[1] 〘格助〙
① 格助詞「と」に相当する上代東国方言。引用を示す。
※
万葉(8C後)二〇・四三四六「父母が頭
(かしら)かき撫で幸
(さ)くあれ
弖(テ)いひし言葉
(けとば)ぜ忘れかねつる」
② 現代口頭語。
※姪子(1909)〈伊藤左千夫〉「お前とこのとっつぁんも、何か少し加減が悪いやうな話だがもう
えいのかい
て、聞くと」
(ロ) (イ)の
用法の下に続く「言う」の語を略した用法。…という。
※義血侠血(1894)〈泉鏡花〉五「まあ
野暮を云はずに取ときたまへ
てことさ」
[2] 〘接助〙 (完了の助動詞「つ」の連用形から)
[一] 活用語の連用形を受けてそこまでの部分をいったんまとめあげ、さらに
後続の部分へとつなげる役割を果たす。その関係のあり方から幾つかの用法に分けられる。受ける連用形が撥音便化している場合は濁音化して「で」となる。中世以後、バ行マ行四段動詞のウ音便形に続く場合も同様。
※
書紀(720)武烈即位前・
歌謡「石
(いす)の上
(かみ) 布留を過ぎ
底(テ) 薦枕(こもまくら) 高橋過ぎ 物多
(さは)に 大宅過ぎ」
※万葉(8C後)五・八一三「真珠なす 二つの石を 世の人に 示し給ひ弖(テ) 〈略〉御(み)手づから 置かし給ひ弖(テ) 神ながら 神さびいます」
※
今昔(1120頃か)二六「水の面に、草よりは短く
て、青き木の葉の有るを」
② 確定条件を表わす。
(イ) 順接の場合。
※
古事記(712)中「手足わななき
弖(テ)〈此の五字は音を以ゐよ〉得殺したまは
ざりき」
※方丈記(1212)「風烈しく吹きて、静かならざりし夜」
(ロ) 逆接の場合。
※万葉(8C後)四・六三二「目には見而(テ)手にはとらえぬ月のうちの桂の如き妹をいかにせむ」
※源氏(1001‐14頃)薄雲「いだきおろされて、泣きなどはし給はず」
③ 仮定条件を表わす。
(イ) 順接の場合。「ては」の形になる事が多い。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「我さへうち捨てたてまつりて、いかなる様にはふれ給はむとすらん」
(ロ) 逆接の場合。…ても。
※今昔(1120頃か)一〇「命を持(たも)つと云て、遂に不死ざる者无し」
④ 連用修飾の関係を表わす。
(イ) 下の用言を修飾限定する場合。下の用言が「見ゆ」「思う」「覚ゆ」等の感覚動詞の場合はその内容が示される。
※竹取(9C末‐10C初)「三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり」
※野菊の墓(1906)〈伊藤左千夫〉「何事が起ったかと胸に動悸をはずませて帰って見ると」
(ロ) 補助動詞に続く場合。→補注(1)(2)。
※古事記(712)上「いたくさやぎ弖(テ)〈此の七字は音を以ゐよ〉有(あり)那里(なり)」
※土左(935頃)発端「男もすなる日記といふものを、女もしてみんとてするなり」
※謡曲・隅田川(1432頃)「これは武蔵の国隅田川の渡し守にて候」
※浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)下「ちょっと呼ふで来て下され」
⑤ 連体修飾の関係を表わす。
※竹取(9C末‐10C初)「此子を見つけて後に竹取るに」
[3] 〘終助〙
① 文末にあって詠嘆を表わす。主として近世以後の用法。
※歌舞伎・三十石艠始(1759)序幕「イヤもう貴様は念を入れて稽古なさるる事はござらぬて」
② 連用形を受けて上昇のイントネーションを伴い、質問・反問等を表わす女性語。優しさと親しみが感じられる。
※蓼喰ふ虫(1928‐29)〈谷崎潤一郎〉六「あたしでも美人に見えて?」
③ 連用形を受けて「てよ」の形で、自分の意見や判断を伝える女性語。→
ってよ。
※家族会議(1935)〈横光利一〉「道理で仁礼さんにお逢ひしましてよ」
④ 依頼の気持を表わす現代語。「…てください」「…てくれ」「…てちょうだい」((二)(一)④(ロ)の用法)の「ください」「くれ」「ちょうだい」を省略したもの。
※蓼喰ふ虫(1928‐29)〈谷崎潤一郎〉六「ちょいとお母さんの喉に触らして」
[補注](1)「源氏‐東屋」の「大輔などが、若くてのころ」や、「源氏‐若菜下」の「生きての世に」の例は「若くてありし頃」「生きてありし世」等の短絡的表現と思われる。
(2)近世には「ている」の「いる」を省略した特殊な用法が現われる。歌舞伎の「一心二河白道‐二」の「『それは妹ぢゃ、どれにゐる』『お竹と申し飯炊(めしたき)してぢゃ』」や「傾城江戸桜‐中」の「知ってなら教へてたも」等。