バルトリン腺炎(読み)バルトリンせんえん(その他表記)Bartholinitis

六訂版 家庭医学大全科 「バルトリン腺炎」の解説

バルトリン腺炎
バルトリンせんえん
Bartholinitis
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 バルトリン腺は、大前庭腺(だいぜんていせん)とも呼ばれるエンドウ豆大の分泌腺で、腟前庭後部に位置します。その排泄管(はいせつかん)は約2㎝で、処女膜の外側の腟口に開口します。バルトリン腺はその位置から、細菌による炎症を繰り返しやすいところです。

 バルトリン腺炎は性活動との関連が深く、性成熟期女性の各年齢層に多く発症します。起炎菌は、近年では淋菌(りんきん)によることは少なく、ブドウ球菌連鎖球菌(れんさきゅうきん)、大腸菌をはじめとして、好気性菌(こうきせいきん)嫌気性菌(けんきせいきん)、これらの混合感染によることが多くみられます。カンジダトリコモナスクラミジアが感染することもあります。

 バルトリン腺炎は急性型と慢性型に分類され、前者にバルトリン腺炎とバルトリン腺膿瘍(のうよう)が、後者にバルトリン腺嚢胞(のうほう)が含まれます。

症状の現れ方

①急性バルトリン腺炎

 まず、排泄管に炎症が起こり、開口部が赤くはれて痛みを感じます。さらに、炎症が深部に及んで、排泄管開口部がふさがると、うみが排泄管内にたまって膿瘍バルトリン腺膿瘍)を形成します。膿瘍は外側に膨隆(ぼうりゅう)し(ふくらみ)、腫瘤(しゅりゅう)として触れるようになります。

 炎症が進行して腺に及ぶと、はれ、痛みが強くなります。とくに座った時、歩行した時に強い痛みを感じます。この時、腫瘤部分より膿性の分泌物を認めることがあります。その他、外陰部違和感、発赤、熱感などを自覚します。

 通常は片側に発症しますが、両側の場合は淋菌による病気を考える必要があります。

②慢性バルトリン腺炎

 慢性バルトリン腺炎であるバルトリン腺嚢胞は、急性期を過ぎて慢性型に移行したものや、最初から慢性の経過をとるものがあります。

 嚢胞の多くは、炎症の消失後や炎症を繰り返すことによって、排泄管に分泌物がたまって形成されます。このほかに、分娩時の会陰切開(えいんせっかい)会陰裂傷(えいんれっしょう)の縫合時に、排泄管を結紮(けっさつ)(しばる)することによって起こるものもあります。嚢胞は、大陰唇(だいいんしん)後方皮下腫脹(しゅちょう)した腺体や、拡大した排泄管が触知されます。

 症状は軽く、歩行時や性交時の違和感程度です。

検査と診断

 診断は、症状と触診でほぼ可能です。補助診断として、CT、MRI検査を行うこともあります。また起炎菌を検索するため、必ず細菌培養検査を行います。

 視診では、分泌物の性状をみます。触診では、腫瘤の性状や、圧痛などの炎症所見をみます。これによって、バルトリン腺炎、膿瘍、または嚢胞の区別がつきます。

 区別すべき病気には、線維腫(せんいしゅ)脂肪腫(しぼうしゅ)などの良性のものやバルトリン腺がんなどの悪性腫瘍があります。このため、細胞診や病理組織検査が必要になることもあります。

治療の方法

 急性型の炎症では抗生剤の投与を行います。抗生剤は、起炎菌に適合したものを選ぶべきですが、菌の特定に日数を要する時には、一般的な起炎菌に適合するものを選択します。ペニシリン系、セフェム系、ニューキノロン系などの薬剤が使われます。

 膿瘍を形成した場合や、慢性型の嚢胞に対しては手術療法を行います。

①切開、ドレナージ(排液)

 切開は縦切開で十分な長さに行い、ドレーン(排液のための管)を挿入します。ただし、一時的に症状が消失しても、創縁(そうえん)癒合(ゆごう)して再発することが多くみられます。

造袋術(ぞうたいじゅつ)

 バルトリン腺の生理的分泌機能を温存することが可能で、性行為を行う患者さんには有効です。小陰唇(しょういんしん)の内側を切開してうみを出したあと、切開部を開いたままの形で縫合し、開口部にする方法です。簡単な手術で効果的ですが、再発することもあります。

③摘出術

 再発を繰り返す場合や造袋術が不成功になった場合に行います。出血しやすいなど、手術は必ずしも簡単とはいえません。再発はありませんが、分泌機能がなくなるため、性交障害が起こることがあります。

病気に気づいたらどうする

 外陰部に痛み、熱感を感じた場合や、腫瘤を触れたり違和感を感じた場合は、産婦人科を受診し、適切な診断および治療を受けることが必要です。

藤原 敏博


バルトリン腺炎
バルトリンせんえん
Bartholinitis
(感染症)

どんな感染症か

 バルトリン腺は、腟の入口の後方に位置する左右一対の腺で、性行為を滑らかにするための液を分泌しています。その排泄管の長さは約2㎝で、処女膜の側方に開口しています。この腺に、ブドウ球菌、淋菌(りんきん)、バクテロイデス、クラミジア・トラコマチスなどが感染して炎症を起こす病気です。

症状の現れ方

 急性期には排泄管に炎症が起こり、開口部が発赤してはれ、痛みが現れます。炎症によって排泄口が閉鎖されると、うみが排泄管内にたまって、圧痛(押すと痛い)のある膿瘍(のうよう)になります(バルトリン腺膿瘍)。

 この膿瘍は、小陰唇後方の4時または7時の位置にでき、触るとわかります。急性期を過ぎると慢性化します。

 また、最初から急性期がないまま、排泄管の閉鎖によって分泌液がたまり、小指から親指の先くらいの大きさの嚢胞(のうほう)ができることがあります(バルトリン腺嚢胞)。この場合は、歩行や性交時の軽い痛み程度で、自発痛(何もしていないのに感じる痛み)や圧痛はあまりありません。

検査と診断

 圧痛のある腫瘤(しゅりゅう)(はれもの)の位置で診断はできますが、たまっているうみや内容液を培養して原因となっている菌を特定します。

治療の方法

 急性期では、抗生物質の全身投与、局所の湿布で治ります。膿瘍を形成した場合は、切開してうみを出します。

 慢性化して嚢胞ができた場合は、排泄口をつくる手術を行いますが、再発を繰り返す場合は、バルトリン腺嚢胞摘出術も行われます。

病気に気づいたらどうする

 腟の入口のところに腫瘤があり、押すと痛むようなら産婦人科を受診してください。圧痛がなくても時々痛くなったり、外陰部に違和感がある時は手術をしておいたほうがよいでしょう。

川名 尚

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

世界大百科事典(旧版)内のバルトリン腺炎の言及

【バルトリン腺】より

…導管は左右1本ずつあり,小陰唇の内側部で腟口との境にあるくぼみで,腟前庭に開いている。【藤田 尚男】
[バルトリン腺の病気]
 急性バルトリン腺炎は以前は淋菌によるものが多いとされていたが,最近はブドウ球菌,連鎖球菌,大腸菌,トリコモナスなどによって起こるものが多い。性成熟女性,ことに既婚者に多い。…

※「バルトリン腺炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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