中日辞典 第3版の解説
[少知識]被动句
主語が,ある動作・行為を受ける表現を「受け身の表現」とすると,中国語のそれには次の二つが挙げられる.
ここでは受動文(“被动句”)について述べる.
❶ “被”を用いる受動文
現代中国語のもっとも典型的な受動文(“被动句
”)は介詞“被 ”を用いるもので,鱼
被猫 吃了/魚はネコに食べられた.小王被老师批评
了一顿/王くんは先生にひとしきり叱られた.那本书被李同学借走了/その本は李くんに借りていかれた.
孩子被电话铃声
惊醒 了/子供は電話のベルに驚いて目を覚ました.のように「受動者(動作・行為の受け手)+“被”+動作主(動作・行為の送り手)+動詞」の語順で用いられる.“被”はもともと「(好ましくないこと,不運なことに)遭遇する」という意味であり,中国語の受動文も本来,主語にとって望ましくないことを述べる場合にのみ使われてきた.しかし,現在の中国語では,
他被公司派到
北京 去了/彼は会社によって北京に派遣された.她被我们选为
代表 了/彼女は私たちにより代表に選ばれた.のような例も見られる.これは受け身構文の用法の拡大を示すものである.
なお,日本語で通常受け身表現を使わないような出来事が,中国語ではしばしば受動文で表されることもあるので注意が必要である.
钥匙
被我弄丢了/私は鍵を失くした.电脑被哥哥修好了/兄がパソコンを修理した.
我被她的服务
态度感动了/私は彼女の接客態度に感動した.衣服被树枝
挂了一个口子/服が木の枝に引っかかって穴が開いてしまった.以上の文では,“被”の後に動作主が置かれているが,それが不特定の人である場合は“我的钱包
被人偷 了”(私の財布は人に盗まれた)のように“人”を置く.また,“被”の後にくる動作主は,それを述べる必要がなかったり,明示できない場合には脱落し,他被选为小队长
了/彼は小隊長に選ばれた.封建制度
被推翻 了/封建制度は覆された.のように“被”の後に直接動詞が続く.この動詞の直前に置かれた場合の“被”は,介詞ではなく,受け身を表す助詞とされることもある.
❷ “叫”“让”“给”を用いる受動文
話し言葉では,以下のように,“被”に代えて介詞の“叫
”または“让 ”が用いられることが多い.我的自行车叫她借走
了/私の自転車は彼女に借りていかれた.这个秘密
不能叫人知道/この秘密はだれにも知られてはいけない.我的点心都让妹妹吃光了/私のおやつはひとつ残らず妹に食べられてしまった.
风筝
让风刮跑 了/たこが風に吹き飛ばされた.ただし,“叫”や“让”を用いた場合には,その後の加動者は一般には省略できない.
このほか“给
”にも,刚才
说的都给人听见 了/さっき話したことはみな人に聞かれてしまった.衣服都给雨
淋湿 了/服はすっかり雨に打たれてぬれた.のように“叫”“让”などと同様の介詞としての用法があるが,これは方言から来たものといわれる.
❸ その他の受動文
話し言葉では,以上のほかに,
那瓶酒叫他给喝了/そのボトルの酒は彼に飲まれた.
那个工人叫火车
给轧死 了/あの労働者は列車にひかれて死んだ.のような“叫……给……”(“叫”の代わりに“让”も用いる)の形式の構文も見られる.これは介詞“叫”(あるいは“让”)に加えて助詞“给”を呼応させて受け身の意味をさらに明確にしたものである.
このほか,書き言葉に“为
所 ”(“被……所……”ともする)の形式の構文が見られるが,これは文言(古文)から入ったものである.这个理论已经为实践
所证明/この理論は既に実践によって証明されている.他深深
地为这部文学作品 所吸引 /彼はこの文学作品に強く引かれた.受動文以外にも,“挨
”“遭 ”“受 ”など少数の動詞はそれ自体が受け身の意味をもっており,これらを使った文では受け身を表す介詞を用いずに受け身の意味が表される.他挨老师批评
了/彼は先生に叱られた.去年这一带遭了两次水灾
/去年この一帯は2度の水害に見舞われた.他受到了表扬
/彼は表彰された.これらの延長線上には,“受人欢迎”“引人注目”“讨人喜欢”といった慣用的表現も存在する.
韩剧在中国很受人欢迎/韓国ドラマは中国で人気がある.
这个广告非常引人注目/この広告は非常に人目を引く.
她的笑容
很讨人喜欢/彼女の笑顔はみんなに愛されている.さて,以下のような文の主語はいずれも受動者で,主語と述語の意味関係から受け身の意味が表現されているので,いわゆる意味上の受動文と言われてきた.
习惯
改变 了/習慣が改められた.这个问题
已经解决 了/この問題はすでに解決された.期盼
已久的新书终于出版了/長いこと待ちわびていた新著がついに出版された.这个城市开放得比较早/この都市は比較的早く開放された.
しかし,そもそも中国語では,述語動詞に対する主語の意味役割にはさまざまなものがあり,これらの主語が受動者である文も,他の主語と別扱いにする必要はなく,受動者主語文(“受事主语句”)として,受動文としては扱わないのが一般的である.