クロッカス(英語表記)Crocus

デジタル大辞泉 「クロッカス」の意味・読み・例文・類語

クロッカス(crocus)

アヤメ科多年草。早春、コップ状の黄・紫・白色などの花を開き、のち線形の葉が伸びる。ヨーロッパ北アフリカ西アジアの原産。寒さに強く、観賞用に栽培され、多くの品種がある。花サフランクローカス 春》「日が射してもう―咲く時分/素十

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精選版 日本国語大辞典 「クロッカス」の意味・読み・例文・類語

クロッカス

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] crocus )
  2. アヤメ科サフラン属の属名で同属植物の総称としても用いる。世界に約七五種あり、とくに園芸上はふつう春咲き種だけをさし、秋咲き種をサフランという。
    1. [初出の実例]「英語にサッフロン、羅甸語にクロカス、サチバ等のありて」(出典:東京日日新聞‐明治二二年(1889)一一月一六日)
  3. アヤメ科の多年草。ヨーロッパ、北アフリカ、西アジア原産で、観賞用に花壇や鉢植えとする。地中にある径三センチメートルぐらいの球根からごく細い剣状の葉と数本の花茎を出す。春、各花茎の先端に長さ約四センチメートルの漏斗(ろうと)状の六弁花を単生する。花の色は紫、白、白地に青絞りなどある。似た種類で鮮黄色の花の開くものをキバナサフランという。花サフラン。紫サフラン。春サフラン。《 季語・春 》
    1. [初出の実例]「チューリップと、ヒアシンスと、クロッカスとの球根を買って来て」(出典:球根(1921)〈寺田寅彦〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「クロッカス」の意味・わかりやすい解説

クロッカス
Crocus

アヤメ科サフラン属Crocus球根植物。別名ハナサフラン。クロッカスの仲間は地中海地方に約80種を原産するが,大別して春咲きと秋咲きの2群に分けられる。春咲きのクロッカスの名で園芸品種として栽培されているもののほとんどは,クロッカス・ベルヌスC.vernus(L.)Hillという品種から改良されたものである。3月上旬のまだ葉が十分伸びないうちに花が咲く。花は4~6cmのワインカップ形で,紫,白,黄のほか紫と白の絞り咲きがある。弓なりの細い葉は,花が終わったあとも伸びつづけ,20~30cmになって,夏には枯れる。代表品種はマンモス・イェロー(花は黄色),ジャンヌ・ダルク(白),リメンブランス(紫),フラワー・レコード(紫),キング・オブ・ザ・ストライプド(白に紫縞),ツイン・ボール(白に紫縞)。秋咲系の種の代表としてサフランがある。8月から9月にかけて植え付けると,藤紫色の大輪花を10月に開花させる。オレンジ色めしべは昔から薬用として有名である。ごく早咲きで,寒さの厳しい2月から3月上旬にかけて咲くものは,冬咲系とされる。代表種のクロッカス・クリサンサスC.chrysanthus Herb.は品種数も多く,多花性。クロッカス類は冬の日当りと,排水のよい所であればどこでもよくできる。翌年の球根は母球の上に生ずるので,多めに5~6cm覆土する。春咲種は9~10月に植え付ける。クロッカスは茎が短縮肥大した球茎で1球から数個の芽が出て,普通7~8cm球で3~4輪の花をつけ,分球も多い。5月下旬に掘り取るが,庭植えの場合3~4年そのままにしても花が咲く。また水栽培も簡単にできるし,ボール状にした水ごけに球根を埋め込んでもおもしろい。
執筆者:

ギリシア神話によればクロッカスは,スミラクスSmilaxというニンフに恋い焦がれて死んだ美青年クロコスKrokosが変身した花とも,カウカソス山に縛られたプロメテウスの血から生じた花ともいう。ローマ人たちは浴槽や寝床や宴の席にこれをまき,香りを楽しんだが,当時はサフランを指す名であったらしい。恋愛,魔術,さらには死とも結びつく花だが,一方春先に開花するので希望や青春の象徴ともされた。イギリスへは12世紀のヘンリー1世時代十字軍の手で持ち込まれたとされ,女官たちが染髪料としてこれを濫用したため,禁令が出されたこともあるという。この花はまた神経鎮静薬,健胃薬として用いられ,痛風にも効くとされる。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロッカス」の意味・わかりやすい解説

クロッカス
くろっかす
crocus

アヤメ科(APG分類:アヤメ科)の秋植え球根草。地中海沿岸や小アジアに約80種分布する。耐寒性は強く、花壇、鉢植えによい。クロッカス属は分類学的には六つの節に分けられるが、園芸的には春咲き種と秋咲き種に大別される。日本では、秋咲き種をサフランsaffron、春咲き種をクロッカスとよんでいる。球茎は扁平(へんぺい)で、径2~4センチメートル。葉は線形で、開花時あるいは開花後に伸長させ、長さ約10センチメートル。花は径5~7センチメートルの杯形で、1株に2~7個つける。花期は2月下旬から3月上旬。植え付けの深さ、用土などの栽培環境が悪いと、蛇腹のように伸び縮みする収縮根を出し、子球が移動することもある。現在の園芸品種は、ベルヌスC. vernus (L.) Hillが中心となってほかの原種と交雑してつくられたもので、主要品種は、紫青色系のニグロボーイ、アーリー・パーフェクション、リメンブランス、白色系のジャンヌ・ダーク、スノーストーム、黄色系のマンモス・イエロー、ゴールディ・ロックス、ラージ・イエローなどがある。絞り系では灰白色に紫の縞(しま)が入るストライプト・ビューティ、ストライプト・ドーナードがある。

 繁殖は分球により、10月ころ、日当りのよい砂質壌土に深さ5、6センチメートルに植え付ける。翌年6月、花が終わり葉が黄ばんできたら株を掘り上げ、葉付きのまま乾燥し、その後、球根を分けるなどして調整し貯蔵する。なお家庭では球根を掘り上げず、3~4年据え置き栽培すると、じゅうたん状に咲き、美しい。

[平城好明 2019年5月21日]

文化史

クロッカスの栽培は、薬用としてのサフランに始まる。古代には貴重で、柱頭を乾かした粉は香料、調味料、染料、薬用のほか、高貴な女性の眉(まゆ)染めやマニキュアにも使用され、紀元前15世紀以前のクレタ文明は、サフラン貿易の利潤によって栄えたとの見方もある。イギリスには14世紀に伝えられ、以後18世紀に至るまで、イギリス南部にサフラン産業が続いた。花卉(かき)としてのクロッカスは、1597年にイギリスの博物学者ジェラードが5品種、ついで1629年にパーキンソンが27の春咲き品種と四つの秋咲き品種を記録した。それが1700年には48品種に増加した。

[湯浅浩史 2019年5月21日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クロッカス」の意味・わかりやすい解説

クロッカス
Crocus

アヤメ科の球根植物。本来はサフラン属の属名であるが,通常はハナサフランなど観賞用に栽培される一群の種類の総称として使われる。いずれも小型の球根植物でヨーロッパ中南部から北アフリカに原産し,主としてオランダで改良されて多くの園芸品種がつくられた。最も代表的なハナサフラン C. vernusは南ヨーロッパ原産で,押しつぶしたような扁球形の球根から,鞘に包まれた松葉状の葉を出し,春早く紫,白などの6弁のらっぱ状の花を上向きにつける。日が当ると開花し夕方にしぼむ。同じく春咲きで,他にさきがけて黄色の花をつけるキバナハナサフラン C. aureusは Dutch crocusとも呼ばれ,日本でもごくなじみの深い花である。原産はギリシアから小アジアで,オランダで改良された。

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百科事典マイペディア 「クロッカス」の意味・わかりやすい解説

クロッカス

南欧〜小アジア原産のアヤメ科の球根植物。野生種は約75種知られており,それらの交雑による園芸品種も多数ある。花期が9〜10月の秋咲種と,2〜3月の春咲種に分けられ,ふつう花壇・庭園・鉢植・水栽培等には後者が作られている。葉は線状で中央に白線があり,繊維状の外皮に包まれた球根から数個の芽を出し,それぞれの芽の中央から1輪ずつ上向きに花を咲かせる。花被片は6枚で,黄・白・紫,またしま模様などがあり,花柱は普通3裂している。球根の植付けは秋咲種は9月上旬,春咲種は10月,日当りのよい場所に,2〜3cm程度覆土する。耐寒力は強く防寒は不要。薬用にされるサフランは秋咲種の一種。

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世界大百科事典(旧版)内のクロッカスの言及

【サフラン】より

…観賞用に広く栽培されるアヤメ科の球根植物(イラスト)。もともとは薬用または染料用に利用するために栽培された。小アジアまたは南ヨーロッパの原産と考えられているが,確かなことはわからない。花茎は高さ10cm程度。茎頂に直径3cmほどの香りのよい淡紫色の花をつける。花期は10~11月。花被片は6枚。おしべは3本で,葯は大きく黄色でよく目だつ。花柱は3本に分かれ,鮮やかな橙赤色。赤い花柱,黄色の葯と淡紫色の花被のコントラストが美しい。…

※「クロッカス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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