六訂版 家庭医学大全科 「頭蓋底骨折」の解説
頭蓋底骨折
ずがいていこっせつ
Basal skull fracture
(外傷)
どんな外傷か
頭蓋骨の底面である頭蓋底は、でこぼこして多くの
髄液漏とは、頭蓋底骨折をとおしてなかの脳脊髄液がもれ出てくる状態です。出てくるのは耳の穴(
頭蓋底の孔の多くには、脳から出て顔面や内臓に至る脳神経がとおっています。この孔に骨折が及ぶと、なかをとおっている脳神経を傷つけて脳神経麻痺を来すことがあります。
原因は何か
頭蓋冠の骨折と同じく、骨折部位への直接の衝撃が原因です。
頭蓋冠の骨折が頭蓋底にまで及ぶ場合と、
症状の現れ方
当初は髄液漏として認められる場合がほとんどです。
目のまわりが黒くなる「パンダの目」徴候や、耳の後ろの生え際が黒くなる「バトルサイン」は、頭蓋底骨折を疑う徴候とされています。
脳神経麻痺は遅れて現れることもあり、頭蓋底骨折と診断された場合には受傷後1週間は要注意です。
前頭蓋底骨折では嗅覚(きゅうかく)障害、側頭骨骨折では受傷側半分の顔面の運動麻痺や聴覚障害が現れます。前頭蓋底骨折のひとつである視神経管(ししんけいかん)骨折では、視力障害を来します。
検査と診断
X線写真や頭部CTでは骨折の診断が難しいことが多く、髄液漏があれば頭蓋底骨折と診断されます。CTにおける気脳症の所見は、髄液漏の存在を示します。髄液漏では耳あるいは鼻の穴から無色透明な液体、あるいはさらさらした血液が流れ出ます。髄液鼻漏では鼻汁との区別が必要になることがあり、簡便には試験紙で髄液の成分(糖)を検出します。
側頭骨骨折は、局所の精密なCT(側頭骨ターゲットCT)で診断されます。視神経管骨折は、局所の精密なCT(
治療の方法
頭蓋底骨折に伴う髄液漏あるいは脳神経麻痺に対する治療が行われます。
髄液漏に対しては、1~3週間程度の絶対安静により頭蓋底からの髄液の流出を抑え、癒着による漏孔の自然閉鎖を期待します。外傷性髄液漏の50~80%は1~3週間以内に自然に止まるとされています。また、髄膜炎に対する抗生物質の点滴注射を行うことがあります。腰から脳脊髄液を抜く処置を併用する場合もあります。
日本のガイドラインでは、1~3週間の絶対安静を行っても髄液漏が止まらない時や、いったんは止まった髄液漏が再発した場合、髄液漏が遅れて起こった場合を手術適応の基準としており、
脳神経麻痺に対しては、傷ついた脳神経の障害を抑えるため、通常はステロイド薬などによる薬物療法が行われます。
視神経管骨折や側頭骨骨折に対しては、骨折による脳神経の圧迫・損傷を取り除くため、手術が行われる場合があります。
脳神経麻痺の予後は、損傷を受けた脳神経の種類により異なります。
並木 淳
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報