世界大百科事典(旧版)内のピカレスクの言及
【小説】より
…ボッカッチョの《デカメロン》は代表的な物語集で,別荘に集まった男女がそれぞれ物語をするという枠物語の形式により,多くのファブリオーやノベラ,さらに宗教的教訓談やロマンス的恋愛物語を集めている。16世紀スペインに発生したピカレスク(悪者小説)はさらに写実的で一貫性をもち,狡猾(こうかつ)な小悪党の一代記の形で社会の種々相を描いている。その影響は17~18世紀のイギリス,フランス,ドイツ文学に及び,また現代小説にもピカレスク的遍歴の主題の復活が見られる。…
【ネオ・ピカレスク小説】より
…一貫した筋はなく,挿話の連続で,主人公の性格上の発展や精神的成長はない。18世紀に消滅していたと思われたピカレスク小説(悪者小説)の復活のように考えられるが,例えばI.マードックの《網の中》(1954)に見られるように,人間実存についての哲学的な思索が,一見支離滅裂な物語を深部で支えているなど,作者の知性が作品にあふれているあたりに,〈ネオ(新)〉という言葉が冠されている理由がある。20世紀心理小説が直面した行詰りを解決する一つの道として,行動性と滑稽と活力にあふれた小説が登場したのである。…
【旅行記】より
…日本に足を踏み入れたことのないJ.スウィフトが,《ガリバー旅行記》(1726)という完全な創作の中で日本見聞記を書くことができたのも,ある程度の日本についての知識が広まっていたからであろう。 東西への航海によって世界の富を集めていた16世紀のスペインに,一般社会から疎外された〈ピカロ〉(〈悪漢〉の意)の放浪の旅を語る〈ピカレスク小説(悪者小説)〉が流行し,これが1世紀ほどのうちにフランス,イギリス,ドイツに伝わり各国で傑作を生み出した。もちろんこれは創作で事実談ではないが,すでに述べたように当時の作者も読者もフィクションとノンフィクションの差に目くじらを立てることはなかったし,小説の中へ作者が実体験を豊富に盛り込むことはいつの時代でもあることである。…
【悪者小説】より
…16,17世紀のスペインで流行した〈悪者〉ピカロpicaroを主人公とする小説の様式で,その後のヨーロッパ・リアリズム小説に大きな影響を与えた。悪漢小説,ピカレスク小説,あるいはピカレスク・ロマンという呼称も一般化している。〈ピカロ〉の語源は諸説あっていまだ定説はない。…
※「ピカレスク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」