中日辞典 第3版の解説
[少知識]离合词
❶ 離合詞とは
2音節の動詞で,二つの構成要素の間に「動詞+目的語」の関係が成り立つものの中には,各要素に他の要素を付加することによって動目フレーズを新たに作り出せるものがある.たとえば,“跳舞”(ダンスを踊る)は「“舞”(ダンス)を“跳”する(踊る)」という「動詞+目的語」の構造を持つ一つの動詞であるが,“跳”の直後に動態助詞(アスペクト助詞)“了”を加えて“跳了舞”(踊った)とすることもできるし,また“舞”の直前に“爵士”(ジャズ)を加えて“跳爵士舞”(ジャズダンスを踊る)とすることもできる.他の要素が付加された結果,もともと隣接していた“跳”と“舞”は離れることになる.以上のような特徴を持つ動詞を,「ついたり離れたりできる」という点に着目して「離合詞」と呼ぶ.
以下,離合詞の第1要素を「V」,第2要素を「O」でそれぞれ代表する.
❷ Vに付加される要素
まずVに着目すると,既に触れた動態助詞のほか,結果補語,方向補語,数量詞などのうち一つまたは複数が後続し,Oと隔てられることがある.
洗澡
(入浴する)洗完澡/入浴し終える.
散步
(散歩する)散一会儿步/しばらく散歩する.
离婚
(離婚する)离过一次婚/一度離婚したことがある.
離合詞を重ね型にする場合は,Vのみを重ねる.
理发
(散髪する)理理发/ちょっと散髪する.
点头
(うなずく)点了点头/軽くうなずいた.
様態補語を従える場合は,VOの後に再びVを置き“VOV得~”という形式になる.
起床(起きる)
起床起得很早/起きるのが早い.
吵架
(口論する)吵架吵得很凶
/激しい口調で口論する.❸ Oに付加される要素
続いてOに着目すると,直前にさまざまな修飾語が加えられ,Vと隔てられることがある.
滑冰
(スケートをする)滑旱
冰/ローラースケートをする.存款
(預金する)存一笔款/一定額の預金をする.
上当
(だまされる)上他的当/彼にだまされる.
演戏
(芝居を演じる)演一场好戏/よいひと幕を演じる.
“什么”を修飾語として置いて疑問文あるいは反語文を作ることもできる.
打工(アルバイトをする)
打什么工?/何のアルバイトをしてるの.(アルバイトなんかしてどうするんだ).
着急
(焦る)着什么急?/どうして焦ってるの.(焦ってどうするんだ).
❹ 離合詞は目的語を従えることができない
日本語では「大学を卒業する」と言うが,中国語の“毕业”(卒業する)は“大学”を目的語にとることができない(ただし後述する通り例外もある).これは“毕业”が離合詞であり,V+O自体が既に目的語を含んでいるためその後ろにさらなる目的語を取りにくい事情によるものと考えられる.
この点は,あらゆる離合詞に共通する顕著な特徴の1つとして注意を要する.なお,「大学を卒業する」は“大学毕业”となるが(書面で出身大学や学部学科を紹介する際には“毕业于北京大学医学系”(北京大学医学部卒)といった言い方もある),他の動詞であれば目的語として現れるような要素が離合詞の場合どのように現れるかというパターンはいくつかあり,どの離合詞がどのパターンを取るかは個別に覚えていかなければならない.
①介詞を用いる場合
亲嘴
(キスする)跟他亲嘴/彼にキスする.
求婚
(プロポーズする)向女友求婚/ガールフレンドにプロポーズする.
照相
(写真を撮る)给大家照相/皆をカメラに収める.
②Oの修飾語として現れる場合
帮忙
(手伝う)帮你的忙/君を手伝う.
告密
(密告する)告他的密/彼を密告する.
请客(ごちそうする)
请我的客/私にごちそうする.
①と②の双方が可能なものもある.
生气
(腹を立てる)对他生气〔生他的气〕/彼に腹を立てる.
送礼
(プレゼントする)给她送礼〔送她的礼〕/彼女にプレゼントする.
❺ 離合詞の多様性
離合詞の中には,次のように用いられるものもある.
破案
(事件を解決する)把那个案破了/その事件を解決した.
撒谎
(嘘をつく)这个谎不能撒/こんな嘘はついてはいけない.
结婚(結婚する)
连婚也不结/結婚さえもしない.
これらの例では,VとOが互いに隔たっているだけでなく,本来のVOの順序と異なりOがVに先行している.
こうした例や,VとOのどちらにも他の要素を付加できるという先に見た状況を考えあわせると,離合詞のいわば「1語でありながらまるで2語のようにふるまう」特性が鮮明に見て取れる.もっとも,あくまで「まるで」であり,離合詞が1語であることがそれによって覆されるわけではない.たとえば,“破案”は“破了那个案”や“把那个案破了”のように言えるが,“那个案”と言えるのはあくまでも“破”と共に用いられているからであり,単独で「その事件」と言いたい場合,通常“那个案”は使えず,“那个案子”と言わなければならない.同様に,“这个谎”“婚”もそれぞれ“撒”“结”なしに単独で使うことはできない.VとOが常に共に文中に現れていなければならない以上,おのおのを独立した1語と認めることは適当でない.
また,VとOの独立性の度合いは一様ではなく,たとえば“破产”(破産する)は“×把这个产破了”のようにOをVに先行させることができない.
さらに,VとOの独立性が低く,VO全体で動詞1語のように振る舞うものもある.たとえば“留学”(留学する)は一般に離合詞とされ,規範的には「一度留学したことがある」は“留过一次学”が正しいとされるが,実際には“留学过一次”という形もかなり多く使用される.
また,“起草”(起草する)は,“起了个草”(一つ起草した)となる反面,“×一个草”が単独で言えないことから紛れもない離合詞であるが,例外的に直後に目的語を従え,“起草宪法”(憲法を起草する)と言うことができる.あたかも“起草”全体が一つの他動詞であるかのようである.
以上のように,一くくりに離合詞と言っても,おのおののふるまいは多種多様であるという点には注意が必要である.