世界大百科事典(旧版)内の軍記文学の言及
【将門記】より
…現存する伝本がいずれも巻首を欠いているため,その全容を知ることができないが,本書の記事を抄録した《将門記略》などによると,将門の皇胤としての系譜を述べる堂々とした書出しであったらしく,〈女論〉(女性をめぐるトラブル)から将門がその伯父たちと対立し,その同族間の紛争が拡大して,東国を舞台とする反乱事件へとエスカレートするてんまつ,関八州を制圧してみずから〈新皇〉と称したのもつかのまで,その後軍兵たちを帰休させたすきを下野国の押領使藤原秀郷(ひでさと)らに奇襲され,奮戦むなしく本拠地の石井付近であっけなく滅亡するまでの経緯を,実録的な筆致で克明に描き出しており,首尾整った一編の独立した作品としての体裁を示している。この反乱事件については,公の立場からの追討記録と思われる《将門誅害日記(まさかどちゆうがいにつき)》があり,また同時代の藤原純友(すみとも)の西海での反乱(藤原純友の乱)を扱った《純友追討記》のような作品があるが,これらの追討記事と違って,本書の場合は,その叙述の視点が反逆者である将門にきわめて近いところにすえられているのが大きな特色で,そこにこの書の〈軍記文学〉としての独自な展開と意義を認めることができる。文体は和臭の強いいわゆる変格漢文で,すこぶる難解だが,故事の引用や比喩などの文飾に独特な味わいがあり,ことにその戦闘の叙述はリアリティと迫力に富んでおり,のちの軍記文学の萌芽を思わせるものがある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」