難病(読み)ナンビョウ

デジタル大辞泉 「難病」の意味・読み・例文・類語

なん‐びょう〔‐ビヤウ〕【難病】

治りにくい病気。→特定疾患
[補説]難病医療法では「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」と定義している。
[類語]業病死病悪疾

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精選版 日本国語大辞典 「難病」の意味・読み・例文・類語

なん‐びょう ‥ビャウ【難病】

〘名〙
① なおりにくい病気。治療の困難な病気。
※羅葡日辞書(1595)「Emergo〈略〉Nanbiǒ(ナンビャウ)、ナンギヲ ノガルル」
原因不明で治療方法が確立しておらず後遺症を残すおそれの多い疾患のうち、特に昭和四七年(一九七二)、研究調査の制度を政府が確立、その対象としたもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「難病」の意味・わかりやすい解説

難病 (なんびょう)

原因不明の神経病としてスモンの多発が社会問題となり,厚生省はスモンの研究体制を整備し,1972年に難病対策要綱を定め,難病対策として取り上げる疾病の範囲として,(1)原因不明,治療法未確立であり,かつ,後遺症を残すおそれの少なくない疾病,(2)経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家庭の負担が重く,また精神的にも負担の大きい疾病と定義した。難病対策は,(a)調査研究の推進,(b)医療機関の整備,(c)医療費の自己負担の解消を3本柱として総合的に推進するとした。

 95年に対策の見直しがはかられ,特定疾患の対象としてとりあげる疾患の範囲を,(1)希少性,(2)原因不明,(3)効果的な治療法が未確立,(4)生活面への長期にわたる支障(長期療養を必要とする)という4要素にもとづくこととし,これまでの対策の柱に,(d)〈地域における保健医療福祉の充実・連携〉,(e)〈QOL生活の質)の向上を目指した福祉施策の推進〉を追加して5本柱とした。5本柱の現在の内容は次の通り。

 (a)調査研究の推進 96年度に研究体制を再編成し,臨床調査研究グループ,横断的基盤研究グループを創設,研究評価体制の強化,若手研究者の育成強化等をはかることとし,また難病患者のQOLの大幅な改善につながる研究を重点的研究とした。(b)医療機関の整備 重症難病患者の受け入れ施設の確保のため,国立病院・療養所の受入れ体制の強化,病院と連携することによる身体障害者療養施設への受入れ,医療保険制度の診療報酬における支援措置を図る等とした。(c)医療費の自己負担の解消 特定疾患治療研究事業として医療保険の自己負担分を全額公費負担していたが,財政構造改革の推進に関する閣議決定により毎年度1割削減の対象にされた。96年度予算要求では,1割削減の一方,最初の72年度の4疾患(ベーチェット病重症筋無力症,全身性エリテマトーデススモン)から95年度37疾患に拡大されていた対象疾患にさらに1疾患を追加し,重症患者対策の強化として医療保険の枠を超える訪問看護を公費で実施するとしている。(d)地域における保健医療福祉の充実・連携 地域においては,保健所を難病対策事業の拠点とし,国全体に対しては,難病情報センターを設け,インターネットの活用を含め情報発信基地とするとした。(e)QOLの向上を目ざした福祉施策の推進 特定疾患,慢性関節リウマチを含め119疾患を対象に〈難病患者等居宅生活支援事業〉を97年1月より始めた。この事業は,前記の対象者に市町村が行うホームヘルパーの派遣,短期入所事業,日常生活用具給付事業への国庫補助,および都道府県等が行う難病患者等ホームヘルパー養成研修事業への国庫補助を内容としている。実際には,事業に着手している市町村が少なく,身体障害者手帳を有する者,18歳未満の者をも対象にするよう改善するとしている。難病医療に関する調査研究の成果として診療内容および療養環境改善等の向上に関する方法論は進歩したが,実際に地域ですべての患者にこの恩恵が及ぶにはまだ課題が多く残されている。
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百科事典マイペディア 「難病」の意味・わかりやすい解説

難病【なんびょう】

1972年厚生省が発表した難病対策要綱にあげられた,原因も治療法も医学的に確立していない病気で,かつ経過が慢性にわたり,経済的にも介護の上でも家族に負担の大きいもの。すなわち,ベーチェット病重症筋無力症全身性エリテマトーデススモン,多発性硬化症,筋萎縮性側索硬化症脊髄小脳変性症パーキンソン病アミロイドーシス,悪性関節リウマチ強皮症・皮膚筋炎・多発性筋炎,天疱瘡(てんほうそう),結節性多発性動脈周囲炎,大動脈炎症候群,ビュルガー病サルコイドーシス再生不良性貧血,特発性血小板減少性紫斑病,潰瘍(かいよう)性大腸炎,クローン病劇症肝炎など。
→関連項目生きがい療法肝炎筋萎縮症膠原病高度先進医療公費負担医療紫斑病高安病訪問看護ステーションもやもや病

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「難病」の意味・わかりやすい解説

難病
なんびょう
intractable disease

治療が困難で慢性の経過をたどる疾患を総称する一般用語だが、2015年(平成27)の「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)施行により、同法に基づいて338疾患(2021年11月時点)が指定難病とされた。また小児の難病に関しては、2005年の改正児童福祉法によって小児慢性特定疾病対策事業が始まり、16疾患群788疾病(2021年11月時点)が指定されている。行政的にはこれら二つが難病に位置づけられ、一般的な理解による難病とはかならずしも一致しない。また難病法施行以前、政府は原因不明で治療方法が確立されていない56疾患を特定疾患治療研究事業の「特定疾患」と位置づけ、医療費を助成していた。報道などでこれらを指定難病とよぶケースもあるが、厳密には行政的に位置づけられた難病とは異なる。

 難病法施行に際し、厚生労働省は難病の定義を、(1)発病の機構が不明、(2)治療法が未確立、(3)希少、(4)長期の療養が必要、の4条件を満たす疾患と整理し、さらに指定難病には、(5)患者数が国内人口の0.1%程度以下、(6)客観的な診断基準が成立している、という2条件を加えた。対象となる疾患は厚生労働省厚生科学審議会指定難病検討委員会で適宜検討され、開始当初の110から5度にわたって追加されてきた。

 一方、小児慢性特定疾病は、18歳未満の児童について(1)慢性に経過する、(2)生命を長期にわたり脅かす、(3)症状や治療が長期間生活の質を低下させる、(4)長期にわたり高額な医療費負担が続く、の4要件を満たす疾患を厚生労働省の審議会で検討して指定している。

[高野 聡 2023年10月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「難病」の意味・わかりやすい解説

難病
なんびょう

特定疾患治療研究事業対象疾患ともいう。原因が不明で,治療方法が確立されていない疾患をいう。難病患者は特に苦境に立たされるので,1972年に難病対策要綱が定められた。それによれば,行政対象となる難病の範囲は次の2つに分けられる。 (1) 原因不明で治療法が未確立であり,かつ後遺症を残すおそれの少くない疾病。 (2) 経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず,介護などに著しく人手を要するため,家庭の負担が重く,精神的にも負担の大きい疾病。寝たきり老人,癌など,すでに別個の対策の体系が存するものは除外される。現在,主として (1) の観点からベーチェット病などの特定疾患,主として (2) の観点から小児慢性特定疾患,進行性筋萎縮症,重症心身障害,腎不全 (人工透析) などが難病対策の対象とされ,これらに対して調査研究の推進,医療費負担の軽減,医療施設の整備などが行われている。厚生労働省では特定疾患という用語を使い,医療費の助成対象とする難病を定めているが,都道府県によっては,さらに,独自に対象疾患を加えているところもある。

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知恵蔵 「難病」の解説

難病

難病とは、(1)原因は不明で治療法が未確立であり、かつ後遺症を残すおそれが少なくない疾病、(2)経過が慢性にわたり、経済的な問題だけでなく介護などに人手を要するために家庭の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病。厚生労働省健康局疾病対策課が難病対策を行っている。調査研究の推進、医療費自己負担の解消、医療施設の整備など。2006年現在、特定疾患121中45疾患が医療費自己負担分を公費でまかなう対象になっている。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内の難病の言及

【アミロイド】より

…その臨床症状はきわめて多彩で,診断法としては,直腸生検によって組織内にアミロイドの沈着を確認するのが最も安全かつ診断率の高い方法とされている。確立された治療法はなく,難治性の疾患で,1975年には難病に指定され,厚生省特定疾患調査研究班が発足し,また79年には治療研究対象疾患として取り上げられ,その病態究明に努力がはらわれている。欧米に比べ日本では比較的まれな疾患である。…

※「難病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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