改訂新版 世界大百科事典 「ラーマ」の意味・わかりやすい解説
ラーマ
Rāma
インドの二大叙事詩の一つ《ラーマーヤナ》の主人公。アヨーディヤーを首都とするコーサラ国王ダシャラタの長男で,文武に秀で,ビデーハ国王ジャナカの娘シーターを妻にする。しかし,継母の陰謀のために亡命を余儀なくされ,シーターとともにダンダカの森で生活する。ランカーを首都とする羅刹の王ラーバナに妻を誘拐されるが,神猿ハヌマットと猿の軍隊の支援のもとに,ランカーを攻撃し,ラーバナを殺してシーターを救出する。アヨーディヤーに凱旋した彼は王位に就くが,国民の間にシーターの貞節を疑う声のあるのを知り,心ならずも彼女を捨てる。この悲劇的な英雄の物語はインドの人々にこよなく愛好され,数種のラーマ劇をはじめとする幾多の文芸作品により語り継がれてきた。元来はガンガー(ガンジス)川中流域に進出したアーリヤ民族が南方に遠征する際に活躍した英雄たちの業績を,ラーマという一人の理想的な偉人の冒険譚に託して伝説化したものと推定されるが,すでに《ラーマーヤナ》のうちで後代に成立したと思われる個所において,彼はビシュヌ神の化身(アバターラ)の一つとみなされている。後世,カースト制を否定したラーマーナンダは,ラーマとシーターの崇拝を中心にして宗教運動を行った。なお,インド神話において〈ラーマ〉と呼ばれる英雄には,このラーマ王子(ラーマチャンドラRāmacandra)のほかに,やはりビシュヌの化身の一つであるパラシュラーマParaśurāma(斧を持つラーマ)と,クリシュナの兄バララーマBalarāmaとがいる。
→ラーマーヤナ
執筆者:上村 勝彦
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