エスノナショナリズム(読み)えすのなしょなりずむ(その他表記)ethnonationalism

知恵蔵 「エスノナショナリズム」の解説

エスノナショナリズム

共通の言語・文化・生活様式をもつエスニック(民族)集団が、自らの手で独立国家を建設しようとする考え。とりわけ冷戦終結から今世紀にかけてエスノナショナリズムの台頭は著しく、1990年代初頭の旧ユーゴスラビア連邦の解体、2002年のインドネシアからの東ティモール独立などをもたらした。最近では、ロシア連邦のチェチェン共和国、中国の新疆ウイグル・チベット両自治区などで、その高揚による独立の動きが拡大しているが、いずれもイスラム教やラマ(チベット仏教)などの宗教によって結びついている点が特徴的である。 かつて19世紀の西欧世界は、優勝劣敗論理にもとづく社会ダーウィニズムの思想が支配的であった。これは白人が劣った他民族を支配するという考えに正当性を与え、やがてナチズムの台頭を促すことになった。国際社会はその反省のもと、行き過ぎた自民族中心主義や進歩主義の論理を否定し、各民族がもつ多様な文化の価値を互いに尊重し合おうとする文化相対主義を確認するようになったのである。その後、こうした異文化尊重の思想は民族自決を求めるエスノナショナリズムの動きを後押しすることになった。しかし過剰なエスノナショナリズムは、一部イスラム過激派によるテロ行為に見られるように、しばしば他民族との共存を拒否する排他的なエスノセントリズム(自民族中心主義)に結びついてしまう。また、シオニズムによるイスラエル建国がパレスチナ紛争を引き起こし、国際社会がいまだ有効な解決策を見いだせていないように、エスノナショナリズムの結実がときに国際秩序安定の障壁になることも否定できない。

(大迫秀樹 フリー編集者 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内のエスノナショナリズムの言及

【インターネット】より

…確かに,EUに代表される,国民-国家を包括し,それを相対化する共同体が,構築されてもいる。だが,よりいっそう顕著な政治運動は,国民-国家をさらにいっそう小さな政治的単位にまで分解しかねない,エスノ・ナショナリズムの嵐である。19世紀以来の伝統的なナショナリズムは,民族(人民)を国民化したが,20世紀末のナショナリズムは,逆に国民を民族化し,ときに統合されていた国民を多数の民族へと分解しようとする傾向を強化しつつあるのだ。…

※「エスノナショナリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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