区といい、職域別に分割した場合のそれを職域選挙区という。前者は地域代表制における選挙区であり、後者は職能代表制における選挙区である。今日、わが国をはじめ議会政治の諸国では地域代表制を原則としているので、一般に公職の選挙制度においては、選挙人団構成の基礎となる地域的区画を選挙区という場合が多い。1選挙区における議員定数が1人である場合を小選挙区制、2人以上である場合を大選挙区制という。わが国の1947年(昭和22)から94年(平成6)までの衆議院議員選挙区制は、原則として都道府県を数選挙区に分け、1選挙区から3人ないし5人の議員を選出する制度であり、俗に中選挙区制とよばれてきたが、理論的には大選挙区制である。各選挙区の選挙区割り、定数配分、投票方式、当選者の決定方法などは、選挙民の意思の議会への反映に大きな影響を及ぼす。たとえば、小選挙区制や大選挙区完全連記投票制はその選挙区の多数派をして当選者を独占せしめる方法であり、大選挙区単記投票制や大選挙区制限連記制は少数派からも代表者が選出される可能性を保障する方法である。選挙区制、定数、投票方法などの問題はいわゆるゲリマンダーにみられたように党利党略になりがちであるが、イギリスの区割委員会のような議会とは別の第三者的機関の設置による検討が注目される。わが国では、1994年(平成6)の公職選挙法改正により、衆議院選挙に小選挙区比例代表並立制が導入されることになったが、衆議院小選挙区選出議員の選挙区の区割りに関しては、総理府(現内閣府)に衆議院議員選挙区画定審議会が置かれることになった(1994年4月設置)。同審議会は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関して調査審議し、必要がある場合は改定案を作成し、内閣総理大臣に勧告する。委員定数は7人で、任期は5年である。
[三橋良士明]
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…地方公共団体の議員に,その地域に住所を有することを必要な要件としたのは,地域的利害関係を代表することにねらいをおいたものと,思われる。
[選挙区]
代表を選出するための選挙の単位となる地域的区画を選挙区という(12条)。しかし,議員はその選挙区を代表するものではなく,全国民を代表するものであり,選挙区の選挙人と代表との間に強制的委任関係を有するものではない。…
※「選挙区」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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