日本大百科全書(ニッポニカ) 「スリ」の意味・わかりやすい解説
スリ
すり
Pickpocket
フランス映画。1959年作品。監督ロベール・ブレッソン。犯罪と承知のうえでスリ行為を重ねる孤独なインテリ青年の生き方とその顛末(てんまつ)を、冷徹な正確さで描写する。心理主義的な感情表現や劇的な抑揚をことごとく排した禁欲的な手法によって、罪と罰、贖罪(しょくざい)などのテーマを浮かび上がらせるブレッソンの代表作である。非職業俳優の起用、スリを働く手と一連の鮮やかな手際を、その即物的な官能性においてとらえる凝視のまなざし、厳格な画面作り、音の緻密(ちみつ)な構成、切れ味の鋭い編集など、単純明晰(めいせき)で一切の無駄がなく、力強い独特のスタイルが高い評価を受けた。1950年代に確立したこのような映画作りの美学をブレッソンは以後も貫いていく。
[伊津野知多]