胎芽病(読み)たいがびょう(英語表記)Embryopathy

六訂版 家庭医学大全科 「胎芽病」の解説

胎芽病
たいがびょう
Embryopathy
(遺伝的要因による疾患)

 いろいろな臓器の基になる胎芽は発生の初期に1個の細胞から分化します。胎芽ができ上がるまでの期間は外からの影響を受けやすいことがわかっています。

 たとえば、妊娠3カ月までに風疹(ふうしん)にかかると、胎児白内障(はくないしょう)先天性心疾患難聴(なんちょう)を伴った障害が出ることがあります(風疹症候群)。ところが妊娠5カ月ころに風疹にかかると眼の症状は出ません。また、妊娠7~8カ月に感染すると難聴の症状しか出ません。

 眼の胎芽は3カ月ころ、心臓の胎芽は5カ月ころ、聴覚器官の胎芽は9カ月ころに完成し、胎芽が完成すると風疹ウイルスの影響を受けにくくなるのが原因です。

影響を与える環境とは

 胎芽の形成に影響を与える環境としては、放射線、化学物質ウイルスが代表的です。放射線が原因の胎芽病としては小頭症(しょうとうしょう)がよく知られていますが、比較的低線量の被曝でも発達遅滞の原因になるという警告があるので、妊娠中の被曝には十分注意することが大切です。

 胎芽病の原因になる化学物質としてはサリドマイドがよく知られています。ミノアレビアチンなどてんかん治療薬のなかにも胎芽病を起こすものがあります。インターネットなどで催奇形薬(さいきけいやく)の情報が得られますが、妊娠中の服薬については産婦人科主治医とよく相談することが大切です。

 胎芽病の原因になるウイルスとしては風疹サイトメガロウイルスがよく知られています。ウイルス感染は抗体検査で確認できますが、障害の発生とウイルス感染の因果関係がはっきりしない場合もめずらしくありません。

心配しすぎないこと

 遺伝子異常や染色体異常も結果的には胎芽形成の異常により症状を現すので、胎芽病と臨床的に区別することが困難な場合があります。

 妊娠初期に放射線、薬の服用、ウイルス感染に注意することは大切ですが、あまり心配しすぎるとかえって胎児に悪い影響を与えるかもしれません。一人で悩まず、産婦人科医や臨床遺伝専門医とよく相談してください。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

世界大百科事典(旧版)内の胎芽病の言及

【出生前小児科学】より

…個体発生を受精以前の遺伝子,配偶子の段階から考えることにより,疾患発生の時間的経過が整理され,疾患の本質が理解される。すなわち,(1)遺伝子病,(2)配偶子病(染色体異常),(3)胎芽病,(4)胎児病である。遺伝子病は,両親に顕在または潜在する遺伝子の異常(欠損,変異)が児に伝達され,病的な症状を示すものをいう。…

【小児医学】より


[小児科の他科との関係,特質]
 小児科は歴史的にみれば,19世紀後半に内科から分科してきたものであるが,現在その対象とする領域は著しく広い範囲となり,多くの他の診療科と深い関係をもっている。小児の疾患のなかにはその原因が,遺伝子の異常によるもの(遺伝子病),染色体の異常によるもの(染色体異常,配偶子病),胎芽期すなわち器官形成が完了する妊娠3ヵ月までの時期の異常によるもの(胎芽病)など,出生する前にすでに病気が始まっているものがあるので,産婦人科領域とも関係が深い。そこで,出産前後の母子の健康や疾病については,周産期医学としてまとめられる傾向がある。…

※「胎芽病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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