中日辞典 第3版の解説
[少知識]代词
代詞とは,人・事物・動作・性質などに言及するのに,それらを直接に述べず,話し手・場面・文脈などとの関係をとらえて表現する種類の語である.
代詞という名称は,人・事物を表す名詞,動作・状態を表す動詞,性質を表す形容詞,副詞などの代わりにこれらが用いられるという解釈からつけられたものである.従って,他の品詞とは異なり,代詞の文法的な働きはさまざまである.代詞全体は人称代詞・指示代詞・疑問代詞の3種類に分けられる.
❶ 人称代詞
人称代詞には,“我(们)”(私(たち)),“咱
(们)”(私(たち)),“你(们)”(あなた(たち),君(たち)),“您 ”(((目上の人に))あなた),“他(们)”(彼(ら)),“她(们)”(彼女(たち)),“它(们)”(((人間以外の事物・動物の))それ(ら)),“人家”(ひとさま.あの人),“别人”(他の人),“大家”(みんな),“自己”(自分)などがある.“们”を加えた人称代詞は複数を表す.これらの語を用いた場合,言い表された人物については話し手自身との関係,あるいは話題の人物との関係しか言葉の表面には表れない.そのため,電話をかけて先方から“谁
?”(だれ)と聞かれて“我”(私だ)と答えても,だれだかわかってもらえないこともある.しかし一方,話しかける相手の名前を知らない場合でも,その人のことを“您”で表現して,您贵姓?/お名前はなんとおっしゃいますか.
と言うことができる.
“他”は「彼」,“她”は「彼女」と訳すのが普通だが,中国語では自分の父母や親族,目上の人,知らない人を話題にする中で“他”“她”を用いることがある.そういう場合は日本語の訳に工夫が必要となる.
❷ 指示代詞
指示代詞の根幹となるのが“这
”(これ),“那 ”(あれ)である.ただし,“这”“那”単独の形式は,通常“是”が述語となる文の主語にのみ用いられ,それ以外の位置では直後に数量詞を伴った形式によって「これ」「あれ」が表される.量詞は指示対象に応じて変化するので,「これ」「あれ」の言い方は多様である.这是我的钱包/これは私の財布です.
我要的就是这(一)本/(1冊の本を手に取って)私が欲しいのはこれです.
なお,量詞“个”は広い範囲で用いられるため,「これ」「あれ」の意味ではそれぞれ“这个”“那个”が頻繁に用いられる.
対象が複数である場合,数が特定できていれば通常数量詞で数を明示する.
那三辆都是我的车/あれら3台はみな私の車です.
数が特定できない「これら」「あれら」は,それぞれ“这些”“那些”と言う.
以上のパターンは,いずれも名詞の前に置いて,「この…」「これらの…」「あの…」「あれらの…」という連体修飾語となることができる.
这孩子/この子
这(一)本书/この本
那三辆车/あの3台の車
那些人/あれらの人
“这”と“那”のどちらを使うかは,話し手と対象の距離によって決まる.
対象が話し手の近くにあれば“这”,遠くにあれば“那”が用いられる.
なんであるかわからないものについて人に尋ねる時,尋ねるものがなにかをまず相手に伝えなければならない.わからないもののことをなんとか表現しなければならない.そういう時,指示代詞を用いれば,物が話し手から近くにあれば“这”,遠くにあれば“那”と言って,
这〔那〕是什么?/これ〔あれ〕はなんですか.
のように簡単に目的を達することができる.
また,聞き手が話し手のすぐ近くにいる時は,物を言い表すのに具体的な名詞を用いず,それが自分の近くにあるものか遠くにあるものかという面だけをつかんで言うだけでも十分に話が通じる.だから,買い物の時には目の前の商品を指差しながら
我买这个/これをください.
のように“这个”と言うだけですませることができる.
“这”“那”を場合に応じて「それ」と訳すこともあるが,日本語の「それ」は物が聞き手に近いという,聞き手と物との関係をとらえた表現で,それが話し手から近いか遠いかは問題にしない.よって,日本語で「それ」と表現されているものを中国語で表す時には,近ければ“这个”,遠ければ“那个”を用いればよい.
指示代詞にはそのほか,場所を表す“这儿”(ここ),“那儿”(あそこ),方式・状態を示す“这么”(このように),“那么”(あのように)などがあるが,いずれも“这”“那”によって構成されている.
❸ 疑問代詞
疑問代詞の主なものには,“什么”(なに),“谁”(だれ),“哪”(どの.どちら),“哪儿”(どこ),“哪里”(どこ),“多会儿”(いつ),“怎么”(どうして.どのように),“怎(么)样”(どのような),“几”(いくつ),“多少”(どれくらい)などがある.このうち“几”“多少”は「疑問数詞」とされることもある.
疑問代詞は,話し手が人・事物・動作・性質などを話し手との関係の面から表現する代詞の一種であるが,この関係が,特定できない,あるいは特定しないという不定関係であるところが,人称代詞・指示代詞と異なるところである.
人にものを尋ねるということは,対象の事物についてそれはなにか,どのような性質か,どのような状態かなどについて話し手が確定できないという,自分との間の不定関係をとらえて表現しながら,同時にそれを具体的に示すよう聞き手に求めるということにほかならない.たとえば,相手に食べたいものを尋ねる時は,
你吃什么?/なにを食べますか.
のように,わからないものを“什么”と表現する.
不定関係において事物をとらえて表現する代詞は,こうしてもっぱら疑問の表現に用いられるため,疑問代詞と呼ばれている.
しかし疑問に限らず,不定関係で対象をとらえる表現にはすべてこの疑問代詞が用いられる.たとえば,
我想吃点儿什么/私はなにか食べたい.
では,話し手にとって食べたいものは不定関係にあるから“什么”と表されているし,
什么都可以/なんでもけっこうです.
では,“可以”(よい.かまわない)といわれるものは,話し手にとって特定のあれやこれではなく,不定関係にあるものであるから“什么”と表現されるのである.
このように疑問代詞という名称で呼ばれてはいても,その用法は疑問だけに限らず多様である.
また,疑問代詞“什么”を他の語と組み合わせた“什么时候”(いつ),“什么地方”(どこ),“为什么”(なぜ)などは文法的には句であるが,実用的にはそれぞれひとつの疑問代詞のように用いられる.