高齢者の運転事故問題(読み)こうれいしゃのうんてんじこもんだい

知恵蔵 「高齢者の運転事故問題」の解説

高齢者の運転事故問題

高齢運転者(65歳以上)による交通事故を巡る諸問題。交通死亡事故の総件数は減少傾向にあるが、高齢運転者が関与した事故が占める割合は増加傾向にある。過去10年間を見ても、高齢運転者が「第1当事者」(過失が重い者)となった死亡事故の割合は、約18.0%(2006年)から約28.4%(16年)へと大幅に増加している(警察庁発表)。認知機能の低下が原因と見られる重大事故も頻発しているため、高齢者に運転免許証自主返納を促す動きが高まっている。また最近は、免許返納の義務化を求める声も出ている。
自主返納については、02年に「運転経歴証明書制度」が導入され、運転免許証を自主返納した際、身分証明書役割を持つ運転経歴証明書が交付されることになった。免許更新についても、09年に道路交通法が改正され、70歳以上の運転者には更新時の運転講習が義務付けられ、75歳以上の運転者には認知機能検査も義務付けられた。更に17年3月に公布される改正道路交通法では、信号無視、指定場所一時不停止をするといった違反を犯し、認知機能低下の疑いがもたれた75歳以上の運転者には、専門医の診断が義務付けられるなど、認知症対策が強化されることになった。認知症と判定されれば、免許の取り消し・停止処分となる。
他方、高齢者事故の割合が増加しているのは、母数である高齢者の人口が増加しているからであり、老齢人口当たりの高齢者事故の割合は増えていないという分析がある。免許保有者10万人当たりの死亡事故件数も、16~24歳の運転者が65歳以上の運転者を上回っており、高齢者の方が安全運転を心がけているという声も強い(ただし、75歳以上は若年層を上回る)。免許返納に関しても、運転が高齢者の認知症予防の一助になっている、生きがいになっているという高齢社会のジレンマがある。とりわけ公共交通の衰退が著しい地方では、以前に増して自家用車の役割が高まっているという現実もあり、自主返納を促す際の大きな障壁になっている。

(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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