ブラン(イプセンの詩劇)(読み)ぶらん(英語表記)Brand

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ブラン(イプセンの詩劇)
ぶらん
Brand

ノルウェーの劇作家イプセンの五幕の詩劇。1866年作。主人公の牧師ブランは、あらゆる妥協を排し、「一切(いっさい)か無か」を信条として、ノルウェー西海岸のフィヨルドの村で、理想社会の建設に精魂を傾ける。ただ聖書だけを心のよりどころとして、自分の幸福を少しも顧みない。浅薄な村長の人道主義、財産作りに余念のない母親、さては断崖(だんがい)の上で踊り狂っている恋人たち、すべてに彼は不満で、しだいに堕落した時代全体に戦いを挑む形になる。それでも最後に念願の新しい教会が完成するが、そのときはすでに最愛の母も妻も子もすべて失っていた。彼は不思議な寂しさを感じて教会を去って雪に覆われた山へ登ってゆくが、雷鳴雪崩(なだれ)のなかに倒れて死ぬというのが粗筋。この作は当時の作者の戦闘的理想主義を遺憾なく示した作として世界を驚かし、それまでほとんど無名だったイプセンを、たちまち世界文学の第一線に押し出した作品である。「ブランは最上の瞬間の私自身だ」と作者はいっている。

[山室 静]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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