翻訳|town gas
液化天然ガス(LNG)を主な原料としている。オーストラリアやマレーシアなどからタンカーで輸入し、沿岸部に建設されたタンクに貯蔵し、気化などの処理を経て製造。道路などの地下に網の目のように埋設された導管を通じて各家庭などに供給される。本来無臭のガスには、漏れたときに気付くよう臭いを付けている。メーター取り付け件数は全国で約3122万件(2021年3月末時点)。導管で供給する都市ガスのほかに、ボンベに詰めて各家庭などに運ぶLPガスも流通している。
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都市の家庭や工場における燃料として、主として配管網(パイプライン)を通じて供給されるガスのことをいう。日本ではガス事業法(昭和29年制定)によって認可されたガス事業者が供給している。当初は、石炭乾留によって得られるガス(石炭ガス)を用いており、都市ガスと石炭ガスは同義であったが、その後、石油系原料から製造されるガスや液化石油ガス(LPG)が増え、さらには天然ガスが主流となり、2010年(平成22)にはほぼ全量が天然ガスでまかなわれるまでになった。ガスはほかの燃料に比べて取扱いに便利で清潔であり、燃焼効率も高いので、現代の都市生活に欠かせないものになっている。
[富田 彰]
ガスを初めて実用化したのはイギリスのW・マードックで、自宅での照明に利用した。1812年には初めてのガス会社がロンドンで設立され、数年のうちにパリ、ボルティモアなど欧米各地でガス事業が開始された。19世紀なかばには、照明用としてのガス事業の基礎が確立した。しかし、1880年のアメリカのT・エジソンによる白熱電灯の発明、および1885年のドイツのR・W・ブンゼンによるブンゼンバーナーの開発を大きな契機として、ガスの用途が照明用から燃料用へと転換するようになった。
日本のガス事業は、1872年(明治5)横浜でガス灯が点灯されたのが始まりである。1874年には東京と神戸でガスの供給が始まり、1885年に東京瓦斯(ガス)が設立された。1910年代になって、日本においても照明用は電気がとってかわるようになった。また、第一次世界大戦時には石炭や鉄鋼材料などの騰貴による打撃を受け、第二次世界大戦では製造設備や供給設備の破損などにより供給量が大幅に減少したが、1950年(昭和25)ごろまでに復旧され、その後は順調な成長を続けている。
[富田 彰]
2011年(平成23)現在、日本のガス事業者数は209社であり、そのうち民営が8割強、公営が2割弱である。その事業規模には大きな差があり、東京瓦斯、大阪瓦斯、東邦瓦斯の大手3社で全販売量の7割を占めている。全需要家数は約2800万戸で、そのうち家庭用が9割を占めている。2010年に販売されたガスの量は、1立方メートル当り42メガジュール換算にして353億立方メートルで、1980年の3.8倍となっている。家庭用、商業用などの民生用と工業用に使われるガス量を比較すると、年ごとに工業用の比率が上昇しており、1980年に16%だったものが、2010年には50%となっている。家庭用より工業用のガス使用量のほうが多い欧米の構造に近づいているといえる。
[富田 彰]
第二次世界大戦後の原料変遷はめまぐるしく、石炭系から石油系、さらに天然ガスへと移り変わっている。当初は、石炭の乾留によってできる石炭ガス、あるいは水性ガス、発生炉ガスによるものが圧倒的に多かったが、これらの方法は固体の制御がむずかしく、粉塵(ふんじん)、タール、硫黄(いおう)分の排出、さらには、負荷変動への対応性の悪いことも問題となっていた。1952年には重油からのオイルガス製造が開始されたが、この方法も、タールの処理、ガス精製が必要となることから大きな進展はみられなかった。1960年代になると、よりクリーンで取り扱いやすいナフサを原料とするナフサガス、あるいはガス発生装置を必要としないLPGや石油精製工業の副生ガス(オフガスという)などの石油系ガスの比重が増え始めた。一方、1969年にアラスカから、1972年にブルネイから大量の液化天然ガス(LNG)が輸入されるようになり、これにより都市ガスの原料構成は大きく変化することになる。当初は、従来のガスバーナーをそのまま使えるように天然ガスを中カロリーのガスに変成して供給したが、東京瓦斯、大阪瓦斯などを中心として、1立方メートル当り46メガジュールの高カロリーガスを各家庭でも利用できるようにバーナーの転換を進めた。その結果、1980年代に入ると天然ガスの占める割合は50%を超え、2010年には都市ガスのほぼ全量が天然ガス由来のものになった。
[富田 彰]
石炭やナフサから都市ガスを製造していたときには、複雑な製造工程の設計・運転が必要とされたが、現在の都市ガスは天然ガスを原料としているので、製造工程は簡素化されたものとなっている。海外からLNGとして搬入されたものを気化させ、熱量を微調整した後、需要家に供給するだけでよい。気化する際には海水と熱交換するが、そのときの冷熱を利用するのにいろいろなくふうがされており、冷熱発電、空気分離、ドライアイス製造、冷凍倉庫への冷熱供給などが行われている。
[富田 彰]
LNGの運搬には専用タンカーを用いる。球形タンク方式とメンブレンタンク方式がある。後者では、薄いタンクが密閉と超低温を維持する機能だけを担い、圧力や重量の支持は船体が負担するが、前者ではすべての機能をタンクが受け持つ点で大きく異なっている。年々大型化が進み、2009年に建造されたものは26.6万立方メートルのタンク容量をもち、一度に30万トンを超えるLNGを輸送できる。
一般の都市ガスは、負荷変動に対応できるよう、かなりの容量のガスタンク(ガスホルダー)に貯蔵される。低圧ホルダーと高圧ホルダーがある。前者には、ガスのシールに水を用いた有水式ホルダーと、特殊鉱物油、合成ゴム膜などをシール材とした無水式ホルダーとがある。高圧ホルダーは球形または円筒形の耐圧容器で、最高2メガパスカルの圧力で貯蔵される。低圧ホルダーに比べて、小型で漏洩(ろうえい)がなく、建設費が安いなどの利点が多い。LNGの場合、LNGタンカーから受け入れたものを、低温に保って大気圧近傍で保存する。
LPGも、液化して可搬式耐圧容器(ボンベ)または貯槽に貯蔵するが、メタンが主成分の天然ガスと違い、沸点が高いプロパンやブタンが主成分なので、簡単な圧縮装置や冷却装置で液化できる。20℃では、プロパンは0.86メガパスカル、ブタンは0.21メガパスカルの加圧で液体になる。
[富田 彰]
都市ガスは、消費者がつねに一定の圧力で使用できるように供給されなければならない。製造所で製造されたガスは、高圧または中圧で送り出され、その後、ガスの圧力を調整するガバナーといわれる装置により中圧、低圧と徐々に圧力を下げて、消費者に届けられる。最終的にはゲージ圧で1.0~2.5キロパスカルの範囲に収められている。工業用などに大容量のガスを供給する場合は、中圧導管から直接供給することもある。ガスホルダーから消費者までは、鋳鉄、鋼などのガス導管によって輸送される。
[富田 彰]
天然ガスから製造される都市ガスのうち、もっとも流通量の多いのは13Aという規格のガスである。成分としては9割程度がメタンであり、残りはエタン、プロパン、ブタンなどの炭化水素ガスである。1立方メートル当り45メガジュールの発熱量をもつ。天然ガスの比重は1以下で空気より軽いため、漏洩した際にも拡散しやすい。プロパン、ブタンなどを主成分とするLPGは比重が大きく、漏洩した場合、低所に停滞しやすい性質をもつので、爆発の危険がある。上部の窓を開放しても容易に放散しないので注意が必要である。
[富田 彰]
都市ガスの毒性は日常生活に直接かかわるので重要である。以前に使用されていた石炭、ナフサ起源の都市ガスには一酸化炭素が含まれていたので、危険性が高かった。一酸化炭素を吸引すると、血液中のヘモグロビンと結合し、その酸素運搬能力を失わせる。中毒時には、新鮮な空気の所へ移し、安静と保温に努めねばならない。天然ガス由来の都市ガスには一酸化炭素は含まれていないので、ガス漏れによる一酸化炭素中毒はなくなった。しかし、酸素欠乏による不完全燃焼が原因で一酸化炭素を生成することがあるので、いまだにガス中毒はなくならない。なお、天然ガスは無臭なので、漏れた場合にも気がつくように無毒の付臭剤が加えてある。
一酸化炭素以外では、換気の不良による酸素欠乏および二酸化炭素増大による中毒症状もある。二酸化炭素は通常0.1%以下でなければならないが、4%で局所的刺激症状、8%で高度の呼吸困難となる。酸素は通常21%あるが、10%にまで低下すると呼吸困難となる。気密な住宅で生活する場合には、換気に十分注意し、場合によっては器具に排気筒をつけねばならない。
[富田 彰]
ガスの燃焼性は、構成するガスの組成、空気の量で決まる。理論空気量というのは、ガスの中の炭素分と水素分を、それぞれ二酸化炭素と水に完全酸化するのに必要な空気量のことである。実際には、理論量より過剰の空気を送り不完全燃焼を防ぐ。ガスが燃焼するには、十分な空気の供給が必要であるが、そのほか、一定の温度(着火温度)以上に保たれていなければならず、またガスと空気の混合物中のガス濃度もある範囲内でなければならない。13A規格の都市ガスの着火温度は500~550℃であり、燃焼が持続可能な燃料ガスの濃度範囲は4.6~14.6%である。燃焼範囲の上限と下限のことを燃焼限界という。爆発する条件もこれと同じであり、燃焼限界のことを爆発限界ともいう。
[富田 彰]
燃料ガスをバーナーで燃焼させる場合、完全燃焼して所定の熱を発生すること、バックファイア(バーナー内部でガスが燃える状態)やリフティング(バーナーの火口より離れた上部で燃える状態)といわれる不安定な炎をつくらないこと、赤熱度、炎の温度が適正であることなどが要求される。これらはガスの種類、バーナーの種類、空気の混合方法などによって決まる。ガスの種類が決まると、良好な燃焼状態が得られるバーナーの種類が決まってくる。都市ガスの発熱量を変更するとバーナーを交換しなければならないのはこのためである。
[富田 彰]
パイプラインによって供給され,家庭の暖房・厨房(ちゆうぼう)用,商業用,工業用の燃料として使われるガスをいう。
世界最初のガス事業は1812年にロンドンで始められたが,日本では72年に横浜で,続いて74年に東京と神戸でガス事業がおこった。当時の都市ガスは石炭乾留によって製造され,用途は照明用,動力用などであったが,やがて電気事業がおこり,電灯や電動機が普及して,ガスはもっぱら厨房,暖房などの燃料に用いられるようになった。しかし現在では,夏冬の需要変動が大きいことから,都市ガスを冷房,冷蔵庫などに使う工夫も行われている。またその製造法もしだいに変化し,1960年ころからは石油系原料が都市ガス製造に用いられるようになり,70年ころからは液化天然ガスが導入されるようになった。
→ガス事業
都市ガスには石炭,石油などを原料として製造されるガスと天然ガスがある。天然ガスは国産のものと海外から輸入されるものとがある。これらの種々のガスを単独で,あるいは数種類混合して,所定の発熱量を与えて都市ガスとする。都市ガスの発熱量は地域によって異なるが,パイプラインの輸送能力の向上のために,しだいに高発熱量の都市ガスが供給される傾向にある。表1に都市ガス用の各種ガスの成分および発熱量の例を示す。天然ガス以外のものにはかなりの一酸化炭素が含まれており,不完全燃焼によって生ずる一酸化炭素とともに,都市ガスによる中毒事故の原因となっている。都市ガスの漏洩(ろうえい)と不完全燃焼の防止には十分の注意が肝要であり,ゴム管の完全な取付け,古いゴム管の交換,室内の換気,ガスのつけっぱなしの防止などを心がける必要がある。
日本の都市ガスの製造に用いられる原料の内訳は表2のとおりである。これらの原料の都市ガスへの転換技術の概要を次に述べる。
石炭からの都市ガス製造法の主流は高温乾留であり,コークス炉を用いて行われる。この乾留ガスの組成は表1に示したとおり水素とメタン,一酸化炭素を主要な成分とする。このとき副生するコークスはおもに製鉄用に,ガス軽油やコールタールは化学薬品の生産に用いられる。
コークスを赤熱しておき水蒸気を作用させると水性ガスが得られる。その成分は水素と一酸化炭素が主であり,発熱量が低いので,石油を高温熱分解して得られる炭化水素系ガスを添加,混合して発熱量を高める。これを増熱水性ガスという。またコークスを不完全燃焼させて製造するガスを発生炉ガスという。コークスからの都市ガス製造は最近はごくわずかしか行われない。
石油からの都市ガス製造法は原料とする石油の留分によって技術内容が大きく異なる。ナフサを原料とするときは,ニッケル系触媒を用いる水蒸気改質が適用される。しかし重質な原油や重油などを原料とするときは触媒の使用が困難なので,熱分解を適用する。このガスはエタン,エチレン,プロパン,その他の炭化水素を含むので発熱量が高いのが特徴である。しかし重質石油留分のガス化は最近はあまり行われなくなった。
液化石油ガスあるいは液化天然ガスはこれを気化して単独に,あるいは前記の製造ガスと混合して都市ガスとして供給される。
ガスが安定な炎で完全燃焼するためには,必要かつ十分な空気が1次空気および2次空気として供給され,かつ混合,拡散しなければならない。ガスの燃焼器具はこのような要求を満足するよう設計されているが,都市ガスの燃焼性はその発熱量,燃焼速度,組成,比重などによって異なる。したがって,ガス器具はその地域に配給されている都市ガスの燃焼には適していても,他の都市ガスには不適当である場合がある。引越しなどの折にはガス器具の改造,買換えなどが必要となることもある。
執筆者:冨永 博夫
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
都市において,家庭を主体とする各需要者にガス導管を用いて供給される燃料ガス.日本では各種のガスを混合して供給するので,ガスの組成や比重などがかなり違うが,その発熱量や燃焼性には基準が設けられている.かつては石炭ガス,水性ガス,発生炉ガス,石油分解ガスなどを混合して製造していた.しかし,近年は輸入した液化天然ガス(LNG)を気化し,直接都市ガスとして供給することが一般化している.小規模な都市では液化石油ガス(LPG)が用いられる場合がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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