翻訳|bronze
ブロンズ,俗に唐金(からかね)ともいう。スズをおもな合金元素とする銅合金で,〈青銅器時代〉という年代の区分があることからもわかるように,人類が最も古くから使用した合金である。銅合金のなかには青銅と呼ばれる一連の合金があり,アルミニウム青銅などスズを含まないものにも青銅の名称が用いられるので,銅・スズ合金をとくにスズ青銅tin bronzeと呼んで区別することが多い。スズの含有量の少ないものは展伸材として使われるが,多くは鋳物として利用される。青銅鋳物は一般に硬くて耐摩耗性があり,耐食性もよいので,機械部品やバルブ類などに広く使われている。鉛を添加したスズ青銅鋳物は切削性がよく,また鉄との潤滑性に優れているため軸受材料とされる。脱酸などのために亜鉛2%程度を添加した,スズ約10%の青銅は砲金gun metalと呼ばれ,かつては大砲の鋳造に用いられた。現在でも軸受,パイプなどの鋳造に広く用いられている。リンを少量添加したリン青銅はスズが3~9%と少なめで,リンも0.03~0.35%程度の合金で,鋳物としても使われるが,展伸材として使われ,優れたばね材料。
→銅合金
執筆者:大久保 忠恒
青銅は,その展性,可鍛性,鋳造に適した溶融点の低さや流し込みの際の流動性などによって先史時代以来,各種の道具,貨幣,美術工芸品の最も一般的な金属素材となった。とくに,木彫,石彫とともに代表的な彫刻技法である塑造は,素材である粘土が耐久性をもたず,また素焼などの手法によってもモニュメンタルな制作には不適であるため,青銅が塑像を原型とする鋳造彫刻の最も代表的な材料となる。この青銅を用いた鋳造彫刻は,ブロンズ(英語で〈青銅〉の意)と称することが多い。スズの含有量の低い場合は柔らかく展性があり,含有量が高ければ硬度も高まる。粘土による塑像,セッコウ原型の制作,次に鋳造用砂型制作,鋳造が通常の順序であるが,ギリシア彫刻のアルカイク時代,クラシック(古典)時代初期には,木彫原型から鋳型が制作された。完成されたブロンズに,塑像の柔軟な造形とは異なる鋭角的な稜や刻線がみられるのもそのためである。小工芸品の場合は像全体がブロンズの実体として鋳造されるが,ある程度以上の大きさをもつ彫刻では,鋳造品の内側を中空にする(すなわち,鋳型の外型の内部に中子(なかご)をつくる)。いうまでもなく前者の技法が先で,後者は,より大きな作品の制作を容易にし,あるいはブロンズ収縮の際のひび割れなどを防ぐために発達した技法である。この彫刻の内部を中空にする手法には,蠟型法lost wax(フランス語で)cire-perdueと砂型法sand castingがある。また大彫刻制作の際には,頭部,胴部,腕脚部などを別個に鋳造し,それらをつなぎ合わせる方法が用いられ,より自由な表現を可能にした。鋳造後は,のみやたがねによって仕上げるが,ロマン派彫刻以降は,むしろ塑像の肌合いを残すことが好まれる。鋳造後のブロンズは冷却の際に若干の収縮を生じ,中空の鋳型の場合には,ひび割れなどの損傷は少ないが,原型に比べて若干小さくなる。ブロンズの色合いは地金の性質によって異なり,アンモニアの塗布その他の方法で,青銅色や茶褐色,あるいは瀝青による黒色などが色付けされる。また年月を経ると,通常は銅が大気中の炭酸ガスと結合して緑青を生じる(この被膜がブロンズ保護の役割も果たす)。人工の色付け,自然の緑青,ともにパティナpatinaと呼ぶ。
ブロンズ鋳造法の起源は明らかではないが,すでに前4千年紀末のオリエントに始まったと考えられ,メソポタミア,アナトリア,パレスティナ,エジプト,地中海東部地域に広く伝播している。石あるいは木を主要な彫刻素材としたエジプトでは,小工芸品以外に青銅の使用は少ない。それに対してメソポタミアには,《ナピル・アスの像》(ルーブル美術館)のように重さ1800kgの像の鋳造例をみる。ギリシア彫刻では,前述のように木彫,石彫を原型とする鋳造が初期になされたが,クラシック時代以降,塑像を原型とするブロンズは,《デルフォイの御者》(デルフォイ美術館),《ゼウス像》(アテネ考古学博物館)など,多くの優れた作品を生み,写実性,運動表現などの点でギリシア彫刻の発展に寄与した。これらのブロンズは鍍金,あるいは他の金属の象嵌(ぞうがん)で彩られ,目は練物あるいは貴石類が嵌入されるのが普通であった。エトルリア,ローマ美術でもブロンズは多用されている。中世には燭台,香炉など祭儀用のブロンズが制作され,ムーズ(マース)川沿岸のディナンなどに著名な鋳造工場があったが,モニュメンタルな人像表現はルネサンス期までほとんどみられない。ルネサンス期の古典再生への熱情と人間復興は,ドナテロの《ダビデ》などの傑作を生み,ブロンズの再生を促した。しかし,ブロンズが他の素材に増して愛好されたのは,ロマン派以降,とりわけ19世紀後半から20世紀初めのロダン,マイヨール,ブールデルたちの時代である。近代的な感性の表現に塑像-ブロンズの技法が適したこと,またセッコウ原型を用いる場合,数点以上の写し(それらはいずれもオリジナルとみなされる)を制作することが可能であることが,その理由であろう。
→金銅仏 →鋳金
執筆者:中山 公男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
二義があり、一つは銅にスズを主要合金元素として加えた銅合金のこと。一つは広く銅合金の代名詞である。後者は人類の使った銅合金のなかでは青銅が最古のもので、数千年の歴史をもち、次の黄銅が現れるまでの2000年から3000年の間、これが唯一の銅合金であったためで、英語のbronzeも同じ意味に使われる。たとえばアルミ青銅aluminium bronzeがその好例であり、銅‐アルミ合金でスズはまったく入っていない。この呼称法は20世紀前半まで使われたが、その最後であったベリリウム青銅(銅とベリリウムの合金で、やはりスズは普通加えない)を第二次世界大戦後ベリリウム銅、英語でもberyllium copperといいかえたのを契機に、その後の新しい銅合金はチタン銅、ジルコニウム銅、クロム銅のように主要合金元素名に銅をつけてよぶようになっている。
第一の使い方の本来の青銅は、太古には銅とスズの鉱石の混在している山の山火事で、熱と森林の燃えてできた炭素によって同時還元された両金属が合金化した自然合金として得られ、鉄より耐食性がよく、ある程度硬いために工具や鏃(やじり)や刃物に使われたと思われる。やがて人類は、この自然合金が銅とスズからなることを知り、それぞれの鉱石を別々に還元して得た銅とスズの地金を配合して、用途に応じて種々のスズ%のものをつくった。この用途と組成の関係を6種に分けて表示したのが中国周代の「金の六斉」である。
銅に順次スズを加えていくと、3%までは銅の赤みが残るが順次黄色くなり、20%を超すと灰青色になる。青銅の青はこれからきたと思われる。銅中にスズの溶解する最大量は約14%で、強さはスズ17~18%で最高となるが、変形能力の伸びはスズ3~4%がもっとも大きい。12~32%のスズの合金は共析変態があるので、焼入れ・焼戻しの熱処理により相当強化する。昔は10%スズ程度の青銅の鋳物で大砲をつくったので、砲金gun metalという別名があり、喫煙用のきせるの雁首(がんくび)や口金にも使われた。スズの3~8%に少量の亜鉛を加えると変形力に富んで刻印しやすいので青銅貨に使われる。
銅‐スズ合金にさらに別元素を加えた本来の意味の青銅系合金のなかではリン青銅が代表的なもので、パッキング、板ばね材に使われる。軸受用の青銅は十数%スズを加えて硬いγ(ガンマ)相を出し、美術用は亜鉛、鉛を加えて鋳造性をよくしている。
[三島良續]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
銅とスズからなるCu-Sn合金,およびスズの一部をほかの金属元素で置き換えたCu-8~10質量% Sn-2~4質量% Zn,Cu-5~6質量% Sn-5~6質量% Zn-2~5質量% Pb合金を総称して青銅という.また,このほかにリンを加えたリン青銅(Cu-Sn-P合金),ニッケルを加えたニッケル青銅(Cu-Sn-Ni合金)などがある.スズを含有しなくても,銅にアルミニウム,ベリリウム,そのほかの元素を加えた合金でもアルミニウム青銅,ベリリウム青銅などとよんでいるが,単に青銅というと,上記のCu-Sn系を主体としたスズ青銅をさす.スズ青銅は銅,黄銅に比べて鋳物をつくりやすく,耐食性が大きいので,バルブ,コック,機械器具の部品,兵器,軸受などの工業製品をはじめ,貨幣,ぼん鐘,美術品,銅像,日用品などに広く使用される.この合金系の機械的性質は,引張強さ26~32 kg mm-2,伸び47~54%,ブリネル硬さ60~70である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…人類が金属の使用を開始した時期は非常に古く,前5000年ころのエジプトですでに金と銅の使用が知られている。金属のうち金,銀,銅,隕鉄は最も早くから人類が採取した自然金属で,はじめは天然の状態のものを打ったり切ったりして使用していたが,やがて冶金技術が発達すると同時に鋳造技術もおこり,銅,錫(すず),鉛,アンチモンなどが鉱石から採取されるようになり,青銅,白銅など銅合金が作られるようになった。青銅はメソポタミアでは前3000年ころ,中国では前2000年ころにすでに行われており,武器,祭器,装身具などが作られた。…
…エジプトでは前5千年紀のバダーリ文化の遺跡から装身具用の留針やビーズなどが出土している。しかし前3千年紀には青銅の鋳造技術が高いレベルに達し,彫刻や,より複雑な形の鋳造に蠟型鋳造lost waxも考案されていた。サルゴンをあらわしたとされるニネベ出土の青銅の頭部(前2250年ころ)は当時の高い技術を示す好例である。…
…銅は多くの金属と合金をつくる。銅‐スズ合金(青銅),銅‐亜鉛合金(シンチュウ)はとくに有名である。
[製法]
粗鉱中の銅の含有量が0.9%以上のものが製錬の対象となる経済的な限度であり,それ以下のものは鉱石とはなりえない。…
…われわれが日常見る銅製品は黒く汚れたようにさびていることがあるが,適当な方法で磨けば美しい光沢と色調を示す。また,古くから伝わった青銅製品には風化作用によって風格のある緑色を示すものがあるが,これはロクショウ(緑青)といい,主として炭酸塩,酸化物からなる複雑な化合物である。 銅合金の種類はきわめて多く,アメリカのCDA(Copper Development Association)では表に示す3けたの数字で成分によって分類している。…
※「青銅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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