世界大百科事典(旧版)内のちくらの言及
【筑羅が沖】より
…そこでは異界の者との闘争などが起こるのが普通で,たとえば幸若舞の《大織冠(たいしよかん)》では人と修羅とが戦い,《百合若大臣(ゆりわかだいじん)》では魔界の者のような蒙古(むくり)軍と戦うことになっており,《浄瑠璃物語》ではやや文芸化され,唐土の猿と日本の猿とが争ったとされる。この地は,江戸時代から,朝鮮と対馬との間にある巨済島の古称であろうとか,薩南の列島吐噶喇(とから)の転訛したものであろうなどとの説もあるが,唐土が民衆の間で〈とこよ(常世)〉と習合して考えられていた(折口信夫説)らしいふしがあり,民間の神楽や祭文(さいもん)の台本にも,神の世界と人の世界との境界をあらわす地名があらわれることからすると,〈ちくらが沖〉も,こういった境界を象徴的に示し,そこでは神的なものとの交流・闘争など両義的な意味を持つ事件が起こるものと考えられる。このような神話的象徴的な意味が忘れられると,〈ちくらが沖〉はおとぎ話風の単なる架空の地名と考えられ,江戸時代後期になると,虚言を〈ちくら〉といい,にせ儒者を〈ちくら儒者〉というようになり,一方,現実的な中国と日本との国境をさす語と考えられて,〈ちくら言葉〉〈ちくら者〉など日本・中国のどちらともつかない場合などに用いられるようになる。…
※「ちくら」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」