エンジェル投資家(読み)えんじぇるとうしか(英語表記)Angel investor

知恵蔵 「エンジェル投資家」の解説

エンジェル投資家

創業間もない企業に、非常に高いリスクを顧みず、資金を提供する個人投資家。欧米演劇界米国の映画業界などで、事業を個人的に支援する資産家をエンジェルと称したことに由来する。シリコンバレーの有力企業も、かつては零細な事業としてスタートした企業も多く、エンジェル投資家がこれらを支えていたとされる。ただし、近年ひろがりを見せるクラウドファンディングでの小口の投資についても、「エンジェル投資」と称することがある。
一般の企業は、金融市場や株式市場などから資金を調達して事業を展開する。しかし、新規にビジネスを始める者の多くは、融資を受ける信用に乏しく株式も上場していない。このため、資金調達方途は限定的で、自身の資産を処分したり知人からの貸与を受けたりして起業する。将来の成長が見込まれるベンチャー企業ならばベンチャーキャピタルなどからの投資も見込まれる。しかし、それはハイリスクであっても本格的なハイリターンを求めるものであり、投資額は通常100万ドル単位となり事業計画について相当に厳格な審査が行われる。したがって、「ガレージ起業」やその延長のような企業は投資の対象にはならない。また、現在であれば、インターネットで不特定多数から資金を募集するクラウドファンディングなどの方法もあるが、この仕組みや法制度は近年まで整っていなかった。現在でも、その投資の見返りとして魅力的な製品やサービスを出資者に提供できる業態以外ではクラウドファンディングで資金を集めるのは容易ではない。そのため、「ガレージ起業」から本格的なベンチャー企業へとステップアップする過渡期ステージにある事業に資金を提供するのがエンジェル投資家である。リスクが非常に高く確実な収益を期待することはできないため、機関投資家ではなく富裕な資産家が個人で、主たる資産運用以外の余業などとして投資することが多い。このため、投資先の先見性や独創性を見込んでの篤志的な側面が強いが、投資先企業の株式公開や大手企業からの買収などにより、短期に大きな収益を求める傾向もある。
日本では1997年の税制改正で、ベンチャー投資を促すために個人投資家のキャピタルロスを救済する「エンジェル税制」が創設された。しかしながら、制度を利用する投資家と企業はほとんどなく低迷、度々の改正で優遇措置追加や適用範囲拡大を経て改善の傾向にあるが、2016年度で制度利用企業数87件、投資額約34億円にとどまっている。エンジェル投資の規模は定義のとり方で異なるが、経済産業省の委託調査によれば13年の米国のエンジェル投資家は約30万人、年間投資額は約300億ドルで、ベンチャーキャピタル投資額に迫る勢い。ほぼ同時期の日本は多くても同約1万人、200億円程度に過ぎないと試算されている。なお、不特定多数のエンジェル投資家を募ることは、米国でも12年までは禁止されていたが、オバマ政権の「雇用創出法(JOBS法)」で、未公開企業が一般市民から資金募集することが可能になった。この結果、エンジェル投資家と起業家を結びつけるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のようなしくみのエンジェルリスト(Angel List)ができ、エンジェル投資が活況を見せている。ただし、不正防止や投資家保護のあり方などについて、今後の検討課題は少なくない。

(金谷俊秀 ライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エンジェル投資家」の意味・わかりやすい解説

エンジェル投資家
えんじぇるとうしか

ビジネス・エンジェル

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