世界大百科事典(旧版)内のスタロビンスキ,J.の言及
【ソシュール】より
…そのインパクトは言語学にとどまらず,文化人類学(レビ・ストロース),哲学(メルロー・ポンティ),文学(R.バルト),精神分析学(J.ラカン)といったさまざまな分野において継承発展され,20世紀人間諸科学の方法論とエピステモロジーにおける〈実体概念から関係概念へ〉というパラダイム変換を用意した。また,1955年以降,ゴデルR.Godelによって発見された未刊手稿や講義録(Les sources manuscrites du Cours de linguistique générale,1957)のおかげで,それまでのソシュール像は大きく修正され,さらにエングラーR.Englerの精緻なテキスト・クリティークによる校定版(Cours de linguistique générale,edition critique,1967‐68,1974),スタロビンスキJ.Starobinskiのアナグラム資料(Les mots sous les mots:Les anagramme de F.de Saussure,1971)によれば,ソシュールの理論的実践分野は,一般言語学と記号学sémiologieの2領域に大別することができる。
[一般言語学]
弱冠21歳で発表した《インド・ヨーロッパ諸語における母音の原初体系に関する覚書Mémoire sur le système primitif des voyelles dans les langues indo‐européennes》(1878)は少壮(青年)文法学派の業績の一つと考えられていたが,これはすでに従来の歴史言語学への批判の書であり,その関係論的視座は1894年ころまでに完成したと思われる一般言語学理論と通底するものであった。…
【見世物】より
…ドーミエ,ロートレック,ルオー,ピカソ,シャガールといった画家たち,ゴーティエ,ボードレール,ウェーデキント,ヘンリー・ミラーといった作家たち,またメイエルホリド,エイゼンシテイン,チャップリン,トッド・ブラウニング,フェリーニといった映画・演劇人などその例は枚挙にいとまがない。ソシュールのアナグラム資料の研究でも知られるスイスの文芸理論家ジャン・スタロビンスキ(スタロバンスキー)は,《軽業師としての芸術家の肖像(道化のような芸術家の肖像)》(1970)という象徴的な題をもつ本のなかで,そういった芸術家たちの関心の特質をみごとに分析してみせたが,それは〈近代〉という功利性の網の目におおわれた実務的世界にあって,芸術家はどのような場にわが身を解き放つことにより,真に統合的な世界を樹立することができるのかという,尖鋭な芸術論であった。われわれは今,〈近代化〉という事態が,果たして見世物などという卑俗で無用なものを振り捨てただけであったのかどうか,再考の必要に迫られている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」